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セシリアの馬車の事故から二週間後、シルベストの祖母が亡くなり、起き上がれるようになっていたセシリアはシルベストやその家族と共に葬儀に参列した。
葬儀にはマジョリカの姿はない。マジョリカは王都の教会で冥福を祈っていたのだ。
そして、夏期休暇もあと今日と明日の二日という週末、セシリアはマルセル公爵邸のシルベストの部屋にいた。
「シル?」
ソファで隣に座っているセシリアがシルベストを上目遣いで見た。
「……」
無言でセシリアから視線を逸らすシルベスト。
「じっと見てましたけど、顔に何か付いてますか?」
セシリアは頬に手を当てる。
「いや。そういう訳では…」
「シル?」
首を傾げるセシリアに、チラリと視線を向けて、また逸らした。
「……俺は」
目を逸らしたまま、口元に手を当てるシルベストは、すごく言い辛そうに話し出す。
「?」
「その…以前の俺は…セシリアに…」
以前のって、記憶を失う前のシルって事、よね?
「…どこまで………出していたんだ?」
小声でよく聞こえなかったけど…「てお」って言ったような………
て?お?だして……
え?もしかして「手を出して」って言った!?
つまり、シルは今「以前の俺はセシリアにどこまで手を出していたんだ?」って聞いたの!?
口に出し、若干開き直ったシルベストは、眉根を寄せてセシリアを見ていた。
怒ってるみたいな表情だけど、違うわ。これは、もしかして…嫉妬?
「シル」
セシリアはシルベストの頬にそっと触れる。
シルベストはそのセシリアの手を握ると、手の平に頬を擦り寄せた。
「…済まない。今の俺の知らない俺との触れ合いがセシリアにあると思うと…相手は俺なのに、何だか胸を掻きむしりたいような気持ちになるんだ」
「シル…」
「自分に嫉妬するなどおかしな話だ。まして婚約を解消しようとしていた俺にそんな資格はないだろう」
眉間の皺を深くするシルベスト。
俺はセシリアを好きなんだと実感する度、セシリアをかわいいと思う度、口付けをしたいと思う度……以前の俺もそうしたんだろうか、と、セシリアにとっては何度目なんだろうか、と、考えてしまう。
それにもしも記憶が戻ったら、今度は「今の俺」がいなくなる。記憶を失っていた間の出来事を思い出せなくなってしまうかも知れない。
ポツポツと苦しい気持ちを吐露するシルベストの首にセシリアは手を回し、ぎゅっと抱きついた。
「大丈夫です。今のシルの事は私が覚えていますから」
「セシリア…」
「以前のシルも、今のシルも、シルが忘れても、私が覚えてるから、いなくなったりしません!」
抱きつく手にぎゅうっと力を入れる。
シルベストもセシリアをギュッと抱きしめた。
しばらく抱きしめ合った後、腕を緩めて見つめ合う。
「セシリア…」
額と額をくっつけ、シルベストが切なげにセシリアを見た。
「あの…さっき『どこまで』って言われましたけど」
セシリアは少し頬を染めながら上目遣いでシルベストと視線を合わせる。
「……言わなくていい」
具体的にどこまでと言われても気になるだけだし、まるっきり何もないと言われても信じられない。
そう思い、シルベストが目を閉じると、セシリアが動く気配がして、唇に柔らかいものが触れた。
「!」
パッと目を開けると、真っ赤になったセシリアと目が合った。
「か…身体が覚えてたでしょう…?」
「…っ」
恥ずかしそうに言うセシリアに心臓を鷲掴みにされたような気持ちになる。
確かに、あの柔らかさを俺は知っている。と唇の感触を思い出していると、
「…私からしたのは初めてですよ?」
と上目遣いでセシリアが言った。
「!」
セシリアは、以前の俺と今の俺は同じ人物なんだと言いながらも、今の俺にセシリアの「初めて」をくれたんだ。
「セシリア!」
シルベストはセシリアを強く強く抱きしめた。
セシリアの馬車の事故から二週間後、シルベストの祖母が亡くなり、起き上がれるようになっていたセシリアはシルベストやその家族と共に葬儀に参列した。
葬儀にはマジョリカの姿はない。マジョリカは王都の教会で冥福を祈っていたのだ。
そして、夏期休暇もあと今日と明日の二日という週末、セシリアはマルセル公爵邸のシルベストの部屋にいた。
「シル?」
ソファで隣に座っているセシリアがシルベストを上目遣いで見た。
「……」
無言でセシリアから視線を逸らすシルベスト。
「じっと見てましたけど、顔に何か付いてますか?」
セシリアは頬に手を当てる。
「いや。そういう訳では…」
「シル?」
首を傾げるセシリアに、チラリと視線を向けて、また逸らした。
「……俺は」
目を逸らしたまま、口元に手を当てるシルベストは、すごく言い辛そうに話し出す。
「?」
「その…以前の俺は…セシリアに…」
以前のって、記憶を失う前のシルって事、よね?
「…どこまで………出していたんだ?」
小声でよく聞こえなかったけど…「てお」って言ったような………
て?お?だして……
え?もしかして「手を出して」って言った!?
つまり、シルは今「以前の俺はセシリアにどこまで手を出していたんだ?」って聞いたの!?
口に出し、若干開き直ったシルベストは、眉根を寄せてセシリアを見ていた。
怒ってるみたいな表情だけど、違うわ。これは、もしかして…嫉妬?
「シル」
セシリアはシルベストの頬にそっと触れる。
シルベストはそのセシリアの手を握ると、手の平に頬を擦り寄せた。
「…済まない。今の俺の知らない俺との触れ合いがセシリアにあると思うと…相手は俺なのに、何だか胸を掻きむしりたいような気持ちになるんだ」
「シル…」
「自分に嫉妬するなどおかしな話だ。まして婚約を解消しようとしていた俺にそんな資格はないだろう」
眉間の皺を深くするシルベスト。
俺はセシリアを好きなんだと実感する度、セシリアをかわいいと思う度、口付けをしたいと思う度……以前の俺もそうしたんだろうか、と、セシリアにとっては何度目なんだろうか、と、考えてしまう。
それにもしも記憶が戻ったら、今度は「今の俺」がいなくなる。記憶を失っていた間の出来事を思い出せなくなってしまうかも知れない。
ポツポツと苦しい気持ちを吐露するシルベストの首にセシリアは手を回し、ぎゅっと抱きついた。
「大丈夫です。今のシルの事は私が覚えていますから」
「セシリア…」
「以前のシルも、今のシルも、シルが忘れても、私が覚えてるから、いなくなったりしません!」
抱きつく手にぎゅうっと力を入れる。
シルベストもセシリアをギュッと抱きしめた。
しばらく抱きしめ合った後、腕を緩めて見つめ合う。
「セシリア…」
額と額をくっつけ、シルベストが切なげにセシリアを見た。
「あの…さっき『どこまで』って言われましたけど」
セシリアは少し頬を染めながら上目遣いでシルベストと視線を合わせる。
「……言わなくていい」
具体的にどこまでと言われても気になるだけだし、まるっきり何もないと言われても信じられない。
そう思い、シルベストが目を閉じると、セシリアが動く気配がして、唇に柔らかいものが触れた。
「!」
パッと目を開けると、真っ赤になったセシリアと目が合った。
「か…身体が覚えてたでしょう…?」
「…っ」
恥ずかしそうに言うセシリアに心臓を鷲掴みにされたような気持ちになる。
確かに、あの柔らかさを俺は知っている。と唇の感触を思い出していると、
「…私からしたのは初めてですよ?」
と上目遣いでセシリアが言った。
「!」
セシリアは、以前の俺と今の俺は同じ人物なんだと言いながらも、今の俺にセシリアの「初めて」をくれたんだ。
「セシリア!」
シルベストはセシリアを強く強く抱きしめた。
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