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「…ローゼが生まれた時、あの人は本当に喜んで…ローゼをとてもかわいがって…幸せだと思っていたわ」
アメリアは東屋の椅子に座って膝の上で両手を握り合わせる。
「でも…ローゼが六、七歳くらいだったか…あの人が…子供を…買っているのを知ったの」
「え…?」
お母様はあの件まであの男が小児性愛者である事を知らなかったのではないの?
アメリアの向かい側に座ったローゼは驚きの表情を浮かべる。
「買っているのは知っても、その子供に何をしているのかまでは知らなくて…ううん。薄々感づいていたけど、私の前にちゃんと結婚した女性がいて、息子をもうけているんですもの、そんな訳がないわと否定していたの」
「……」
「それでローゼが八歳の時……」
アメリアは両手で顔を覆う。
ローゼはぎゅっと目を閉じる。
「…その時まで、まさか、自分の娘をそういう対象に見ているなんて、本当に思っていなかったわ。…嘘じゃないの。本当よ」
「……」
ローゼは無言で小さく頷く。
「ローゼを…娘を産ませるために私と結婚したのかと思うと…怖くて。怖くて…逃げたの」
「逃げた…」
「クレイグに全てを押し付けて、傷付いたローゼを放って、自分の方が傷付いた振りをして、実家へ逃げ帰ったの」
アメリアは顔を覆ったまま言う。
「でも私が帰ったせいで、お兄様は離婚して…ローゼはまだ幼いのに高位貴族の家へ行儀見習いという名の奉公に出されたと、クレイグがあの人から爵位を奪い幽閉したと聞いて…私が気付かない振りをしたせいで…逃げたせいで…」
「お母様のせいでは…」
首を横に振るアメリア。
「…それで病んでしまったのも本当で、湖で死のうとしたのも本当。私なんていない方が良いと思ったの…」
借金のカタとして結婚をする前、あの人と一緒に湖を訪れた。
キラキラと光る湖面を背景に「確かに私は父伯爵の借財を返済する代わりに貴女との結婚を求めましたが、それは本当に貴女が好きだからです」そう言ったあの人を真摯な人だと思ってしまった。
あの人が私と結婚したがったのは、私が年齢よりも幼く見えたから。娘を産ませるために、何より自らの性癖を隠すために、大人になる前に私を手に入れたかっただけ。私を好きだった訳ではない。
騙された、愚かな私が、不幸な娘を生み出して、周りも皆不幸になってしまった…
絶望感のままに、湖に足を踏み入れた。
「助けられて、目が覚めた時…結婚した事も娘を産んだ事も忘れていたのは本当なの。ただ辻褄の合わない記憶などで数年掛けて段々と思い出して…」
アメリアの瞳に涙が浮かぶ。
「……」
「思い出したら、ローゼはきっと自分を不幸の中に放っておいて、自分だけ全て忘れた母親を恨んで、憎んでいるに決まっていると思って…また怖くて。お兄様にも思い出した事を言えなくて…」
涙がパタパタとスカートに落ちた。
「…弱い母親で…ごめんなさい。ローゼ…」
「お母様」
ローゼは立ち上がり、アメリアの傍へと移動すると、傍にしゃがみ込む。
「お母様を恨んでなんかいないわ。私の方こそ、お母様に愛されていないと…産まなければ良かったと、疎まれていると思って…」
ローゼはそっと手を伸ばし、膝の上のアメリアの手に触れる。
「そんな事、ないわ」
アメリアはそのローゼの手をぎゅっと握る。
「愛しくて…ローゼに憎まれていると、知るのが怖かっただけなの」
「お母様…」
「ローゼ」
ローゼが立ち上がると、アメリアも立ち上がる。
二人は泣きながらぎゅうっと抱き合った。
-----
「俺とイヴァンはこれから王都に戻るが」
サイオンは乗馬用の手袋をつけなから言う。
「え?もう戻られるんですか?」
ソファに座ったローゼがそう言うと、サイオンは苦く笑う。
「ああ。明日の午後の公務はどうしても動かせなくてな」
「そうなんですか…」
「そんな淋しそうな顔をするな。折角だから母上と親交を深めてこれからの事を相談すれば良い」
そう言うとローゼの額にキスをする。
「はい」
「また時間を作って来る」
頬にキス。
「はい。でも無理はしないでください」
「ローゼに会わずにいる方が無理だ」
サイオンはそう言って、唇を軽く合わせた。
「…ローゼが生まれた時、あの人は本当に喜んで…ローゼをとてもかわいがって…幸せだと思っていたわ」
アメリアは東屋の椅子に座って膝の上で両手を握り合わせる。
「でも…ローゼが六、七歳くらいだったか…あの人が…子供を…買っているのを知ったの」
「え…?」
お母様はあの件まであの男が小児性愛者である事を知らなかったのではないの?
アメリアの向かい側に座ったローゼは驚きの表情を浮かべる。
「買っているのは知っても、その子供に何をしているのかまでは知らなくて…ううん。薄々感づいていたけど、私の前にちゃんと結婚した女性がいて、息子をもうけているんですもの、そんな訳がないわと否定していたの」
「……」
「それでローゼが八歳の時……」
アメリアは両手で顔を覆う。
ローゼはぎゅっと目を閉じる。
「…その時まで、まさか、自分の娘をそういう対象に見ているなんて、本当に思っていなかったわ。…嘘じゃないの。本当よ」
「……」
ローゼは無言で小さく頷く。
「ローゼを…娘を産ませるために私と結婚したのかと思うと…怖くて。怖くて…逃げたの」
「逃げた…」
「クレイグに全てを押し付けて、傷付いたローゼを放って、自分の方が傷付いた振りをして、実家へ逃げ帰ったの」
アメリアは顔を覆ったまま言う。
「でも私が帰ったせいで、お兄様は離婚して…ローゼはまだ幼いのに高位貴族の家へ行儀見習いという名の奉公に出されたと、クレイグがあの人から爵位を奪い幽閉したと聞いて…私が気付かない振りをしたせいで…逃げたせいで…」
「お母様のせいでは…」
首を横に振るアメリア。
「…それで病んでしまったのも本当で、湖で死のうとしたのも本当。私なんていない方が良いと思ったの…」
借金のカタとして結婚をする前、あの人と一緒に湖を訪れた。
キラキラと光る湖面を背景に「確かに私は父伯爵の借財を返済する代わりに貴女との結婚を求めましたが、それは本当に貴女が好きだからです」そう言ったあの人を真摯な人だと思ってしまった。
あの人が私と結婚したがったのは、私が年齢よりも幼く見えたから。娘を産ませるために、何より自らの性癖を隠すために、大人になる前に私を手に入れたかっただけ。私を好きだった訳ではない。
騙された、愚かな私が、不幸な娘を生み出して、周りも皆不幸になってしまった…
絶望感のままに、湖に足を踏み入れた。
「助けられて、目が覚めた時…結婚した事も娘を産んだ事も忘れていたのは本当なの。ただ辻褄の合わない記憶などで数年掛けて段々と思い出して…」
アメリアの瞳に涙が浮かぶ。
「……」
「思い出したら、ローゼはきっと自分を不幸の中に放っておいて、自分だけ全て忘れた母親を恨んで、憎んでいるに決まっていると思って…また怖くて。お兄様にも思い出した事を言えなくて…」
涙がパタパタとスカートに落ちた。
「…弱い母親で…ごめんなさい。ローゼ…」
「お母様」
ローゼは立ち上がり、アメリアの傍へと移動すると、傍にしゃがみ込む。
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ローゼはそっと手を伸ばし、膝の上のアメリアの手に触れる。
「そんな事、ないわ」
アメリアはそのローゼの手をぎゅっと握る。
「愛しくて…ローゼに憎まれていると、知るのが怖かっただけなの」
「お母様…」
「ローゼ」
ローゼが立ち上がると、アメリアも立ち上がる。
二人は泣きながらぎゅうっと抱き合った。
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「ああ。明日の午後の公務はどうしても動かせなくてな」
「そうなんですか…」
「そんな淋しそうな顔をするな。折角だから母上と親交を深めてこれからの事を相談すれば良い」
そう言うとローゼの額にキスをする。
「はい」
「また時間を作って来る」
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「はい。でも無理はしないでください」
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