続編の悪役令嬢にはヒロインをいじめられない事情(わけ)がある。

ねーさん

文字の大きさ
45 / 57

44

しおりを挟む
44

「カイル殿下、私とライアンはもうお別れしてますから、今更失恋なんてしませんよ?」
 休日、王城の図書館にいたキャロラインをお茶に誘ったレイラとカイルの前で、キャロラインはコロコロと笑いながら言った。
「キャロライン様、もうライアン兄様の事…好きじゃないの?」
「…ないわ」
 レイラの問いに一瞬言い淀むキャロライン。
「それより、明後日は卒業パーティーでしょう?レイラちゃんどんなドレスなの?」
 明るく言うキャロラインに、今度はレイラが言い淀む。
「…む、紫の」
「全体が薄紫で、フリルは白、後は濃紫の装飾だな」
 レイラが恥ずかしそうに言うのに、カイルはサラリと言った。
「あら、カイル殿下から贈られたドレスなのね?そんなに恥ずかしがる事ないんじゃない?」
「ええまあ、約束だったので…でも恥ずかしいです」
 カイルの卒業パーティーまでドレスを贈られる事を拒否していたのだ。そのカイルの卒業パーティーなのだから、受け取らない訳にはいかないレイラなのだった。
「どんなドレスか見たいな」
「見ますか?トルソーに着せて部屋にありますよ」
「本当?見たいわ!」

 今はレイラの部屋として使っている王宮の客間は二階にある。
 腕の固定は取れたレイラだが、左足はまだだ。松葉杖で廊下を歩くが、お茶をしていたテラスから二階への移動でカイルはレイラを抱き上げた。
「軽々ね」
 キャロラインがカイルの後ろを歩きながら言う。
「レイラは軽い」
「やめてよ~」
 階段を登りきった所でカイルはレイラを床へ降ろした。その時、廊下の向こうから三人の人影が近付いて来る。

「何故ですか!?サイラス殿下」
「こちらこそ『何故』だ。何故君を妃にしなくてはいけない?」
 先を歩くサイラス、その後から小走りにアリスが付いて来ている。
「アリス、いい加減に…」
 アリスの少し後ろを呆れ顔のライアンが追う。
「だって!子爵令嬢で良いなら、私でも良いじゃないですか!?」
「いや、その理屈が通じると本当に思ってるのか?」
 アリスと、サイラス殿下とライアン兄様?
「兄上」
 カイルが声を掛けるとサイラスはほっとした表情を見せた。
「カイルとレイラか。キャロライン嬢も」
「キャロライン?」
 ライアンが驚いた顔でキャロラインを見る。
「何、サイラス殿下を困らせてるのよ?ライアン」
「いや、アリスがサイラス殿下に会いたいって言うから…」
「だからって素直に連れて来るかしら?普通」
 キャロラインはジロリとライアンを睨む。
「急にアリスが『私を妃にしてください』なんてサイラスに言うとは思わないだろ?普通」

 キャロラインとライアンの言い合いを苦笑いで眺めるサイラスとカイル。
 レイラは少し離れた所でカイルの側近から松葉杖を受け取った。

「何よ…」
 アリスは自身のスカートをぎゅっと握りしめる。
「何よ、何よ、何よ!サイラス殿下もカイル殿下も、ハミルトン先生も!どうして私じゃない女性ひとが大切なの!?私が望めば誰とでも結ばれる筈なのに!」
 アリスが叫ぶように言う。
「いや、アリス…」
「私は『ヒロイン』なんでしょう!?」
 ライアンがアリスの肩に手を乗せようとする。
「触らないで!」
 アリスはライアンの手を両手で掴むと大きく横に振った。

 そして、バランスを崩したライアンは、階段の上に立つカイルとサイラスにぶつかる。

 階段の上で膝をつくライアン。

 カイルとサイラスは、もつれる様に階段を落ちた。

-----

「カイル!」
 スローモーションのように階段を落ちるカイルとサイラスを見て、レイラが叫ぶ。

「サイラス殿下!」
「カイル殿下!」
 側近や侍従、侍女やメイドが二階から、一階から沢山出てきてカイルとサイラスを取り囲んだ。

 階段下に倒れたカイルは、ゆっくり起き上がると、一緒に落ちたサイラスを見る。
「お前…俺を庇っただろう?」
 顔を上げたサイラスはカイルを軽く睨む。
「それは、まあ、兄上だからな」
 カイルは少し笑う。
「サイラス殿下!お怪我は?」
「サイラス殿下」
 あっと言う間にサイラスの周りに人垣が出来る。
「カイル殿下、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
 カイルの周りには、カイル付きの側近や侍従が数人いた。

 いつかも、こんな光景を見たな。
 そうカイルが思った時
「レイラ様!」
 と焦った侍女の声が聞こえてきた。
 レイラ?
 カイルが階段の方を見ると、レイラが松葉杖で階段を降りていた。
「レイラ、危ない」
 カイルは立ち上がるとレイラに向かって階段を登る。数段登った所でレイラと目が合った。
「カイル」
 涙目のレイラ。
 ああ…湖に落ちた時と同じだ。レイラが泣きながら真っ直ぐに俺に向かって来る。
「きゃっ!」
 松葉杖が段を踏み外し、レイラがバランスを崩す。
「レイラ!」
 カイルは両腕を伸ばして、落ちそうになったレイラを抱き止めた。
「レイラ、大丈夫か?」
「カイル、大丈夫?」
 同時に言う。
 レイラの頬を涙が伝う。
 ああ、レイラ。愛しい。
 カイルはレイラを強く抱きしめた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

私の存在

戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。 何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。 しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。 しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵令息から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

処理中です...