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「俺と…踊ってくれないか」
舞踏会でセシリアに手を差し出すシルベストに、周囲がザワッと騒めいた。
シルベストは学園の舞踏会や卒業パーティーでも、一年生の時も二年生の時も何人もの女子生徒からダンスを申し込まれていた。それを全て断っていたのだ。
そのシルベストがセシリアにダンスを申し込んだ。それは注目を浴びるだろう。
そしてその様子を第二王子が遠くからじっと見ていた。
「ダンス、下手ですみません」
ステップを踏みながらセシリアがニコリと笑う。
「…いや、俺も、長い事人前で踊ってなかったから」
「そうなんですか?すごく上手だと思いますよ?」
屈託のない笑顔。
冷たいと言われる俺にこんな笑顔を向けてくれる女性、今までいなかった。
「アボット嬢は俺が怖くないのか?」
「怖い?ですか?」
「俺は…いつも仏頂面で、物言いもぶっきらぼうだから…」
「ああ『氷の彫刻』ですもんね」
ケロリと言うセシリア。
「…そう呼ばれているのは知っている」
「私は会長が氷みたいに冷たいなんて思いませんよ。表情には出なくても周りに気を配ってるのも、自分が冷たいと思われてるのを気にしてるのもわかってます」
笑いながら言うセシリアに、シルベストは瞠目した。
「どうして…」
「人間観察が趣味なんです」
セシリアはニコニコと笑う。
かわいい。
かわいい。
かわいい。
シルベストは生まれて初めての恋に落ちた。
-----
付き合い始めたセシリアとシルベスト。
それは健全で清廉な恋人関係だ。
「私の一番好きな場所へお連れしても?」
休日に出掛けた二人。
「もちろん」
セシリアはシルベストの腕を引いた。
街から離れた所にある丘の上、大きな木が一本豊かな葉を繁らせている。
「ここです。人がいなくて落ち着くんですよ」
嬉しそうなセシリアをシルベストは眩しそうに見た。
木の根元に二人で並んで座る。
そこは天気の良い日の二人のデートの定番の場所になった。
-----
「セシリア嬢と結婚したいなら、口添えするが?」
第二王子アルヴェルがニヤニヤしながらシルベストに言う。
シルベストと、一歳下のアルヴェルは幼馴染みだ。シルベストは学園を卒業した後はアルヴェルの侍従として勤める予定だ。
「……」
学園の図書館でシルベストは本棚の本を取りながら、テーブルに肘をつくアルヴェルを横目で睨んだ。
ふわふわした薄紫色の巻き毛に赤紫色の瞳、女性的な顔立ちのアルヴェルは、もちろんシルベストに睨まれても平気だ。というより慣れている。
「マルセル公爵家の嫡男と子爵家の令嬢じゃ、反対されるだけだろ?シルベストに今まで婚約者がいなかったのは、他国の王族や貴族との縁を繋ぐ可能性を考えてだ。今更国内の一子爵令嬢じゃあ誰も納得しない」
「…それはそうだが」
「だから、その役目は僕が引き受けるよ。僕に婚約者がいないのは恋愛結婚をしたいという、王族にあるまじき希望で縁談を拒んでせいだからね」
「それでいいのか?アルヴェルは」
シルベストはこの幼馴染みが真剣にそう言っていたのを知っているのだ。
「シルベストが本気なのは見ていればわかるからね。まあ顔に出ないからわかるのは僕とセシリア嬢だけだろうけど」
アルヴェルは「ははは」と笑い、ここが図書室だと思い出して口元を押さえた。
-----
「会長、この資料は…」
セシリアが振り向くと、シルベストが生徒会長の執務机で椅子にもたれ、腕を組んで目を閉じていた。
眠ってる?
いつも隙のない会長が珍しい。
舞踏会の後から会長、私に何か言いたげな感じだけど…私の人間観察の経験からいうと…
…会長、私の事、好き、なの、かな。
なんて。
自意識過剰な自覚はある。
でも、そうだったらいいな、なんて思っちゃう自分もいる。
でも公爵家の嫡男である会長に、今まだ婚約者がいないのが不思議なくらいなんだから、いずれはやんごとなき令嬢との婚姻話が必ずある。
好きになっても先々辛い思いをするだけだわ。
目を瞑るシルベストの額にサラリと前髪が落ちる。
セシリアは思わず手を伸ばし、前髪に触れた。
「…サラサラ」
綺麗な髪だな…
もっと触れたくなって、前髪から頭頂部へと指を滑らせる。
そのセシリアの手の上にそっとシルベストの手が重なった。
「!」
手を引こうとすると、ギュッと握られる。
青い瞳がセシリアを捉えた。
「あの…すみません。つい…」
「セシリア…」
蕩けた瞳がセシリアを見つめる。
セシリアはシルベストに呼び捨てにされて、思わず固まった。
「もっと…」
またシルベストは目を閉じる。
「…え?」
もっと?
もっと撫でろって事?
そろそろと髪の流れに沿って手を動かした。
その手に擦り寄るようにシルベストが頭を動かす。
幸せそうな表情のシルベストに、セシリアは泣きそうな気持ちになった。
「俺と…踊ってくれないか」
舞踏会でセシリアに手を差し出すシルベストに、周囲がザワッと騒めいた。
シルベストは学園の舞踏会や卒業パーティーでも、一年生の時も二年生の時も何人もの女子生徒からダンスを申し込まれていた。それを全て断っていたのだ。
そのシルベストがセシリアにダンスを申し込んだ。それは注目を浴びるだろう。
そしてその様子を第二王子が遠くからじっと見ていた。
「ダンス、下手ですみません」
ステップを踏みながらセシリアがニコリと笑う。
「…いや、俺も、長い事人前で踊ってなかったから」
「そうなんですか?すごく上手だと思いますよ?」
屈託のない笑顔。
冷たいと言われる俺にこんな笑顔を向けてくれる女性、今までいなかった。
「アボット嬢は俺が怖くないのか?」
「怖い?ですか?」
「俺は…いつも仏頂面で、物言いもぶっきらぼうだから…」
「ああ『氷の彫刻』ですもんね」
ケロリと言うセシリア。
「…そう呼ばれているのは知っている」
「私は会長が氷みたいに冷たいなんて思いませんよ。表情には出なくても周りに気を配ってるのも、自分が冷たいと思われてるのを気にしてるのもわかってます」
笑いながら言うセシリアに、シルベストは瞠目した。
「どうして…」
「人間観察が趣味なんです」
セシリアはニコニコと笑う。
かわいい。
かわいい。
かわいい。
シルベストは生まれて初めての恋に落ちた。
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付き合い始めたセシリアとシルベスト。
それは健全で清廉な恋人関係だ。
「私の一番好きな場所へお連れしても?」
休日に出掛けた二人。
「もちろん」
セシリアはシルベストの腕を引いた。
街から離れた所にある丘の上、大きな木が一本豊かな葉を繁らせている。
「ここです。人がいなくて落ち着くんですよ」
嬉しそうなセシリアをシルベストは眩しそうに見た。
木の根元に二人で並んで座る。
そこは天気の良い日の二人のデートの定番の場所になった。
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「セシリア嬢と結婚したいなら、口添えするが?」
第二王子アルヴェルがニヤニヤしながらシルベストに言う。
シルベストと、一歳下のアルヴェルは幼馴染みだ。シルベストは学園を卒業した後はアルヴェルの侍従として勤める予定だ。
「……」
学園の図書館でシルベストは本棚の本を取りながら、テーブルに肘をつくアルヴェルを横目で睨んだ。
ふわふわした薄紫色の巻き毛に赤紫色の瞳、女性的な顔立ちのアルヴェルは、もちろんシルベストに睨まれても平気だ。というより慣れている。
「マルセル公爵家の嫡男と子爵家の令嬢じゃ、反対されるだけだろ?シルベストに今まで婚約者がいなかったのは、他国の王族や貴族との縁を繋ぐ可能性を考えてだ。今更国内の一子爵令嬢じゃあ誰も納得しない」
「…それはそうだが」
「だから、その役目は僕が引き受けるよ。僕に婚約者がいないのは恋愛結婚をしたいという、王族にあるまじき希望で縁談を拒んでせいだからね」
「それでいいのか?アルヴェルは」
シルベストはこの幼馴染みが真剣にそう言っていたのを知っているのだ。
「シルベストが本気なのは見ていればわかるからね。まあ顔に出ないからわかるのは僕とセシリア嬢だけだろうけど」
アルヴェルは「ははは」と笑い、ここが図書室だと思い出して口元を押さえた。
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「会長、この資料は…」
セシリアが振り向くと、シルベストが生徒会長の執務机で椅子にもたれ、腕を組んで目を閉じていた。
眠ってる?
いつも隙のない会長が珍しい。
舞踏会の後から会長、私に何か言いたげな感じだけど…私の人間観察の経験からいうと…
…会長、私の事、好き、なの、かな。
なんて。
自意識過剰な自覚はある。
でも、そうだったらいいな、なんて思っちゃう自分もいる。
でも公爵家の嫡男である会長に、今まだ婚約者がいないのが不思議なくらいなんだから、いずれはやんごとなき令嬢との婚姻話が必ずある。
好きになっても先々辛い思いをするだけだわ。
目を瞑るシルベストの額にサラリと前髪が落ちる。
セシリアは思わず手を伸ばし、前髪に触れた。
「…サラサラ」
綺麗な髪だな…
もっと触れたくなって、前髪から頭頂部へと指を滑らせる。
そのセシリアの手の上にそっとシルベストの手が重なった。
「!」
手を引こうとすると、ギュッと握られる。
青い瞳がセシリアを捉えた。
「あの…すみません。つい…」
「セシリア…」
蕩けた瞳がセシリアを見つめる。
セシリアはシルベストに呼び捨てにされて、思わず固まった。
「もっと…」
またシルベストは目を閉じる。
「…え?」
もっと?
もっと撫でろって事?
そろそろと髪の流れに沿って手を動かした。
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幸せそうな表情のシルベストに、セシリアは泣きそうな気持ちになった。
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