悪役令嬢なのに「赤い糸」が見えるようになりました!

ねーさん

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「ブリジット!これ見て」
 草むらにしゃがみ込んでいたマリアンヌは、満面の笑みで立ち上がると、大きな木の側で日傘を差してシートに座っているブリジットに手招きをした。
「何?」
 ブリジットは立ち上がると、マリアンヌに近付く。
「この花はね雪が降り積もる寒い土地が主な生息地なの。ここで見られるなんて珍しいわ」
 マリアンヌの足元に、小さくて白い花が三輪咲いていた。小さな蕾も何個か見える。
「かわいい。王都にはないの?」
「王都は暖かいから育たないのよ。ね、かわいいわよね」
 ニコニコ笑いながらまたしゃがみ込んで白い花を眺めるマリアンヌ。
「ねぇマリアンヌって昔はこんなに園芸好きじゃなかったわよね?」
 ブリジットが花を見て微笑むマリアンヌの後ろに立ち、首を傾げた。
「そうね」
 花に視線を向けたままマリアンヌが頷く。

「マリアンヌ、ブリジット。ここにいたんだね」

 ガサガサと草を鳴らして、林の中からロイとワイゼルが現れた。
 ワイゼル・ゲイディスはロイと同じ歳の伯爵令息。ロイとはクラスが違うが園芸部で仲良くなり、将来はロイの側近になると目されているのだ。

 ワイゼルが小さな鉢を何個か乗せたトレイを両手で持っている。それを見たマリアンヌは立ち上がると嬉しそうにロイとワイゼルの方へ歩み寄った。
「ロイ殿下、ワイゼル様、これは王都に持ち帰る鉢ですか?」
「ああ。マリアンヌも何か持って帰りたい植物があるかい?」
「あります!いいんですか!?」
「もちろん」
 嬉しそうなマリアンヌと、ロイ殿下、穏やかな微笑みを浮かべて二人を見るワイゼル様。
 何だか上手く表現できないけど、何だか「しっくりくる」感じ。
 ブリジットは少し離れた所からマリアンヌを見る。
「ブリジットは、楽しいかな?」
「え?」
 ロイに話し掛けられ、ブリジットはマリアンヌからロイに視線を移して三人に近付いた。
「いや…僕たちは兄上やエドモンドたちのように街へ出たり、観劇に行ったり、ボート遊びをしたりしていないから、ブリジットは退屈なんじゃないかな、と…」
 確かに、ロイたちは連日こうして植物観察と採集や、保養所の庭の手入れや植栽などをしていて、遊びらしい遊びはしていないのだ。
「いえ。姉に付いて街へ行ったりもしましたし、マリアンヌと一緒に景色を見たりも楽しいですし、退屈などしておりません」
「それなら良かった」
「お気遣いありがとうございます」
 ニコリと笑い合うブリジットとロイ。
 そんな二人をマリアンヌが見ている。

「マリアンヌ様はどんな植物を王都に持って帰りたいんですか?」
 ワイゼルが言うと、マリアンヌはハッとしたようにワイゼルに視線を移した。
「湖の近くに芍薬が咲いていて…色が綺麗だったので持って帰れたらなあと」
「花は王都に着くまでに枯れてしまうのではないかな?」
 ロイがそう言うと、マリアンヌは首を横に振る。
「いえ、株を。家の庭で咲かせたいんです」

 その芍薬、マリアンヌと一緒に見たわ。
 紫で、グレイ殿下やロイ殿下の髪の色みたいってマリアンヌと話した…あの花を家に持ち帰りたいって事は、マリアンヌはロイ殿下の事を…
 ワイゼル様は私とロイ殿下が話してると、さっきみたいにさり気なくロイ殿下の気を引くようにマリアンヌに話を振ってるのよね。つまりワイゼル様はマリアンヌがロイ殿下を好きなのに気付いてて、マリアンヌを応援してるって事なのかしら。
「ワイゼル様」
 ブリジットが小声でワイゼルに話し掛けると、ワイゼルはロイとマリアンヌには気付かれないように目線だけでブリジットに応えた。
「その芍薬…何色だと思います?」
 ブリジットも視線はマリアンヌの方に向けたまま小声で言うと、ワイゼルはほんの少し片眉を上げる。
「紫」
 ブリジットは「当たり」と言う代わりにニッコリと笑った。

「ねえ、マリアンヌ。芍薬の花って色々な色があるわよね?」
 マリアンヌに向かって言うと、マリアンヌは小さく首を傾げる。
「え?そうね。色々あるわね」
「緑色の花ってあるのかしら?」
「あるわよ」
「私はそれを庭に植えたいわ。私の好きな人の瞳が緑色なの」
 ブリジットは両手を合わせて嬉しそうに言った。
 今夜はマリアンヌにお兄様の事を話そう。そしてマリアンヌからもロイ殿下の事を聞こうっと。

「好きな、人…」
 ロイが呆然としてブリジットを眺めて呟くと、ワイゼルが無言でロイの肩に手を置いてポンポンと慰めるように叩いた。



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