続編の悪役令嬢にはヒロインをいじめられない事情(わけ)がある。

ねーさん

文字の大きさ
42 / 57

41

しおりを挟む
41

「ミシェル様、大丈夫ですか?」
 階段でふらつくミシェルをイアンが慌てて支える。
「…体力がないのよ」
「俺のせい…なんですか?」
「そうよ」
 ミシェルはイアンの腕をぎゅっと掴みながら言う。
「レイラを死なせる処だったんだもの。三階よ?助かったのは運が良かっただけ。なのにお父様もみんなも『あれは事故だ』って言うし…何であの時あんなにレイラを憎らしく思ったのか、誰も答えてくれないし…イアンは居ないし…食べられないし、眠れないし…」
「……」
 涙を浮かべるミシェルをイアンは眉を寄せて見つめる。
「見かねたエマがイアンの行方を探してくれたの」
「俺の行方、知られてるんですか?」
「ううん。イアンが公爵家を出てからどこで何をしてるのかは知らないわ。ただ今日イアンがレイラの所へ来るって情報をエマが仕入れて来たのよ」
「どこから?」
「さあ?…ただ、私はサイラス殿下からの情報じゃないかと思ってるの」
「サイラス殿下?」
 ピクリとイアンが反応する。
「お見舞いにも来て頂いたけど、どうしてもお会いできなくて…私がイアンに会いたがってるの、エマから聞いたんだと思うわ」
「ミシェル様…俺に会いたかったんですか?」
 ミシェルは少し唇を尖らせて下からイアンを見上げる。
「そうよ」
「……」
 イアンは少し黙った後、屈み込んでミシェルを抱き上げた。
「きゃっ」
「…どうしてそんな事言うんですか」
 イアンは憮然として、ミシェルを抱いたまま階段を降りる。
「どうしてって」
 廊下を抜けて、中庭に出ると、中庭に置かれたベンチにミシェルを座らせた。

 ミシェルの前に立つイアンを見上げる。
「…イアン、私の事ずっと好きだったって、本当?」
「嘘です」
「え?」
 イアンは視線をよそへ向けて言う。
「ウィルマは俺がミシェル様を好きだとしていたんです。それであんな事をした。だから俺のせいでレイラ様が怪我をし、ミシェル様が苦しんだのは本当です。ミシェル様、ウィルマも公爵家を解雇されたのはご存知ですよね?」
「…ええ」
「誤解で人生狂わされたなんて知ったらウィルマは今以上に苦しみます。だから俺は本当にミシェル様を好きだった事にしたんです」
 ミシェルはイアンを見つめたまま、震えだす。
「…嘘なの?イアンは私を好きじゃない…?」
「好きじゃありません」
 視線を逸らしたままイアンが言う。
「………そう」
 ミシェルは俯いて小さく呟くと、スカートのポケットに手を入れた。
「だから、ミシェル様はサイラス殿下と幸せになってください」
「……」
 イアンが黙ってしまったミシェルへ少し視線をやると、ミシェルは膝の上で何かを握りしめていた。
「……そっか。私、結局報われないのね」
 下を向いたままミシェルが呟く。
「ミシェル様?」
「だったら、あのまま、助けないで欲しかったな。レイラと一緒に落ちてれば…」
「ミシェル様?」
 イアンがミシェルの手に触る。ビクッとしたミシェルの手から見覚えのある小瓶が転がり出て、芝生に落ちた。
「…惚れ薬?」
 ミシェルは立ち上がると、イアンに背を向けて小瓶の側にしゃがみ込む。
 小瓶を手に取ると顔の前にかざす。
「まだ誰の髪の毛も入れてないの。レイラにあげようと思ってたんだけど、私が使った方が良さそうね」
「どうして…」
「私が、サイラス殿下を好きになれば、良いんでしょ?」
 ふらりと立ち上がったミシェルは涙を浮かべた瞳でイアンを振り向く。
「…っ」
 イアンは小瓶を持ったミシェルの手を掴むと、自分の方へ引き寄せた。

-----

「言ってる事とやってる事がバラバラだわ」
 イアンに抱きしめられたミシェルはため息混じりに言う。
「…そうですね」
 イアンはミシェルの髪に顔を埋めるようにして言う。両腕はミシェルの腕ごと抱き込んでミシェルの背中に回っていた。
「嘘なんじゃなかったの?」
「嘘なのが嘘です」
「…混乱するわね。『俺はお前を好きじゃないから殿下と幸せになれ作戦』は方向転換なの?」
「その作戦名は恥ずかしいです」
「じゃあ『俺は身を引くからお前は殿下と幸せになれ作戦』?」
「…意地悪ですね。ミシェル様」
「意地悪なのはイアンでしょ」
「そうですね。意地悪なのは俺です」
「…ねぇ、ちょっとだけ腕緩めて?」
「嫌です」
「だって…私もイアンの背中に手を回したいもん」
「……」
 イアンは少しだけ腕を緩める。ミシェルはイアンの背中に手を回すと、ぎゅっと抱きついた。
「…ミシェル様、好きです」
 イアンが撫でるように背中の手を動かしながら言う。
「あのね、イアン」
「はい」
「私とサイラス殿下の婚約…解消する事になったの」
「え!?」
 イアンは驚いて髪に埋めていた顔を上げる。
「大好きよ。イアン」
 驚いた表情のイアンを見つめ、ミシェルは涙目で笑いながら言うと、改めてイアンに抱きついた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵令息から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

私の存在

戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。 何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。 しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。 しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...