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番外編6
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「…もうあの頃の面影はないのね」
アメリアはエンジェル家で夫婦の部屋として使っていた、今は客室となっている部屋に入って呟く。
「ええ。この階はあの後大規模に改修しました。ローゼの使っていた部屋は元の場所のままで内装だけ変えましたが…見ますか?」
クレイグがそう言うと、アメリアは頷く。
「ええ。でも勝手に部屋に入ってローゼは怒らないかしら?」
「義母上だから大丈夫ですよ。それにローゼは今日ディー…デボラ嬢と遊びに行っているのでもうすぐ戻りますし」
薄い青と白が基調のローゼの部屋に入る。
「ローゼが初めて私の部屋へ来た時、自分の部屋と似てるって言っていたけれど、本当ね」
部屋を見渡すと、アメリアはクレイグの方を振り向く。
「…あの人を幽閉していた部屋を、見せて?」
「義母上?」
「時間が動いている事を確かめたいの」
-----
「窓が小さくて、出入り口が一つしかないのね。それに…柵が…」
地下への階段を降りて、扉を開けると、少し向こうに床から天井までの鉄柵があり、その一部分に鍵が掛かる扉があった。
アメリアは柵の前に立ち、何もない部屋を眺める。
「扉だけでは脱け出るのを防げませんでしたので…」
クレイグが言いにくそうに言う。
「お母様…」
帰って来たローゼがアメリアの肩に後ろからしがみつくようにしながら部屋を覗き込んでいた。
アメリアの横にしゃがんだクレイグが、取り出した鍵を柵の小さな扉の穴に挿した。
カシャンと鍵の開く音がして、扉が開く。クレイグに続いてアメリアとローゼも身を屈めて扉をくぐった。
「部屋にあった家具…必要最低限のベッドなどしかありませんでしたが、それらは全て処分しました」
「そう。…想像していたより広いわ」
「そうですか?」
「ええ。もっとこう、独居房みたいなのを想像してて」
「なるほど」
アメリアは部屋の真ん中に立つと、ぐるりと部屋を見回した。
「ローゼも初めて?ここに来たの」
「はい。初めてです」
ローゼもきょろきょろ部屋を見回すと「あ」と声を上げた。
「どうした?」
クレイグが心配そうにローゼを見る。
「柵に、傷が…」
ローゼが指差した先の鉄柵に、引っ掻いたような傷がついていた。
「ああ…柵をどうにかしようとして食事の時フォークで少しずつ傷を付けていたようなんだ。それに気付いてからはカラトリーや食器は木製にしたよ」
クレイグが傷を指でなぞりながら言う。
「何と言うか…凄い執念ね」
アメリアがそう言うと、クレイグとローゼは大きく頷いた。
あの人は、私がローゼを忘れた振りをして、日々をぬくぬくと過ごしていた時にも、ここで、生きていて、そして、ここで、死んだんだわ。
「出ましょうか」
アメリアが言って三人で柵の扉をくぐる。クレイグはまた扉に鍵を掛けた。
「もう鍵をする必要ない事はわかっているんですけど、癖になってしまっていて…」
苦笑いするクレイグ。
「ねえ、クレイグ、ローゼ」
地下からの階段を上りながらアメリアが言う。
「「はい」」
アメリアの前を歩くクレイグ、後ろを歩くローゼ、二人が声を揃えて返事をする。
綺麗に揃ったわ。さすが兄妹ね。
「私がイヴァン様とお付き合いするっていったら、反対するかしら?」
「「いいえ!」」
また揃ったわ。
「いいえ、なの?」
「お母様!イヴァン先生に告白されたんですか!?」
ローゼが後ろからアメリアの肩に手を乗せる。
「…ローゼ、知ってたの?」
「イヴァン先生を見てたらわかりますよ」
「そうなの?」
クレイグも微笑んでアメリアとローゼを見ていた。
「クレイグも知ってたの?」
「イヴァン殿を見ていたらわかりますから」
ローゼの部屋に移動したローゼとアメリア。ソファに隣同士に座る。
「でもまだお付き合いするって決めた訳じゃないのよ」
「そうなんですか?」
お茶を飲みながらアメリアはため息を吐く。
「私、八歳も歳上で…今は良くても、歳を取って来たらイヴァン様も冷めるんじゃないかしら?」
「それは大丈夫です」
「どうして?」
「イヴァン先生は…」
老若男女イケる。って言うのはちょっとアレよね。
ローゼは言葉を探す。
「…歳とか性別とか、そういうのに拘る人じゃないんです」
「そうなの?性別も?」
「性別も」
そういえば、ローゼとサイオン殿下が好きだって言ってたわ。
「お母様、折角だから私たちがブラウン家に行く時に一緒に戻りませんか?」
ローゼは両手を合わせながら言う。
「そうね…ローゼたちが来る日まであと一週間だものね」
「お母様に私の友達も紹介したいし」
「デビィちゃん?」
「はい!」
嬉しそうに笑うローゼを見て、アメリアは思う。
ローゼも、クレイグも、お兄様も…みんな幸せになるなら、私も…幸せになっても許されるかしら?
きっと、そう口に出せば、誰からも「当たり前だ」と返って来るだろう。
もう、恐怖に泣いていた八歳のローゼも、怒りに震えていた二十歳のクレイグも、いないんだわ。
「ねえ、お母様。今夜一緒に寝ませんか?」
「いいわね」
アメリアは愛おしそうに大きくなったローゼの頭を撫でた。
ー完ー
「…もうあの頃の面影はないのね」
アメリアはエンジェル家で夫婦の部屋として使っていた、今は客室となっている部屋に入って呟く。
「ええ。この階はあの後大規模に改修しました。ローゼの使っていた部屋は元の場所のままで内装だけ変えましたが…見ますか?」
クレイグがそう言うと、アメリアは頷く。
「ええ。でも勝手に部屋に入ってローゼは怒らないかしら?」
「義母上だから大丈夫ですよ。それにローゼは今日ディー…デボラ嬢と遊びに行っているのでもうすぐ戻りますし」
薄い青と白が基調のローゼの部屋に入る。
「ローゼが初めて私の部屋へ来た時、自分の部屋と似てるって言っていたけれど、本当ね」
部屋を見渡すと、アメリアはクレイグの方を振り向く。
「…あの人を幽閉していた部屋を、見せて?」
「義母上?」
「時間が動いている事を確かめたいの」
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「窓が小さくて、出入り口が一つしかないのね。それに…柵が…」
地下への階段を降りて、扉を開けると、少し向こうに床から天井までの鉄柵があり、その一部分に鍵が掛かる扉があった。
アメリアは柵の前に立ち、何もない部屋を眺める。
「扉だけでは脱け出るのを防げませんでしたので…」
クレイグが言いにくそうに言う。
「お母様…」
帰って来たローゼがアメリアの肩に後ろからしがみつくようにしながら部屋を覗き込んでいた。
アメリアの横にしゃがんだクレイグが、取り出した鍵を柵の小さな扉の穴に挿した。
カシャンと鍵の開く音がして、扉が開く。クレイグに続いてアメリアとローゼも身を屈めて扉をくぐった。
「部屋にあった家具…必要最低限のベッドなどしかありませんでしたが、それらは全て処分しました」
「そう。…想像していたより広いわ」
「そうですか?」
「ええ。もっとこう、独居房みたいなのを想像してて」
「なるほど」
アメリアは部屋の真ん中に立つと、ぐるりと部屋を見回した。
「ローゼも初めて?ここに来たの」
「はい。初めてです」
ローゼもきょろきょろ部屋を見回すと「あ」と声を上げた。
「どうした?」
クレイグが心配そうにローゼを見る。
「柵に、傷が…」
ローゼが指差した先の鉄柵に、引っ掻いたような傷がついていた。
「ああ…柵をどうにかしようとして食事の時フォークで少しずつ傷を付けていたようなんだ。それに気付いてからはカラトリーや食器は木製にしたよ」
クレイグが傷を指でなぞりながら言う。
「何と言うか…凄い執念ね」
アメリアがそう言うと、クレイグとローゼは大きく頷いた。
あの人は、私がローゼを忘れた振りをして、日々をぬくぬくと過ごしていた時にも、ここで、生きていて、そして、ここで、死んだんだわ。
「出ましょうか」
アメリアが言って三人で柵の扉をくぐる。クレイグはまた扉に鍵を掛けた。
「もう鍵をする必要ない事はわかっているんですけど、癖になってしまっていて…」
苦笑いするクレイグ。
「ねえ、クレイグ、ローゼ」
地下からの階段を上りながらアメリアが言う。
「「はい」」
アメリアの前を歩くクレイグ、後ろを歩くローゼ、二人が声を揃えて返事をする。
綺麗に揃ったわ。さすが兄妹ね。
「私がイヴァン様とお付き合いするっていったら、反対するかしら?」
「「いいえ!」」
また揃ったわ。
「いいえ、なの?」
「お母様!イヴァン先生に告白されたんですか!?」
ローゼが後ろからアメリアの肩に手を乗せる。
「…ローゼ、知ってたの?」
「イヴァン先生を見てたらわかりますよ」
「そうなの?」
クレイグも微笑んでアメリアとローゼを見ていた。
「クレイグも知ってたの?」
「イヴァン殿を見ていたらわかりますから」
ローゼの部屋に移動したローゼとアメリア。ソファに隣同士に座る。
「でもまだお付き合いするって決めた訳じゃないのよ」
「そうなんですか?」
お茶を飲みながらアメリアはため息を吐く。
「私、八歳も歳上で…今は良くても、歳を取って来たらイヴァン様も冷めるんじゃないかしら?」
「それは大丈夫です」
「どうして?」
「イヴァン先生は…」
老若男女イケる。って言うのはちょっとアレよね。
ローゼは言葉を探す。
「…歳とか性別とか、そういうのに拘る人じゃないんです」
「そうなの?性別も?」
「性別も」
そういえば、ローゼとサイオン殿下が好きだって言ってたわ。
「お母様、折角だから私たちがブラウン家に行く時に一緒に戻りませんか?」
ローゼは両手を合わせながら言う。
「そうね…ローゼたちが来る日まであと一週間だものね」
「お母様に私の友達も紹介したいし」
「デビィちゃん?」
「はい!」
嬉しそうに笑うローゼを見て、アメリアは思う。
ローゼも、クレイグも、お兄様も…みんな幸せになるなら、私も…幸せになっても許されるかしら?
きっと、そう口に出せば、誰からも「当たり前だ」と返って来るだろう。
もう、恐怖に泣いていた八歳のローゼも、怒りに震えていた二十歳のクレイグも、いないんだわ。
「ねえ、お母様。今夜一緒に寝ませんか?」
「いいわね」
アメリアは愛おしそうに大きくなったローゼの頭を撫でた。
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