続編の悪役令嬢にはヒロインをいじめられない事情(わけ)がある。

ねーさん

文字の大きさ
35 / 57

34

しおりを挟む
34

「レイラ」
 父ブライアンがいつものようにレイラの頬に触る。
「お父様…」
「…レイラ、良かったわ」
 母スーザンもブライアンの後ろからレイラの顔を覗き込む。
「お母様」
「あれから今日で十六日経つのよ。ずっと横になっていたからまだ起き上がるのは無理ね」
「十六日も…」
「髪が短くなってて、鏡を見たら驚くかも知れないわね。でも切った髪の毛はちゃんと取ってあって、それで付け毛を作ってあるから心配しなくて大丈夫よ」
 スーザンは明るい口調で言う。
「…お父様、お母様、私の左の手と足ってどうなってるんですか?感覚がないんですけど…」
 レイラは不安そうな表情で言う。起き上がれないので目視で確認する事ができないのだ。
「左手は上腕と手首を骨折している。左足も大腿骨の解放骨折。だから今はガチガチに固めてあるから動かないんだよ」
 ブライアンがレイラの頬を撫でながら言う。安心させるように優しい口調だ。
「後は頭に裂傷と、顔に少し切り傷があるの」
「眼は大丈夫なんですか?」
 顔半分にガーゼを貼られているので、左目が見えるのか見えないのかもよく判らない。
「眼に近い所に傷があるからガーゼで覆われてるけど、眼は大丈夫よ」
「そっか…」
「内蔵には損傷がなかったようだから、手足は暫くは不自由だが、ちゃんと治る」
 ブライアンがきっぱりと言い切る。スーザンが大きく頷く。
 レイラもこくんと頷いた。

 薄っすらと目が覚める度にカイルが居たような気がしたんだけど…夢だったのかなあ…
 目が覚める度、カイルに「レイラ」と呼ばれて頬を撫でられた。でも今は視線で病室を見回してもカイルの姿はなかった。
 私の願望が夢に現れたのかな…
 レイラがそう思った時、スーザンが言う。
「カイル殿下も間が悪いわね。あんなにずっとレイラに付き添っていたのに、しっかり目が覚めた今は学園の行事でいないなんて」
「え?」
 …カイル、やっぱりずっと付いててくれたの?
「学園の秋期の終了式なんだよ。今日」
 ブライアンが言う。
 カイルは生徒会長だから、挨拶があるのだ。
「あれからずっとカイル殿下も学園をお休みしてたから、今日はどうしても行かないといけなかったらしいわ」
「間が悪いと言えば、レイラにカイルの腫れた両頬を見せられなかったのも間が悪かったな」
「ええ?」
 腫れた、両頬?カイルの?
「今回の事で、婚約者を蔑ろにし、他の女性にうつつを抜かしていたのを王太子殿下と妃殿下に知られて…な」
「そうなの。王太子殿下に平手で、妃殿下に拳固で殴られたそうよ」
 スーザンが右手を広げ、左手を握り、それぞれ殴るような動きをする。
「王太子殿下と妃殿下が…てっきりお父様とお母様が殴ったのかと…あ、ごめんなさい」
「あら、もちろんあのお二方が殴ってなければ、私と旦那様が殴っていたわよ。ね、旦那様」
「もちろんだ。あの腫れた頬をレイラに見せられなかったのが心残りだがな」

-----

「レイラ!」
 学園の制服姿のカイルが病室に飛び込んで来る。
「…カイル」
 カイルは安堵の表情を浮かべた後、口元を引き締めて、レイラの寝ているベッドの傍らに跪いた。
 そして、拳を床につける。
「俺はレイラを傷付けた。許してもらえなくて当然だと思うが、謝罪をさせてくれ。本当に申し訳ない…」
 俯いて言うカイル。
「謝罪…」
「ああ。俺はレイラをこんな目に合わせた自分が許せない」
「…この怪我はカイルのせいじゃないわ」
 カイルはどんな表情で話してるんだろう?
「いや、俺がちゃんとしていれば、レイラがあんな所に居る事はなかったんだ」
 確かに、カイルを避けるために屋上の端っこにいたんだけど…
「カイル」
 こっちを見て。
 カイルは視線を上げてレイラを見つめた。
 …優しい眼。
 カイルは片手で自分の口元を覆う。
「済まない。謝罪をしているのに…レイラが俺を呼び捨ててくれるのが嬉しくて…」
「え?あ…」
 心の中で呼んでいる通りに口から出てたわ。
「どうか、そのまま『カイル』と…俺を呼んでくれ。レイラ」
 跪いたまま、カイルはレイラの右手を取ると、顔を寄せて甲に口付ける。
「許されなくても、嫌われていても、罵られても、レイラが生きていて、俺を見て、俺を呼んでくれれば、俺はそれだけで良いんだ」
 右手の甲に唇を当てたまま、カイルはレイラを見つめる。
 紫色の宝石のような瞳にレイラの姿が映っていた。
「レイラが大切なんだ。俺はレイラが…レイラだけが好きだ」
 …これ、夢の続き?
 レイラの眼に涙が浮かぶ。
「あ、痛っ」
「どうした!?」
 カイルが慌てて立ち上がってレイラの顔を覗き込む。
「涙が…傷に沁みて…」
 レイラは右手で顔のガーゼを押さえて思わず苦笑いを浮かべる。
 何だか良い雰囲気だったのに、台無しなのが私らしいわ。
「泣かせてごめん」
 カイルが包帯を避けながらレイラの頭を撫でた。
「…嬉し涙だから、良いの」
 痛かったから、夢じゃないのが判ったしね…










しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

私の存在

戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。 何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。 しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。 しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵令息から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

処理中です...