ヒロインに転生しましたけど、私、王太子より悪役令嬢が好きなんです。

ねーさん

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「お母様が私の事を覚えている?」
 ブラウン家の門の側でローゼが言う。ローゼの傍らに立つリリーが頷いた。
「ええ『あの子は私の事を恨んでいる』って言われてたわ」
「あの子とはローゼの事か…」
 サイオンが顎に手を当てて言う。
「ローゼが生きていると思っているのか、亡くなっていると思っているから亡霊だと言われているのかはわからないけれど…アメリア様はちゃんとローゼという娘がいる事はわかっておられるのじゃないかしら?」
「じゃあ今までは忘れた振りをしていたのか?」
「それも、アメリア様でないとわからないけれど…」
 お母様、私を覚えているの?

「サイオン殿下が気になりますか?」
 執務室で地図を広げて、窓の外の門の近くに立つローゼ、サイオン、リリーを眺めていたシドニーに、クレイグが声を掛ける。
「気に?いや…絵になる三人だな、と思ってな」
「そうですね」
 ローゼとサイオン殿下も歳が離れているが、こうして実際に見るとそんなに違和感はないんだな。
 そう、シドニーは思う。
「あそこにクレイグ君が加わっても違和感なく溶け込むだろうな」
「そうですかね?」
 もしも、あそこに自分が加わりリリーの隣に立てば…
「親子だな。どう見ても」
 自虐的に笑う。
「義伯父上?」
「いや、何でもない」
 シドニーは窓から目を逸らすと、地図へと視線を落とした。

-----

「あ、先生とアメリア様」
 道の向こうから、黒毛と栗毛の馬が駆けて来るのが見えた。
「お母様…」
 二頭の馬が門の側で止まる。
 ローゼは馬上で俯いているアメリアを見上げた。
「……」
 アメリアはローゼの方を見ない。それでも泣き腫らしたように目が赤いのがわかる。
 馬を降りたイヴァンは、アメリアへ手を差し出す。
「アメリア様」
「……」
 アメリアは無言でイヴァンの手を取り、馬を降りた。

 視線を上げると、ローゼと目が合う。
「…ロー…ゼ」
 泣きそうに顔を歪ませたアメリアの唇が動く。
 お母様が、私を、呼んで…
「お母様…」
 ローゼの瞳に涙が浮かんだ。

 二人で話したいというアメリアと、ローゼを庭の東屋に残し、サイオン、リリー、イヴァンは東屋の様子を伺える二階の客間にいた。
「彼がリリー様の想い人ですか」
 窓の外を指で示すイヴァン。東屋から少し離れた植え込みの影にシドニーとクレイグが立っていた。
「…もう振られました」
「は?」
 サイオンが瞠目する。
「あのお話はなかった事にしてくださいとお願いしているので…殿下も先生もその話はしないでくださいね」
「それは…では、卒業パーティーでの婚約破棄はやめて、もっと違う形にするか?」
「いえ。結婚相手の条件が多少良くなったとしても…私にとっては同じですから」
「…ああ」
 好きな人でなければ、誰でも同じ、か。
 その気持ちはわかるな。
 サイオンは「リリーのために少しでも良い相手を自分が探そう」と、そう思った。

「ローゼはアメリア様によく似ているのに、クレイグ殿にも似ていて…なのにクレイグ殿はアメリア様とは似ていない。何だか面白いな」
 イヴァンが外を見ながら言うと、リリーとサイオンも頷いた。
「しかしシドニー殿もだが、ローゼも含めて皆雰囲気は似ている。エンジェル家もブラウン家もかわいらしい顔立ちの系統だからな」
 サイオンが言うと、イヴァンは
「…確かにかわいらしい」
 と呟く。
「ん?」
「あ…いや…」
「ふーん。まあイヴァンはローゼが好きで、クレイグ殿にも惚れそうだったんだし、アメリア殿が好みでも不思議はないか」
 口角を上げてイヴァンを見るサイオンに、イヴァンは唇を尖らせる。
「クレイグ殿は漢気に惚れそうになったんであって、顔が好みな訳じゃないぞ」
 ぶつぶつと呟くイヴァンに、リリーが言う。
「アメリア様はこの間三十二歳になられたそうよ」
「俺たちより八歳歳上か。まあ老若男女が恋愛対象のイヴァンなら気にする程もない歳の差かな?」
「なっ何でローゼの母親が俺の恋愛対象なるんだ!?」
「ならないか?」
 サイオンがニヤリと笑ってイヴァンを見ると、イヴァンは目を逸らしながら言った。
「…ならなくもない、な」


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