婚約者が記憶喪失になりました。

ねーさん

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「狭い道で横並びになろうとしたのは追い抜こうとしていたという事か?それにセシリアに話とは?」
 無表情でマジョリカを見据えるシルベストを見て、クラリッサは「こういうお兄様は『氷の彫刻』って二つ名がピッタリだわ」と思う。
「……」
 俯いたマジョリカは視線をウロウロと彷徨わせた。

「お…お兄様が悪いんです…」
 ボソリと呟いたマジョリカ。
 クラリッサは「あーあ」と内心ため息を吐いた。
「……」
 シルベストの眼差しに冷たさが足されたが、俯いたマジョリカは気付かない。
「シルベストお兄様が、あのおん…セシリア様と婚約したのがそもそもの間違いなんです。間違いは正すべきなんです。だから…」
「……」
 目を眇めるシルベスト。
 クラリッサは小さく肩を竦める。
 今「あの女」って言いかけたわ。マジョリカ…やっぱり反省してないし、全然自分の考えを改める気はないのね。
「お兄様が婚約破棄なさるのを今か今かと待っていたのに、お祖母様がセシリア様に会うと聞いて……お祖母様と何を話したのか、セシリア様に聞こうと思って追い掛けたんです。でも事故を起こそうなんて思っていませんでした。わざとじゃないんです」
 俯いたまま話すマジョリカの目に涙が浮かんだ。
「マジョリカ、『わざとじゃない』って言えば何でも通用すると思ってるの?」
 クラリッサが低い声で言う。
「クラリッサ?」
 マジョリカがクラリッサを見ると、クラリッサは「はあー…」と長く息を吐いた。
「アルヴェル殿下にも『二度目はない』って言われたんでしょう?忘れたの?」
「それは…」

「『二度目』とは?」
 クラリッサより更に低い声でシルベスト言い、マジョリカは「違うんです」と言いながらシルベストの方を見る。
 無表情ながら冷ややかな眼差しにマジョリカはビクッと震えた。
「以前、マジョリカがセシリアと言い合いになって、マジョリカがセシリアを押して階段から落と」
「クラリッサ!」
 クラリッサの言葉を遮るようにマジョリカは叫ぶ。
「やめて!はわざとじゃないってアルヴェル殿下もディナ様も認めてくださったわ。たまたま階段があっただけの事故よ」
「あの時はわざとだと言い切れなかったから見逃してもらえただけよ。だからアルヴェル殿下はマジョリカの言動に気を付けておくようにと私に知らせてくださったの、マジョリカも知ってたでしょ?」
 呆れたように肩を竦めた。
「階段から落とされた?クラリッサ、その時セシリアに怪我はなかったのか?」
 眉を顰めて言う。
「打ち身くらいで怪我はなかったです」
 シルベストは安心したように頷いた。
「そうか…セシリアが階段から落とされた事は、俺は知っていたのか?」
「いいえ。マジョリカが『シルベストお兄様には言わないで』と懇願したらしく、お兄様にはアルヴェル殿下も何も話していないはずです」
「それは、だって、わざとじゃないから…」
 オロオロと小声で言うマジョリカ。
「そのマジョリカの『わざとじゃない』って言い分を受け入れたとしても、なんだからマジョリカは責任を取るべきだと思うわ」
「責任って、クラリッサにそんな事言う権利ある!?」
 マジョリカはクラリッサに食って掛かろうとする。
「いい加減にしろ」
 そう言うと、シルベストはソファから立ち上がった。

「お…お兄様…」
 縋るような視線でシルベストを見上げるマジョリカを一瞥する。
「ロレッタの誕生パーティーでクラリッサは『セシリアに話し掛けるな』と言っていたんだろう?それも破ったんだからこれがだ」
「シルベストお兄様!」
「往生際が悪いわ。マジョリカ」
 ソファから立ち上がりかけたマジョリカの服をクラリッサが引っ張って立たせないようにした。
「仮に、この先俺やセシリアに何があったとしても、未来永劫マジョリカが俺の婚約者候補になる事はない」
 そう言い放つとシルベストはセシリアのいる寝室へと入って行く。
「お兄様!」
 シルベストは振り向かず、後手で扉を閉めた。



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