ヒロインに転生しましたけど、私、王太子より悪役令嬢が好きなんです。

ねーさん

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「私サイオン・ルーセントは、本日を以って、ここにいるリリー・マーシャル公爵令嬢との婚約を解消する」
 卒業パーティーでサイオンが挨拶の終わりにそう宣言すると、学園の講堂であるパーティー会場は、しんっと静まり返った。
 サイオンの隣に立つリリーは優雅な仕草で深々とお辞儀をする。それだけでリリーも婚約解消を承諾している事が皆に伝わった。

 その時、サイオンの視界が白く光る。
 ほんの一瞬の出来事だ。

「今…何か…」
 リリーが目をパチパチと瞬かせている。
 リリーも感じたのか。
 サイオンは生徒会役員が並んでいる方へ視線を移す。目を瞬かせている者、少し首を動かし周りを見ている者、小さく首を傾げる者。
 生徒たちの方へ目を向けると、悪役令嬢たちが顔を見合わせていたが、他の生徒に変化は見られない。
 なるほど。ゲームの関係者のみが「光」を感じたのか。
 
 サイオンがロイズに目配せをすると、ロイズが楽団に指示を出し、会場に音楽が流れ始め、騒めきが戻る。
 舞台の袖へと移動したサイオンはリリーに声を掛けた。
「俺はこれからエンジェル男爵家に行く」
「ええ。早くローゼリアに会いに行ってあげて。私は同級生たちとの別れを惜しんでから行くわ」
 出口へ向かいかけたサイオンが、リリーの方へ振り向く。
「リリー」
「殿下?」
「この裏の控室にリリーの婚約者候補を呼んである」
「え?」
「姪がパーティーで大変な目に遭うと脅して呼び出したから、後はリリーが口説き落とせ」
「……」
「口説き落とせなかったら、辺境の五十一歳の孫もいる伯爵だ。ただ金はあるぞ」
「サイオン殿下ったら…」
「ほら、早く行かないと『騙された』と悟って帰ってしまうぞ」
 サイオンが悪戯っぽく笑う。リリーはサイオンに礼を取ると、錆色のドレスの裾を摘んで舞台の裏へと駆け出した。

-----

「シドニー様!」
 リリーが舞台の裏にある控室の扉を勢い良く開けると、ローゼの伯父のシドニー・ブラウン伯爵が所在なげに椅子に座っている。
 シドニーは部屋に入って来たリリーを見て、目を見開いた。

「…リリー様、これは…どう言う事なんですか?」
 椅子から立ち上がるシドニー。困惑した表情だ。
「サイオン殿下に呼び出されたと…」
「ええ。卒業パーティーでサイオン殿下とリリー様の婚約解消を発表したら、ローゼリアが大変な目に遭うからと。騒ぎが起こってクレイグも屋敷から出られなくなるから私に来いと」
 リリーはそう言うシドニーの前に立つ。
「しかし様子を見ていても、婚約解消を発表しても騒ぎなど起こっていないし、そもそもローゼリアはここに来ていないし…殿下は私を騙してここに呼び出したのですね?…そして、ここに来たのはリリー様だ」
 眉を顰めるシドニー。
「…怒っていますか?」
 リリーは上目遣いでシドニーを見る。シドニーは視線を上げ、リリーから目を逸らす。
「怒ってはいませんが、サイオン殿下の思惑を知って…困っています」
「そう…ですよね」
 シドニー様は私の事お好きじゃないんだもの。でもこうしてサイオン殿下に呼び出されたと言う事は、私と婚約しろと王太子から命じられているのにも等しいものね。
「ごめんなさい。私から殿下にはお話しておきますから…」
 シュンとして俯くリリー。
「…どう話すんですか?」
「え?」
 リリーが顔を上げると、シドニーは視線を上げたまま
「殿下に、どう話すおつもりですか?」
 と言う。
「…あ、あの…シドニー様がサイオン殿下の命に背いたと思われないように、上手くお断りを…」
「そうすると、リリー様はどうなりますか?」
「…次の婚約者候補を殿下が選ばれると思います」
 五十一歳、孫あり、辺境の伯爵。ただしお金はある。
 ってサイオン殿下は言われたけど…

 リリーが黙ってシドニーを見ていると、シドニーが顔を上に向けたまま、視線だけリリーに向けた。
「…先程、控室ここに入るまでに、卒業パーティーに来る生徒たちを見ました」
 リリーを数秒だけ見ると、シドニーがまた視線を上げる。
「?」
「皆、若くて輝いていました。まあ学園生なので当然ですが」
「…はい」
「学園生でない、婚約者や恋人がパートナーとして出席していたとしても、皆若い」
「……」
「…例えば私が、リリー様をエスコートしたとして、婚約者や恋人には到底見えない。どう見ても父兄だ」
「……」
 リリーはじっとシドニーを見つめる。

 シドニーがまたちらっと視線だけをリリーに向ける。
「…そんなに見ないでください」
 憮然とした表情だが、よく見ると耳が赤くなっている事にリリーは気付いた。
「どうして、こちらを向いてくださらないのですか?」
 リリーがそう言うと、シドニーは自分の手で口元を覆う。
「正装の貴女が…綺麗過ぎて直視できません」
 シドニーは、そう言うと「はあ~」と息を吐きながらしゃがみ込んで、腕で顔を隠すように俯く。
「シドニー様?」
「…それに…そのドレスの色は反則でしょう」
「え?…あっ」
 リリーは、錆色…シドニーの髪の色のドレスを纏っていたのだ。


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