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ガサガサと草を踏み、木を避けながらシルベストは山肌を下る。
「セシリア!どこだ!?」
木の枝が身体に当たり小さな傷を作るが、気にもせず、背の高い草を掻き分けるようにシルベストは歩みを進めた。
すると、緑と茶色の視界に赤色が飛び込んで来る。
「!!」
セシリアの赤い髪。いや、もしや、血か!?
赤色の見えた場所に近付くと、セシリアが倒れていた。
赤い髪が広がり、青白い顔に血が付いている。目は閉じられていて、洋服は所々破れて血が滲んでいた。
「セシリア!」
駆け寄ったシルベストはセシリアの背中と膝の下へ手を入れ、セシリアを抱き上げる。
息はある。気を失っているだけか?頭から出血しているからあまり動かさないように…登るより、下りる方が負担が少ないか。
そう考えて、また山肌を下る。
程なく、事故が起きた道より下方の道へと出た。
平らな所へ膝をつき、セシリアを降ろし…かけて、シルベストはセシリアを抱きしめる。
「セシリア…」
「……ぅ…」
小さく呻いてセシリアが目を開けた。
「セシリア!気が付いたのか!?」
セシリアの顔を覗き込むシルベスト。
セシリアはぼんやりとしながら「シル…?」と呟く。
シルベストはまたセシリアをギュッと抱きしめた。
「…良かった」
声が震えている。
頬と頬が触れ合って、セシリアはシルベストに頬ずりをした。
-----
ガンッ!か、もしくはドンッ!か。
表現し難い音と共に強い衝撃を感じると、セシリアの身体は馬車の座席から宙に浮く。
何度かどこかに身体ごとぶつかる。それからザカザカとした音と、またぶつかる衝撃。
頭や、腕や、足に何かが当たり、身体の向きが変わり、また当たる。
そして暗闇。
死ぬのかな。
とセシリアは思った。
だったらやっぱりシルの頭を撫でさせてもらっておけば良かった。最期なら。
「セシリア」
名前を呼ばれて、薄っすら目を開ける。
シルの声…?
「シル…?」
シルがまた私の名前を呼んでくれた…?
これ、もしかして夢かな?
だってあんなにあちこちぶつけたのに全然痛くないし。
「…良かった」
震える声。泣いてるみたいな…
抱きしめられてる感覚。やっぱり夢かも。頬が濡れてる。泣かないで。シル。好き。
-----
セシリアと、マジョリカ、マルセル家の御者は別荘でそれぞれ医師の診察を受けた。
セシリアは頭部と左肩に裂傷、身体中に打撲や切創、擦過傷があり、今は眠っている。
マルセル家の御者は御者台から振り落とされ大腿骨を骨折し、藪の中で動けなくなっていた。
マジョリカは足首を捻挫していたがあとは打撲程度で軽症だ。
シルベストも小さな切り傷などの手当てを受けて、客間で眠っているセシリアのベッドの傍に座り、セシリアの手を握っている。
ノックの音がして、クラリッサが部屋に入って来た。
「お兄様…マジョリカが『謝りたい』と言ってるんですけど…」
「必要ない」
短く言う。
マジョリカは俺が現場に駆け付けた時、御者がセシリアを探しに行っていると言った。だが、我が家の御者は怪我をして動けなくなっていたし、事故を知らせに走ったのは荷馬車の御者だ。マジョリカの馬車の御者はとっとと逃げていたのに、どの口が「謝罪」などと宣うのか。
「シルベストお兄様、話を聞いてください」
クラリッサの後ろにマジョリカが立っていた。
「必要ない」
「違うんです。お兄様、私…」
マジョリカは足を引きずりながらシルベストに近付く。
「チッ」
シルベストは舌打ちして椅子から立ち上がると、クラリッサとマジョリカの方へ振り向いた。
「シルベストお兄様…」
マジョリカは嬉しそうに胸の前で手を組み、クラリッサは眉を顰め心配そうにシルベストを見ている。
「セシリアに近付くな」
冷たく言い、マジョリカを睨むように見ると、マジョリカはビクリと身体を震わせた。
「…隣へ」
マジョリカとクラリッサを寝室の続き部屋にあるソファへと促す。
一人用ソファにシルベスト、その向かい側の長ソファにマジョリカとクラリッサが並んで座った。
「荷馬車の御者は『向かい側から二台の馬車が横並びになりそうな感じで来たので避けられなかった』と言ったが、何故王都に戻るセシリアの乗った馬車と別荘に来ようとしていたマジョリカの乗った馬車が同じ方向へ走っていた?」
腿の上に置いた手を組み合わせ、シルベストが問う。
「…すれ違った時、乗っているのがセシリア様だと気付いて…話があったので…御者に…追い掛けてと頼みました」
言い辛そうにマジョリカが答えた。
ガサガサと草を踏み、木を避けながらシルベストは山肌を下る。
「セシリア!どこだ!?」
木の枝が身体に当たり小さな傷を作るが、気にもせず、背の高い草を掻き分けるようにシルベストは歩みを進めた。
すると、緑と茶色の視界に赤色が飛び込んで来る。
「!!」
セシリアの赤い髪。いや、もしや、血か!?
赤色の見えた場所に近付くと、セシリアが倒れていた。
赤い髪が広がり、青白い顔に血が付いている。目は閉じられていて、洋服は所々破れて血が滲んでいた。
「セシリア!」
駆け寄ったシルベストはセシリアの背中と膝の下へ手を入れ、セシリアを抱き上げる。
息はある。気を失っているだけか?頭から出血しているからあまり動かさないように…登るより、下りる方が負担が少ないか。
そう考えて、また山肌を下る。
程なく、事故が起きた道より下方の道へと出た。
平らな所へ膝をつき、セシリアを降ろし…かけて、シルベストはセシリアを抱きしめる。
「セシリア…」
「……ぅ…」
小さく呻いてセシリアが目を開けた。
「セシリア!気が付いたのか!?」
セシリアの顔を覗き込むシルベスト。
セシリアはぼんやりとしながら「シル…?」と呟く。
シルベストはまたセシリアをギュッと抱きしめた。
「…良かった」
声が震えている。
頬と頬が触れ合って、セシリアはシルベストに頬ずりをした。
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ガンッ!か、もしくはドンッ!か。
表現し難い音と共に強い衝撃を感じると、セシリアの身体は馬車の座席から宙に浮く。
何度かどこかに身体ごとぶつかる。それからザカザカとした音と、またぶつかる衝撃。
頭や、腕や、足に何かが当たり、身体の向きが変わり、また当たる。
そして暗闇。
死ぬのかな。
とセシリアは思った。
だったらやっぱりシルの頭を撫でさせてもらっておけば良かった。最期なら。
「セシリア」
名前を呼ばれて、薄っすら目を開ける。
シルの声…?
「シル…?」
シルがまた私の名前を呼んでくれた…?
これ、もしかして夢かな?
だってあんなにあちこちぶつけたのに全然痛くないし。
「…良かった」
震える声。泣いてるみたいな…
抱きしめられてる感覚。やっぱり夢かも。頬が濡れてる。泣かないで。シル。好き。
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セシリアと、マジョリカ、マルセル家の御者は別荘でそれぞれ医師の診察を受けた。
セシリアは頭部と左肩に裂傷、身体中に打撲や切創、擦過傷があり、今は眠っている。
マルセル家の御者は御者台から振り落とされ大腿骨を骨折し、藪の中で動けなくなっていた。
マジョリカは足首を捻挫していたがあとは打撲程度で軽症だ。
シルベストも小さな切り傷などの手当てを受けて、客間で眠っているセシリアのベッドの傍に座り、セシリアの手を握っている。
ノックの音がして、クラリッサが部屋に入って来た。
「お兄様…マジョリカが『謝りたい』と言ってるんですけど…」
「必要ない」
短く言う。
マジョリカは俺が現場に駆け付けた時、御者がセシリアを探しに行っていると言った。だが、我が家の御者は怪我をして動けなくなっていたし、事故を知らせに走ったのは荷馬車の御者だ。マジョリカの馬車の御者はとっとと逃げていたのに、どの口が「謝罪」などと宣うのか。
「シルベストお兄様、話を聞いてください」
クラリッサの後ろにマジョリカが立っていた。
「必要ない」
「違うんです。お兄様、私…」
マジョリカは足を引きずりながらシルベストに近付く。
「チッ」
シルベストは舌打ちして椅子から立ち上がると、クラリッサとマジョリカの方へ振り向いた。
「シルベストお兄様…」
マジョリカは嬉しそうに胸の前で手を組み、クラリッサは眉を顰め心配そうにシルベストを見ている。
「セシリアに近付くな」
冷たく言い、マジョリカを睨むように見ると、マジョリカはビクリと身体を震わせた。
「…隣へ」
マジョリカとクラリッサを寝室の続き部屋にあるソファへと促す。
一人用ソファにシルベスト、その向かい側の長ソファにマジョリカとクラリッサが並んで座った。
「荷馬車の御者は『向かい側から二台の馬車が横並びになりそうな感じで来たので避けられなかった』と言ったが、何故王都に戻るセシリアの乗った馬車と別荘に来ようとしていたマジョリカの乗った馬車が同じ方向へ走っていた?」
腿の上に置いた手を組み合わせ、シルベストが問う。
「…すれ違った時、乗っているのがセシリア様だと気付いて…話があったので…御者に…追い掛けてと頼みました」
言い辛そうにマジョリカが答えた。
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