第二王子は婚約破棄して王太子になりたいらしい。

ねーさん

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 学園の舞踏会や卒業パーティーは、生徒会が中心となって運営される学園行儀なので開催時間は昼前から夕方までだ。
 ドレスや装飾品は各々が用意をするが、全員が寮で支度をして、婚約者や恋人のいる者は男性が女子寮へ迎えに来る事となっており、令嬢は自分の家の侍女やメイドを寮に呼び支度をし、侍女やメイドのいない家で学園が用意した王宮のメイドが支度を手伝っている。
 女子寮は舞踏会の会場の講堂に近いので、迎えが来た者は歩いて向かう事になっていた。

 フィオナもキャストン家から呼んだ侍女に髪を整えて貰って鏡の前に立った。
 青のドレス、好きな色だけど、黒髪だと映えないかな。ドレスのコーディネイトって楽しいけど難しいわよね。
「フィオナ」
 名前を呼ばれて振り向くと、濃紺の夜会服のレオンが部屋の入口に立っていた。
 …相変わらずカッコいいわね…何かムカつくわ。
 左の眉の少し上にガーゼが貼られていて、前髪をそちら側だけ下ろしている。
「傷は、もう痛みはないんですか?」
「ああ。あの時は迷惑掛けた」
「迷惑では…」
 レオンがフィオナに手を差し出す。白い手袋の上に、フィオナも手を乗せる。
 侍女に見送られて部屋を出て寮の廊下を並んで歩く。たまたま誰もいない廊下でレオンは小さな声で言う。
「…この先も、フィオナには迷惑を掛けると思う。婚約解消したら俺…私が責任を持ってフィオナの…相手を探すから、心配するな」
 少し眉間に皺を寄せて言うレオン。
 確かに、王子に婚約解消された令嬢なんて敢えて娶りたい人いないものね。でも…そんな責任、いらないのにな。
 それに「フィオナ」「私」か。
 もう殿下と気安く話す事は許さないって事ね…
「はい。お気遣いありがとうございます」
 フィオナは精一杯の微笑みでレオンに言った。

-----

 講堂に入ると、暗い空間に満天の星空が見えた。
「わあ…」
 黒い布などを駆使して、窓から差し込む陽射しを遮り、無数に開けた穴から漏れる光が星屑のようだ。
 天井から下がる照明も丸い布や四角い箱などで覆われて惑星のようだし、大小の球体が天井から下げられたり、床に積まれたり、宇宙空間にいるようだった。
「もう少し予算が潤沢にあれば、ノエルの設計通りの空間が作れたんだが…今の予算と時間ではこれが精一杯だ」
「すごく綺麗です!」
 フィオナは目を瞬かせて周りを見回す。
「時間になれば明かりを灯すからもう少し明るくなる」
 確かに今は暗くて、周りに人がいるのはわかるが、少し離れると誰なのかまでは分からない。
 殿下が早目に迎えに行くと言ったのは、私にこの空間を見せたかったから?
 何て。殿下が生徒会長として早目に会場入りする必要があったからよね。でも明かりが灯る前のここも見られて良かった…
「フィオナ」
 レオンに呼ばれて、レオンを見上げると、至近距離に顔が見えた。
 フィオナが何かを言おうとする前に、唇が重なった。

「…な、にを…」
「済まない」
 重なった唇が離れると、レオンはフィオナの前に跪いた。
「最初から最後まで…そしてこれからも。フィオナには迷惑な事ばかりだろうが、私はフィオナと婚約して、とても楽しかった」
 フィオナの手を取り、手袋の上から口付ける。
「……」
 フィオナが何も言えずにいると、レオンはフィオナの手をそっと離し、立ち上がった。
「本当に…ありがとう」
 そう言うと踵を返して歩き去って行った。

 その場にどれくらい立ち尽くしていたのだろう。
 いつの間にか、明かりが灯り、暗かった時とはまた違う幻想的な空間が周りに広がっていた。
「フィオナ?どうしたの?」
 マルティナに声を掛けられて我に返る。
「…ティナ」
「泣いてるの?」
 頬に涙が伝っていた。
 心配そうにフィオナの顔を覗き込む、紫の瞳。
「…レオン様の馬鹿~!狡い~」
「フィオナ!?」
 フィオナは泣きながらマルティナの胸に飛び込んだ。

 狡い!狡い!最後に気付かせるなんて、本当に狡い!
 …私、レオン様が好きだって。好きだったんだって。…気付かせないで欲しかった…気付きたくなかったのに。


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