第二王子は婚約破棄して王太子になりたいらしい。

ねーさん

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「傷は深くないし、随分と寝不足のようですし、しばらくこのまま寝かせておきましょう」
 学園の救護室の医師と、王宮から呼んだ医師の診察を受けた結果、額の裂傷も縫う程ではないとの事だった。
 一安心した生徒会役員たちは舞踏会の準備へと戻って行った。

 救護室の医師と王宮の医師が話しながら廊下へ出て行き、救護室にはフィオナと眠っているレオンの二人だけになった。
 フィオナはベッドの傍に膝をつき、レオンの顔を眺めた。
 レオンは額に大きなガーゼを貼られているが、穏やかな表情で眠っている。
「良かった…」
 フィオナは大きく息を吐いた。

 目が覚めた時、私がいたら嫌かな。大丈夫みたいだし、寮に帰ろうかな。
 フィオナがベッドに手をついて立ち上がろうとすると、レオンの手が伸びて来て、ベッドに置いた手を握られた。
「え?」
 殿下、起きてるの?
 驚いてレオンを見ると、薄っすらと目を開けてフィオナを見ていた。
「…フィオ……」
「殿下?」
 レオンはゆっくり首を横に振ると、痛そうに顔を歪めた。
「殿下、額に傷があるんです。頭を動かさない方が…」
「…や……」
「え?」
 フィオナの手を握るレオンの手にぎゅっと力が入る。
「嫌だ…フィオ…」
 もしかして。
「…私がここにいた方が良いんですか?」
 フィオナが何となく感じた事を口に出すと、レオンは小さく頷いた。
 覚醒している訳ではなさそうだが、フィオナの手を握る力は緩まない。
「じゃあここにいますから、もう少し眠ってください」
 フィオナの手を握るレオンの手に、もう片方の手を重ねた。
 レオンはまた小さく頷くと、安心したように眠りに落ちていった。

「おや。殿下も婚約者殿が側にいると安心するのかな?」
 救護室の医師がフィオナの手を握ったまま眠るレオンの顔を見て言った。そして床に膝をついていたフィオナに椅子を持って来てくれる。
「あ、ありがとうございます」
 椅子に座るため、握った手を離そうとするとギュッとレオンの手に力が入る。顔を見ると眉間に皺が寄っていた。
「『行かないで』って言っているみたいだね?それとも『逃がさない』かな?」
 医師が苦笑いしながら椅子を動かしてくれたので、手を離さないまま椅子に座る。
「私は会議に行ってくるから、目が覚めて痛みがあるようなら痛み止めを飲ませて差し上げて」
「はい」
 医師が出て行き、部屋はしんと静まり返った。

 フィオナはそっとガーゼの上に乗るレオンの前髪に触れる。
「思ったより髪…硬いんだな…」
 婚約者なのに、初めて髪に触ったわ。
 行かないで?逃がさない?…そんな訳ない。きっと今は痛くて不安だから知ってる人に側にいて欲しいだけよ。
 フィオとの婚約はどうにかして解消しなくてはな!
 そう楽しそうに言ったレオンを思い出す。

 握られた手を見る。深く眠っているようなのに、手の力が緩む気配はない。
 周りに誰もいないのに、こんなに長く触れられているの、初めてかも。
「最初で最後ね」
 そうフィオナは呟いた。

-----

 レオンが目を覚ますと、フィオナがベッドの側に置いた椅子に座り、ベッドに顔を伏せて眠っていた。
 …フィオ?…ああ、講堂の外でノエルと話していたな…そのせいか。嫌な夢を見たのは。
 いや、あの夢は夢ではない。近い未来だ。
 ふと自分の手がフィオナの手を握っているのに気付く。今まで眠っていたとは思えない程、強く。
「ははっ…」
 思わず笑いが漏れた。
「ん…殿下…?」
 フィオナが顔を上げる。
 殿か。
 レオンはフィオナの手をそっと離した。
「……」
 フィオナは離された自身の手をじっと見詰めていた。
「…済まない。ずっと握ってたんだな」
 自分の手を見詰めたままフィオナが口を開く。
「いえ。傷は痛みますか?医師せんせいが痛むようなら痛み止めを、と言われてましたが」
「大丈夫だ」
「そうですか。…では私は寮に戻りますので」
 フィオナは俯いたまま立ち上がった。
「ああ」
 レオンと目を合わせないまま、フィオナは救護室を出て行く。
 閉まった扉を見詰めたまま、レオンはフィオナの手を握っていた自分の手を強く握り締めた。






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