73 / 83
72
しおりを挟む
72
気が付くと、ローゼは白い世界にいた。
上も下も、右も左も、見渡す限りの白。ホワイトアウトのように自分が真っ直ぐに立っているのかどうかもわからない。
自分の足先さえ見えなくて、一歩踏み出せば奈落かも知れないと思えば動く事もできない。
「何…ここ…」
自分の声も、無限に響くような、耳の中だけで響いているような、初めての感覚。
どうすれば良いの?
どうすれば…サイオン様やリリー様の元に戻れるの?
身じろぎもできず、ただ立ち竦むローゼ。
不意に目の前に自分の身体ほどの大きさの四角い映像が現れた。
「きゃっ!何…」
思わず一歩後退る。足元には地面のようなものがあり、奈落には落ちなかった。
映像にはぼんやりとした人影が映っているようだ。その人影が段々とハッキリとして来て…
「サイオン様!」
映像に、ピンクの髪の令嬢の肩を抱くサイオンの姿が映し出されている。
「これ…もしかして、スマホの画面?」
実物より大きいけれど、見慣れた縦横比。見慣れたサイオン、そしてヒロイン。
これ、ゲームの卒業パーティーだ。
サイオンがローゼの肩を抱いて、リリーを断罪し、婚約破棄を言い渡す場面。
舞台上に並び立つサイオンとローゼ。その二人の後ろに生徒会の面々。そしてイヴァン。
舞台の下にはリリーが跪いていて、その後ろに驚愕、恐怖、憤怒の表情の悪役令嬢たちが立っている。
何度も何度も何度も見た、クライマックスのシーン。
あそこにいるヒロインを蕩ける瞳で見ている人は誰?サイオン?確かに画面の中のサイオンはあんな風にヒロインを見ていた。けど。
あのローゼは私じゃないし、あのサイオンは私のサイオン様じゃない!!
ローゼは映像に向かって一歩踏み出す。
途端に映像が乱れて、映し出される画面が次々と変わっていく。
卒業パーティーの後、サイオンの部屋でキスをするサイオンとローゼ。
王城にある貴族が収監される部屋で一人泣き崩れるリリー。
婚約が発表され、幸せそうなサイオンとローゼ。
父公爵から勘当を告げられるリリー。
王太子妃教育に励むローゼと、見守るサイオン。
何もない独房で膝を抱えて膝に顔を埋めるリリー。
視察に同行し、海の見えるバルコニーで夕陽を見るローゼの後ろからハグをするサイオン。
独房の固く冷たい床に倒れているリリー。
「駄目!リリー様を断罪なんて絶対させない!」
その時、映像の中でローゼを背中から抱きしめていたサイオンが視線を上に上げて…目が合った。気がした。
「…サイオン様!」
映像に向かって手を伸ばす。
そのまま、引き込まれるような感覚。
あ、落ちる。
足元が抜け落ちたような感覚があり、ローゼは強く目を閉じた。
-----
「ローゼ!」
ハッとして目を開けると、サイオンが覗き込むようにローゼを見ていた。
「サ…イオン様?」
ここは私の部屋?
見慣れた天井が見える。ローゼは自分の部屋のベッドに横たわり、サイオンがベッドの傍らに跪きローゼを手を握っていた。
「クレイグ殿の執務室で突然倒れたらしい。覚えているか?」
「倒れた…」
「約束通り婚約解消を発表して、ここへ来たらローゼが倒れたと…心配したぞ」
サイオンは握っていたローゼの手を持ち上げ、指先に口付ける。
「サイオン様…」
「ん?」
ローゼの髪を撫でる優しい手。ローゼを見る青紫の瞳。
私の、好きな、私を、好きな、サイオン様だ。
ローゼの瞳に涙が浮かぶ。
「どうした?気分が悪いのか?医師を呼ぶか?」
少し慌てるサイオン。
ローゼはふるふると首を振る。涙が頬から耳の方へと流れた。
「…ゲームは…終わった…?」
「ああ。婚約解消を発表したすぐ後、一瞬光に包まれた気がしたんだ。リリーも同じように感じたらしい。きっとあれがゲームの終わりだ」
じゃあその同じ時に私もあの「白い世界」に飛んだのかな?
ローゼが起き上がろうとすると、サイオンが背中に手を入れて助け起こしてくれ、そしてそのままローゼを抱きしめた。
ぎゅうっと力を入れるサイオン。
「ローゼ」
「はい」
ローゼもサイオンにしがみつくように抱き付く。
「好きだ」
「……」
「ゲームが終わっても、俺は変わらずローゼが好きだ。…不安だったんだろう?」
優しく背中を撫でられる。
「……」
言葉が出なくて、代わりに涙が溢れた。
「泣くな。ローゼ…」
サイオンの肩に額を押し付ける。
「……も」
「ん?」
「私も…好きです…サイオン様…」
ローゼがそう言うと、サイオンはローゼを抱く腕に更に力を込めた。
気が付くと、ローゼは白い世界にいた。
上も下も、右も左も、見渡す限りの白。ホワイトアウトのように自分が真っ直ぐに立っているのかどうかもわからない。
自分の足先さえ見えなくて、一歩踏み出せば奈落かも知れないと思えば動く事もできない。
「何…ここ…」
自分の声も、無限に響くような、耳の中だけで響いているような、初めての感覚。
どうすれば良いの?
どうすれば…サイオン様やリリー様の元に戻れるの?
身じろぎもできず、ただ立ち竦むローゼ。
不意に目の前に自分の身体ほどの大きさの四角い映像が現れた。
「きゃっ!何…」
思わず一歩後退る。足元には地面のようなものがあり、奈落には落ちなかった。
映像にはぼんやりとした人影が映っているようだ。その人影が段々とハッキリとして来て…
「サイオン様!」
映像に、ピンクの髪の令嬢の肩を抱くサイオンの姿が映し出されている。
「これ…もしかして、スマホの画面?」
実物より大きいけれど、見慣れた縦横比。見慣れたサイオン、そしてヒロイン。
これ、ゲームの卒業パーティーだ。
サイオンがローゼの肩を抱いて、リリーを断罪し、婚約破棄を言い渡す場面。
舞台上に並び立つサイオンとローゼ。その二人の後ろに生徒会の面々。そしてイヴァン。
舞台の下にはリリーが跪いていて、その後ろに驚愕、恐怖、憤怒の表情の悪役令嬢たちが立っている。
何度も何度も何度も見た、クライマックスのシーン。
あそこにいるヒロインを蕩ける瞳で見ている人は誰?サイオン?確かに画面の中のサイオンはあんな風にヒロインを見ていた。けど。
あのローゼは私じゃないし、あのサイオンは私のサイオン様じゃない!!
ローゼは映像に向かって一歩踏み出す。
途端に映像が乱れて、映し出される画面が次々と変わっていく。
卒業パーティーの後、サイオンの部屋でキスをするサイオンとローゼ。
王城にある貴族が収監される部屋で一人泣き崩れるリリー。
婚約が発表され、幸せそうなサイオンとローゼ。
父公爵から勘当を告げられるリリー。
王太子妃教育に励むローゼと、見守るサイオン。
何もない独房で膝を抱えて膝に顔を埋めるリリー。
視察に同行し、海の見えるバルコニーで夕陽を見るローゼの後ろからハグをするサイオン。
独房の固く冷たい床に倒れているリリー。
「駄目!リリー様を断罪なんて絶対させない!」
その時、映像の中でローゼを背中から抱きしめていたサイオンが視線を上に上げて…目が合った。気がした。
「…サイオン様!」
映像に向かって手を伸ばす。
そのまま、引き込まれるような感覚。
あ、落ちる。
足元が抜け落ちたような感覚があり、ローゼは強く目を閉じた。
-----
「ローゼ!」
ハッとして目を開けると、サイオンが覗き込むようにローゼを見ていた。
「サ…イオン様?」
ここは私の部屋?
見慣れた天井が見える。ローゼは自分の部屋のベッドに横たわり、サイオンがベッドの傍らに跪きローゼを手を握っていた。
「クレイグ殿の執務室で突然倒れたらしい。覚えているか?」
「倒れた…」
「約束通り婚約解消を発表して、ここへ来たらローゼが倒れたと…心配したぞ」
サイオンは握っていたローゼの手を持ち上げ、指先に口付ける。
「サイオン様…」
「ん?」
ローゼの髪を撫でる優しい手。ローゼを見る青紫の瞳。
私の、好きな、私を、好きな、サイオン様だ。
ローゼの瞳に涙が浮かぶ。
「どうした?気分が悪いのか?医師を呼ぶか?」
少し慌てるサイオン。
ローゼはふるふると首を振る。涙が頬から耳の方へと流れた。
「…ゲームは…終わった…?」
「ああ。婚約解消を発表したすぐ後、一瞬光に包まれた気がしたんだ。リリーも同じように感じたらしい。きっとあれがゲームの終わりだ」
じゃあその同じ時に私もあの「白い世界」に飛んだのかな?
ローゼが起き上がろうとすると、サイオンが背中に手を入れて助け起こしてくれ、そしてそのままローゼを抱きしめた。
ぎゅうっと力を入れるサイオン。
「ローゼ」
「はい」
ローゼもサイオンにしがみつくように抱き付く。
「好きだ」
「……」
「ゲームが終わっても、俺は変わらずローゼが好きだ。…不安だったんだろう?」
優しく背中を撫でられる。
「……」
言葉が出なくて、代わりに涙が溢れた。
「泣くな。ローゼ…」
サイオンの肩に額を押し付ける。
「……も」
「ん?」
「私も…好きです…サイオン様…」
ローゼがそう言うと、サイオンはローゼを抱く腕に更に力を込めた。
6
あなたにおすすめの小説
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
2/26 番外編を投稿しました。
読んでいただけると嬉しいです。
思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。
とてもとてもありがとうございます!!
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる