ヒロインに転生しましたけど、私、王太子より悪役令嬢が好きなんです。

ねーさん

文字の大きさ
82 / 83

番外編5

しおりを挟む
3-下

「とうとう言ったのか」
 サイオンは執務机からソファに座っているイヴァンに言う。
「…完全に『考えた事もない』って表情かおをされたが、まずは俺をローゼリアとサイオンの友人ではなく、恋愛相手として意識してもらうのが目的だし、あちらへ行ってからは本格的に口説く」
 イヴァンはそう言い切る。

 サイオンは顎を摩りながら「それにしても」と言う。
「うん?」
「イヴァンとアメリア殿が上手くいったら…イヴァンが俺の義父ちちになるのか…」
 呟くように言うサイオン。イヴァンがニヤリと笑う。
「サイオンとローゼリアが俺の息子と娘だぞ」

 その時ノックの音がして、入って来た侍従がサイオンとイヴァンに
「クレイグ様より『イヴァン様に大至急エンジェル男爵家においでいただくよう』と知らせがありました」
 と告げた。

-----

 エンジェル家にやって来たイヴァンはクレイグに出迎えられた。
「何事ですか?クレイグ殿」
「実は…義母はは上が急にやって来まして」
「アメリア様が?」
 廊下を歩きながら話す。
「イヴァン殿に聞きたい事があると言うので…」
「俺に?」

 応接室に入ると、アメリアが身を竦めてソファに座っていた。
「…イヴァン様」
 イヴァンを見る目が潤んでいる。
「どっ、どうされました?」
 イヴァンがアメリアの前に跪く。
「…ここに来るのが…あの…」
 アメリアの手が小さく震えている。
 ああ。そうか。
 アメリアは、実家に戻って以来、初めて結婚生活を送っていた家を訪れたのだ。
「…貴女の元夫は、もう亡くなりました」
 アメリアの手を取ってぎゅっと握りながら言うと、アメリアは小さく頷いた。
 怖いのか、悲しいのか、アメリアにもよくわからないが、沢山の思い出のある家に来て、酷く胸が締め付けられるように苦しかった。
「ごめんなさい。何だか時間が戻ったような気がして…」
「大丈夫です。深呼吸しますか?」
 イヴァンが真面目な表情で言うと、アメリアはふっと息を吐く。
 手の震えは止まっていた。

「…俺に聞きたい事があると?」
「…ええ。…あの…イヴァン様は…」
「はい」
 アメリアは強く目を瞑ると一気に言った。
「王妃の母としての私に興味がおありなんですか?それとも私とローゼが似ているからなんですか?」
「…え?」
 イヴァンは目を丸くしてアメリアを見た。
「友人が、ローゼリアとサイオン殿下の婚約が発表されれば、将来の王妃の母として、中央とのパイプが欲しい者たちが一斉に私に求婚して来る、と言うので…」
「ああ…それは、そうなるでしょうね。しかし俺は一介の教師なのでそういう政治的な事に興味はありませんよ」
 じっと、アメリアを見る。
「…じゃあ、私はローゼの代わり?」
 アメリアは眉間に皺を寄せた。
「は!?」
 思わず立ち上がるイヴァン。アメリアの手を握ったままだ。
「イヴァン様はローゼを好きなんでしょう?」
「ええ。好きです」
「だから…」
 イヴァンを見上げるアメリアの瞳が揺れる。
「いえ。あの…待ってください。俺はローゼを好きですし、何ならサイオンも好きです。でも、アメリア様の事は…」
「私の事好き?」
「アメリア様特別に、誰よりも、好きなんです!」
「え?」
 アメリアが瞬きをしながらイヴァンを見る。
「あ、わかりました!」
 イヴァンはそう言うと、またアメリアの前に跪き、改めてアメリアの手を取る。
「?」
 首を傾げるアメリアをイヴァンは真っ直ぐに見た。
「俺は、順番を間違えたんですね」
「順番?」

「俺はアメリア様が好きです。確かに最初はローゼに似ているから好意を持ったのですが、ブラウン家に通う内に…アメリア様と話すのが嬉しくて、会えるのが楽しみで、ああ好きだなあ…と思ったんです」
「でも…」
「もちろんアメリア様が貴族でもない、継ぐべき家も持たない、しかも歳下で頼りない、俺のような男を好きになってくださるかはわかりませんが、先程言われたように、この先貴女に縁談が殺到するのは目に見えているので、その前に頑張って口説こうと…」
「……」
「ただ、求婚する前に、求愛をすべきだったんですね」

 イヴァンは、アメリアの手の甲に口付ける。
「アメリア様が好きです。…誰よりも」
 上目遣いにアメリアを見る。アメリアの頬が髪色のように桃色に染まった。
「私…歳上の、結婚歴のある、子持ち、ですよ?イヴァン様には政治的野心もなく、ローゼの代わりでもなく、それでも私なんですか?」
「そうです。俺は歳は気にならないし、むしろアメリア様は歳上なのにものすごくかわいいな、と思っています」
「かわっ…いい?」
 言葉に詰まりながら頬を押さえてイヴァンを見る。
 三十過ぎた女に「かわいい」は…
 …でも、イヴァン様ものすごく優しい表情かおしてる…もしかして、本気で…
「俺をアメリア様の恋人候補一番手にしてください」
 もう一度、手の甲に口付けを落とす。
 アメリアは真っ赤になりながら、小さく頷く。

 締め付けられていた胸の苦しみが、いつの間にか晴れている。
 …ああ、時間は動いているのよね。
 イヴァンの笑顔を見ながら、アメリアはそう思った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。 2/26 番外編を投稿しました。 読んでいただけると嬉しいです。 思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。 とてもとてもありがとうございます!!   

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

処理中です...