43 / 57
42
しおりを挟む
42
「じゃあその惚れ薬は俺が貰い受けよう」
「どうするんですか?そんな物」
執務机についたサイラスが手を差し出すと、机の前に立つイアンはその手の平に小瓶を乗せた。
「意中の令嬢ができたら使うに決まってるだろ?」
サイラスは口角を上げる。
「サイラス殿下がそんな薬に頼るとは思えませんが」
「そう言うが、俺は二十歳も過ぎてから婚約者を失うんだぞ?第一王子の婚約者になりそうな歳周りの上位貴族の令嬢はすでに結婚したり婚約したりしてるじゃないか」
「…それは」
複雑な表情のイアンを見て、サイラスはニヤリと笑う。
「なんてな。こんな薬で一時的に気持ちを向けても仕方がない。ただ効き目はあるようだから市中に広まる様だと厄介な薬だな」
「そうですね」
「個人使用のために仕入れたと言う話だからそんなに数は入ってきていないんだろう?」
「ウィルマが言うには、レベッカ・ハイアット嬢はこれを二本仕入れて、二本共ウィルマにくれたそうです」
「では、ハイアット商会にこの薬は輸入禁止だと申し伝えるか」
サイラスは立ち上がると、小瓶の蓋を開ける。そして窓からその小瓶を投げた。
小さくポチャッと音がして、小瓶は中庭の噴水の水盤へと沈んで行く。
「コントロール良いですね。サイラス殿下」
「実は前世のリトルリーグでピッチャーやってたんだ」
憔悴するミシェルを見かねた侍女エマは、イアンを探すと同時に、実家に戻っていたウィルマに会いに行き、ミシェルに真実を教えてくれと頼んだ。ミシェルの前でウィルマは惚れ薬の事を告白し、そして残っていた一本がミシェルの手に渡る。
ミシェルは父モーリス公爵からは何も言うなと言われていたが、見舞いに来たサイラスにレイラと一緒に落ちようとして自分だけが助けられた事を告げた。
ミシェルの気持ちを知ったサイラスはミシェルとの婚約を解消すると決めたのだ。
「サイラス殿下、俺がモーリス公爵家を解雇されてからサイラス殿下にお仕えしている事、エマにバラしましたね?」
「ミシェル本人には言わなかったんだから良いだろ?それに俺の側にいればミシェルにバレるのも時間の問題だ」
「ミシェル様にバレる前には王都を出ようと思ってましたよ」
「いやあ、俺としては同じ元日本人の感覚が似ているイアンが側にいてくれるのが居心地良くてありがたいからこのままずっと側近として居て欲しいんだが」
「まあ、元日本の庶民が『王子』とか『執事』とかになるの、何となく気恥ずかしいのは分かりますが」
「だろう?」
「しかし俺はずっとサイラス殿下の側に仕える事はできませんよ?」
「何故?」
「ミシェル様が、学園を卒業後に領地へ幽閉される事になったからです」
「幽閉?」
サイラスは目を見開く。ゲームで婚約破棄されたミシェルは領地へ幽閉され、一生家族にも友人にも会えなかったのでは…と思い出す。
「一応、表向きはレイラ様の件と、第一王子から婚約解消された罰と言うか…実際には幽閉ではなく、旦那様…モーリス公爵の温情で『領地で自由にしろ』と言う事らしいです」
「あ、そう言う事か…」
サイラスはほっと息を吐く。
「と、言う事は、イアンはミシェルが学園を卒業したら領地へ一緒に行く、と」
「はい。結婚という形は取れませんが、傍にいるという俺の希望は叶います」
モーリス公爵はミシェルに「領地屋敷の人事はあちらに任せている。誰を雇おうと関与しない」と言ったという。つまり、公爵家を解雇されたイアンを領地屋敷でまた雇う、と言っているのだ。
「…モーリス公爵は良い人だな」
「はい。娘を第一王子に嫁がせる事ができなくなって色々思う処もおありな筈なのに…本当に感謝しています」
「では、ゲームに倣い、俺の妃候補を公爵家の養女にする、と言うのはどうだ?」
サイラスは椅子に寄り掛かり口角を上げると、前に立つイアンを見上げる。
「…は?」
「元庶民の男爵令嬢を養女にして、王子妃にできたなら、生まれながらの子爵令嬢ならもっと簡単だろう?」
「子爵令嬢?…誰の事なんですか?」
サイラスはニッコリと笑って言った。
「エマだ」
「じゃあその惚れ薬は俺が貰い受けよう」
「どうするんですか?そんな物」
執務机についたサイラスが手を差し出すと、机の前に立つイアンはその手の平に小瓶を乗せた。
「意中の令嬢ができたら使うに決まってるだろ?」
サイラスは口角を上げる。
「サイラス殿下がそんな薬に頼るとは思えませんが」
「そう言うが、俺は二十歳も過ぎてから婚約者を失うんだぞ?第一王子の婚約者になりそうな歳周りの上位貴族の令嬢はすでに結婚したり婚約したりしてるじゃないか」
「…それは」
複雑な表情のイアンを見て、サイラスはニヤリと笑う。
「なんてな。こんな薬で一時的に気持ちを向けても仕方がない。ただ効き目はあるようだから市中に広まる様だと厄介な薬だな」
「そうですね」
「個人使用のために仕入れたと言う話だからそんなに数は入ってきていないんだろう?」
「ウィルマが言うには、レベッカ・ハイアット嬢はこれを二本仕入れて、二本共ウィルマにくれたそうです」
「では、ハイアット商会にこの薬は輸入禁止だと申し伝えるか」
サイラスは立ち上がると、小瓶の蓋を開ける。そして窓からその小瓶を投げた。
小さくポチャッと音がして、小瓶は中庭の噴水の水盤へと沈んで行く。
「コントロール良いですね。サイラス殿下」
「実は前世のリトルリーグでピッチャーやってたんだ」
憔悴するミシェルを見かねた侍女エマは、イアンを探すと同時に、実家に戻っていたウィルマに会いに行き、ミシェルに真実を教えてくれと頼んだ。ミシェルの前でウィルマは惚れ薬の事を告白し、そして残っていた一本がミシェルの手に渡る。
ミシェルは父モーリス公爵からは何も言うなと言われていたが、見舞いに来たサイラスにレイラと一緒に落ちようとして自分だけが助けられた事を告げた。
ミシェルの気持ちを知ったサイラスはミシェルとの婚約を解消すると決めたのだ。
「サイラス殿下、俺がモーリス公爵家を解雇されてからサイラス殿下にお仕えしている事、エマにバラしましたね?」
「ミシェル本人には言わなかったんだから良いだろ?それに俺の側にいればミシェルにバレるのも時間の問題だ」
「ミシェル様にバレる前には王都を出ようと思ってましたよ」
「いやあ、俺としては同じ元日本人の感覚が似ているイアンが側にいてくれるのが居心地良くてありがたいからこのままずっと側近として居て欲しいんだが」
「まあ、元日本の庶民が『王子』とか『執事』とかになるの、何となく気恥ずかしいのは分かりますが」
「だろう?」
「しかし俺はずっとサイラス殿下の側に仕える事はできませんよ?」
「何故?」
「ミシェル様が、学園を卒業後に領地へ幽閉される事になったからです」
「幽閉?」
サイラスは目を見開く。ゲームで婚約破棄されたミシェルは領地へ幽閉され、一生家族にも友人にも会えなかったのでは…と思い出す。
「一応、表向きはレイラ様の件と、第一王子から婚約解消された罰と言うか…実際には幽閉ではなく、旦那様…モーリス公爵の温情で『領地で自由にしろ』と言う事らしいです」
「あ、そう言う事か…」
サイラスはほっと息を吐く。
「と、言う事は、イアンはミシェルが学園を卒業したら領地へ一緒に行く、と」
「はい。結婚という形は取れませんが、傍にいるという俺の希望は叶います」
モーリス公爵はミシェルに「領地屋敷の人事はあちらに任せている。誰を雇おうと関与しない」と言ったという。つまり、公爵家を解雇されたイアンを領地屋敷でまた雇う、と言っているのだ。
「…モーリス公爵は良い人だな」
「はい。娘を第一王子に嫁がせる事ができなくなって色々思う処もおありな筈なのに…本当に感謝しています」
「では、ゲームに倣い、俺の妃候補を公爵家の養女にする、と言うのはどうだ?」
サイラスは椅子に寄り掛かり口角を上げると、前に立つイアンを見上げる。
「…は?」
「元庶民の男爵令嬢を養女にして、王子妃にできたなら、生まれながらの子爵令嬢ならもっと簡単だろう?」
「子爵令嬢?…誰の事なんですか?」
サイラスはニッコリと笑って言った。
「エマだ」
6
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです
鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。
理由は――
「王太子妃には華が必要だから」。
新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。
誰もが思った。
傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。
けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。
「戻りません」
彼女は怒らない。
争わない。
復讐もしない。
ただ――王家を支えるのをやめただけ。
流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。
さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。
強いざまあとは、叫ぶことではない。
自らの選択で、自らの立場を削らせること。
そして彼女は最後まで戻らない。
支えない。
奪わない。
――選ばれなかったのではない。
彼女が、選ばなかったのだ。
これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵令息から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
私の存在
戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。
何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。
しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。
しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる