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「あの、違うんです。私、シドニー様が来られているの、知らなかったんです。本当に」
リリーはしゃがみ込んで俯くシドニーへ、オロオロしながら言う。
私がシドニー様が来られるのを知ってて、王太子の命を受け入れさせるために敢えてシドニー様の髪色のドレスを着たのだと思われたんだわ。
「…違う、とは?」
腕に顔を埋めたまま、シドニーが言う。
「え?あの…シドニー様が来られるのを知っていて、このドレスにした訳ではない…と言う事、なんです、けど…」
少し顔を動かして片目でリリーを見上げるシドニー。
「では、なぜその色のドレスを?」
リリーはドレスのスカートを摘むように持つ。
「…殿下が私の婚約者候補を決められれば、余程の事がない限りその婚約は成立するでしょうから…この色のドレスを着られるのは、今日だけだと…思いまして…」
ドレスを見ながらリリーは言う。
次にこの身に纏うのは、新しい婚約者の色になるだろう。少なくとも、二度と錆色は纏わない。
今日のドレスはリリーなりの「けじめ」だったのだ。
「次の婚約者候補はもうお決まりなのですか?」
「いえまだ…あ、でも…」
「でも?」
シドニーがパッと顔を上げる。
「…シドニー様を口説き落とせなければ、お金持ちの辺境の伯爵…だと…」
「何歳ですか?」
「え?」
シドニーは目を逸らさず、じっとリリーを見つめた。
「その婚約者候補は何歳なんですか?」
「…五十一、と殿下が…」
「ごっ、じゅういち!?」
バッと立ち上がるシドニー。
「どうしてですか?どうして五十一歳と結婚させられると知っていて、私が殿下の命に背いたとならないよう上手くお断りしておく、になるんですか?」
…シドニー様…怒ってるの?
「だって…」
リリーの瞳に涙が浮かぶ。
「リリー様?」
「だって…一緒なんですもの」
「一緒?」
困惑した表情のシドニー。
「相手が十一だろうと、五十一だろうと、私にとっては一緒なんです。…シドニー様でないなら…誰」
誰でも、一緒。と言い掛けた所で、シドニーはリリーを抱きしめた。
ぎゅうっと抱きしめられて、頬が胸に押しつけられる。
「……?」
困惑するリリー。
「だったらもっと必死で口説けば良いじゃないですか」
「…だって、シドニー様、私の事…好きじゃないでしょう?」
「好きですよ」
「え?」
「五十一歳に譲るくらいなら、私が貰い受けます」
リリーを抱きしめたまま、シドニーはそう言った。
-----
国王の執務室で、扉を入った所に立ち竦むローゼ。
部屋の中なのに、執務机までは遥か遠い。
大きな執務机の真ん中に座る国王陛下が側に立つ宰相に視線を送る。
宰相から、その部下へと視線が送られて、扉の近くに立っていた侍従がローゼに近付いて来た。
「もう少し近くへ、と」
と小声で言った侍従は、ローゼの足先を示し、前に進むようにと促した。
数歩進むと、もっとと促される。それを何度か繰り返す。
え?まだ?近くへ?
段々と歩幅が小さくなるローゼ。
促されなくなった頃には執務机から十メートルくらいの位置になっていた。
陛下のお顔がハッキリと見える…ちちち近いっ!
「謁見ではありませんし、正式なご面会でもありませんのでご挨拶は必要ありません。お呼びたてして申し訳ありません。ローゼリア嬢」
宰相がニコニコしながら言う。国王は無表情でローゼを見ていた。
「いいえ」
朝、エンジェル家に滞在しているローゼに、秘密裏に王城へ来るよう密使が来たのだ。
サイオン様にも内緒…という事は、国王陛下直々に「サイオンと別れろ」とか言われるのかな?
「其方がローゼリア・ブラウンか」
王が口を開く。低い声が、敬礼の姿勢を取るローゼの身体にビリビリ伝わる程の威圧感があった。
「…はい」
「其方は、サイオンが其方を身代わりにしているとは思わないのか?死んだローゼ・エンジェルとサイオンは親密な仲ではなかったと聞く。サイオンが一方的にローゼ・エンジェルに懸想していたと」
表向き、ローゼは生前イヴァンと恋人同士だったのだ。サイオンは舞踏会でローゼを庇ったり抱き上げたりしていたが、その後格別ローゼと親しくしていた訳ではない。
「はい…存じております」
「そこに、ローゼ・エンジェルに瓜二つだと言う其方だ。サイオンがローゼ・エンジェルの代わりに其方を手に入れたいと考えたとしても無理はない」
「はい」
「つまり、今もサイオンが想う相手はローゼ・エンジェルであって、ローゼリア・ブラウンではない」
ローゼはこくんと息を飲むと
「いいえ」
と言った。
「あの、違うんです。私、シドニー様が来られているの、知らなかったんです。本当に」
リリーはしゃがみ込んで俯くシドニーへ、オロオロしながら言う。
私がシドニー様が来られるのを知ってて、王太子の命を受け入れさせるために敢えてシドニー様の髪色のドレスを着たのだと思われたんだわ。
「…違う、とは?」
腕に顔を埋めたまま、シドニーが言う。
「え?あの…シドニー様が来られるのを知っていて、このドレスにした訳ではない…と言う事、なんです、けど…」
少し顔を動かして片目でリリーを見上げるシドニー。
「では、なぜその色のドレスを?」
リリーはドレスのスカートを摘むように持つ。
「…殿下が私の婚約者候補を決められれば、余程の事がない限りその婚約は成立するでしょうから…この色のドレスを着られるのは、今日だけだと…思いまして…」
ドレスを見ながらリリーは言う。
次にこの身に纏うのは、新しい婚約者の色になるだろう。少なくとも、二度と錆色は纏わない。
今日のドレスはリリーなりの「けじめ」だったのだ。
「次の婚約者候補はもうお決まりなのですか?」
「いえまだ…あ、でも…」
「でも?」
シドニーがパッと顔を上げる。
「…シドニー様を口説き落とせなければ、お金持ちの辺境の伯爵…だと…」
「何歳ですか?」
「え?」
シドニーは目を逸らさず、じっとリリーを見つめた。
「その婚約者候補は何歳なんですか?」
「…五十一、と殿下が…」
「ごっ、じゅういち!?」
バッと立ち上がるシドニー。
「どうしてですか?どうして五十一歳と結婚させられると知っていて、私が殿下の命に背いたとならないよう上手くお断りしておく、になるんですか?」
…シドニー様…怒ってるの?
「だって…」
リリーの瞳に涙が浮かぶ。
「リリー様?」
「だって…一緒なんですもの」
「一緒?」
困惑した表情のシドニー。
「相手が十一だろうと、五十一だろうと、私にとっては一緒なんです。…シドニー様でないなら…誰」
誰でも、一緒。と言い掛けた所で、シドニーはリリーを抱きしめた。
ぎゅうっと抱きしめられて、頬が胸に押しつけられる。
「……?」
困惑するリリー。
「だったらもっと必死で口説けば良いじゃないですか」
「…だって、シドニー様、私の事…好きじゃないでしょう?」
「好きですよ」
「え?」
「五十一歳に譲るくらいなら、私が貰い受けます」
リリーを抱きしめたまま、シドニーはそう言った。
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国王の執務室で、扉を入った所に立ち竦むローゼ。
部屋の中なのに、執務机までは遥か遠い。
大きな執務机の真ん中に座る国王陛下が側に立つ宰相に視線を送る。
宰相から、その部下へと視線が送られて、扉の近くに立っていた侍従がローゼに近付いて来た。
「もう少し近くへ、と」
と小声で言った侍従は、ローゼの足先を示し、前に進むようにと促した。
数歩進むと、もっとと促される。それを何度か繰り返す。
え?まだ?近くへ?
段々と歩幅が小さくなるローゼ。
促されなくなった頃には執務机から十メートルくらいの位置になっていた。
陛下のお顔がハッキリと見える…ちちち近いっ!
「謁見ではありませんし、正式なご面会でもありませんのでご挨拶は必要ありません。お呼びたてして申し訳ありません。ローゼリア嬢」
宰相がニコニコしながら言う。国王は無表情でローゼを見ていた。
「いいえ」
朝、エンジェル家に滞在しているローゼに、秘密裏に王城へ来るよう密使が来たのだ。
サイオン様にも内緒…という事は、国王陛下直々に「サイオンと別れろ」とか言われるのかな?
「其方がローゼリア・ブラウンか」
王が口を開く。低い声が、敬礼の姿勢を取るローゼの身体にビリビリ伝わる程の威圧感があった。
「…はい」
「其方は、サイオンが其方を身代わりにしているとは思わないのか?死んだローゼ・エンジェルとサイオンは親密な仲ではなかったと聞く。サイオンが一方的にローゼ・エンジェルに懸想していたと」
表向き、ローゼは生前イヴァンと恋人同士だったのだ。サイオンは舞踏会でローゼを庇ったり抱き上げたりしていたが、その後格別ローゼと親しくしていた訳ではない。
「はい…存じております」
「そこに、ローゼ・エンジェルに瓜二つだと言う其方だ。サイオンがローゼ・エンジェルの代わりに其方を手に入れたいと考えたとしても無理はない」
「はい」
「つまり、今もサイオンが想う相手はローゼ・エンジェルであって、ローゼリア・ブラウンではない」
ローゼはこくんと息を飲むと
「いいえ」
と言った。
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