婚約者が記憶喪失になりました。

ねーさん

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 セシリアのベッドの側に立つマジョリカ。
「…悪かったわ」
 怒ったように顔を歪ませて言う。
「マジョリカ・ファイネン、その顔では反省してるようには見えないぞ」
 マジョリカの斜め後ろに立つのはアルヴェルだ。
 シルベストは寝室の扉の横に立って壁にもたれている。
 マジョリカはアルヴェルの方をチラリと見るとまたベッドの上のセシリアに視線を戻した。
「じ、事故を起こす気はなかったの」
「言い訳しない」
 マジョリカが言い掛けると、アルヴェルがすかさずダメ出しをする。
「………ごめんなさい」
 さっきより小声になるマジョリカ。
「反省の色が見えないなあ」
「……」
 マジョリカは唇を尖らせて俯く。

「アルヴェル殿下、おもしろがってませんか?」
 困ったように苦笑いを浮かべるセシリア。
「いや、一度目で反省できなかったマジョリカ嬢に僕は怒ってるんだよ」
 腰に手を当てるアルヴェルに、マジョリカはますます俯いた。
 マジョリカの目に涙が浮かんでいるのを見て、セシリアは小さく息を吐く。
 好きだからなかなか諦められないマジョリカ様の気持ちもわかるけど…わざとじゃないとしても二度も危ない目にあった私が簡単に「許す」って言うのもどうかと思うし、でも「許さない」って言うほど怒ってる訳じゃないし、こんな場合何て言えばいいんだろう。
 チラッとシルベストの方を見れば、離れているのに眉間の皺がクッキリと見えた。
 シルはマジョリカ様を許すつもりはないみたい。
 セシリアはマジョリカに視線を向ける。
「謝罪は受け入れます。ただ、許すかどうかは…今はわかりません」
「……ええ」
 マジョリカはこくんと頷いた。
「マジョリカ嬢の今後の態度次第って事かな?」
 アルヴェルが肩を竦める。
「はい」
 頷くセシリアを見ながらシルベストは小さく息を吐いた。

 セシリアに深く頭を下げて、マジョリカが事故で捻挫をした足を少し引きずりながら扉の方へ歩いて行く。シルベストの横を通る時、マジョリカは下を向いて、シルベストがそちらを見る事はなかった。
「セシリア嬢は寛大だね」
 アルヴェルが一歩ベッドに近付くと、壁にもたれていたシルベストがツカツカとアルヴェルの元へ行き、後ろから襟元を掴む。
「近付くな」
「セシリア嬢、シルベストは『自覚』した途端にこんなに狭量になる男だよ?本当にいいの?」
 アルヴェルの首根っこを捕まえながらもシルベストは無表情だ。
「狭量で結構。俺はマジョリカを許さないし、今となっては婚約者に虫を近付けるつもりもない」
「一国の王子を虫扱い!?さすがに不敬じゃない!?」
「悪い虫だろう?」
「良い虫だよ!」
「虫なのは認めるんだな?」
 二人の遣り取りに、セシリアは思わず笑った。
「あはは。シル、さすがに虫はまずいと思います」
「そうか?」
 首を傾げるシルベストを笑顔のセシリアが見ている。
 アルヴェルは安心したように微笑んだ。
「セシリア嬢、僕は…キミが好きだ」
 穏やかな声でアルヴェルが言う。
「……」
 シルベストが無言で掴んでいたアルヴェルの襟元から手を離した。
「……アルヴェル殿下」
 セシリアが困った表情になると、アルヴェルは慌てて手を振る。
「ああ、違うんだ。僕は、以前からシルベストを『氷』から溶かしてくれたセシリア嬢に好意を持っていた。記憶を失くして凍りかけたシルベストをまたセシリア嬢が溶かしてくれて…それがとても嬉しいと感じている。つまり、僕はシルベストを好きなセシリア嬢が好きだという事で…………改めて考えてみたら随分不毛だな」
 最後には顎に手を当てて不満気に言うアルヴェル。
 ふっとセシリアの表情が和らいだ。
 シルベストはアルヴェルの肩をポンと叩く。
 そしてベッドの枕元に立った。

 アルヴェルは、セシリアを見下ろすシルベストと、シルベストを見上げるセシリアに口角を上げる。
「もしも婚約解消したら一度は真剣に申し込もうとは思っていたよ。でも……やっぱりセシリア嬢はシルベストと一緒の時が一番かわいく見えるからなぁ」
 アルヴェルはそう言って頭を掻いた。



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