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 あ、ここ、ユリウス殿下とお会いした所だわ。
 天井まで続く高い書棚の間を歩いていたシャーロットは、そこがお忍びで図書室を訪れたユリウスと偶然会った場所だと気付く。
 マリアはテーブルで本を読み、メレディスはシャーロットとマリアから少し離れた所に立ち、二人の様子を窺っていた。

 ほんのこの間なのに、何だか懐かしい気さえするなぁ。
 シャーロットは自分の額を触る。ガーゼに指が触れた。
 ユリウス殿下、お兄様たちと何を話されたんだろう。
 シャツも第二ボタンも外して、髪も乱れてて、それによく見たら薄っすらヒゲも…ユリウス殿下、物語の王子様じゃなくて、生身の…男の人…なのね。
 頬が熱くなると同時に胸が痛む。
 物語の王子様のままでいてくれた方が良かったな…アイドルにキャーキャー言うような心境だともっと楽だったかも。
「自覚する前に失恋しちゃってるんだもんね…」
 シャーロットはそう呟いて、書棚にもたれかかった。
 
「あ、ちょっと!」
 マリアの声が聞こえる。
「?」
 シャーロットがマリアの居る方を見ると、書棚の隙間から大きな人影が現れた。
「ロッテ様!」
 騎士服の女性、バネッサだ。
「バネッサさん!?」
「ちょっと!ロッテに何の用よ!?」
 マリアがバネッサを止めようとバネッサの腕を掴んでいる。
「いや、私はロッテ様に話が…」
「話って何よ!?グリフ様を横取りしてごめんなさいとでも言うつもり!?」
「ちょっ、ちょっと、マリア、ここ図書室よ。静かに…」
 マリアを引き摺るようにして、バネッサがロッテに近付いて来る。
「静かになんてできないわ!ちょっと!メレディス様止めてくださいよ!」
 メレディスがバネッサとマリアの後ろから書棚の間をのぞきこんだ。
「まあ、トレイシー・セルザム公爵令嬢じゃないなら大丈夫だろ?それにグリフ殿の?何だっけ?恋人?婚約者?なんだろう?」
 メレディスがそう言うとバネッサはメレディスの方を振り向いて言った。
「違う!あ、いえ違います」

「え?違うの?」
 マリアがきょとんとしてバネッサを見上げる。
「その事をロッテ様に言いたくて…」
「……」
「どういう事?ねえ、ロッテ…ロッテ?」
 マリアがシャーロットを見ると、シャーロットは胸の前で手を組み合わせてバネッサを見ていた。
「ロッテ様?」
 バネッサとマリアが不思議そうにシャーロットを見ると、
「わ…私より大きい…」
 シャーロットは感嘆の声を漏らした。

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「私は近衛騎士になりたくて学園に編入するためにグリフ様に付いて王都に来ただけで、恋人とか結婚相手とかになったのではないんだ。あ、ないんです」
「無理に敬語使わなくても、話しやすいように話して大丈夫ですよ?」
 図書室のテーブルに向かい合って座るシャーロットとバネッサ。マリアとメレディスは違うテーブルで二人の方を見ている。
「しかし、私は貴族ではないから…」
「学園では一応身分での上下関係はないんです。それにバネッサさんの方が歳上だし」
 シャーロットが笑い掛けると、バネッサは安心したように息を吐いた。
「…やっぱりロッテ様はグリフ様が言う通りのいい人だ」
「え?」
「グリフ様がロッテ様は良い子だと言っていた。だからこそ、私はそんなロッテ様を裏切るグリフ様が許せないんだ」
「裏切るって、私とグリフ様は別に婚約していたのでも、お付き合いをしていたのでもないのに」
「それでも!王都に戻ったらロッテ様とデートする約束をしていたと聞いた」
「んーそれは辺境伯領に戻られる前にいただいたお手紙にそう書いてあっただけで、約束していたと言うのとは違う気がします」
「…そうなのか?」
 バネッサが目を見開いてシャーロットを見る。
「ええ」
「では、ロッテ様はグリフ様を…その…好き、なの、ではないのか?」
 言い辛そうなバネッサ。上目遣いでシャーロットを見ている。
 迫力美人なのに、何だかかわいい…
 この感じだとバネッサさんもグリフ様を好きなのね。
「ええ。恋愛的には好きではありません」
「そ、そうか」
 ほっとした表情を見せるバネッサに、シャーロットは微笑む。

 その時、

 グラグラと、地面が揺れた。










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