第二王子は婚約破棄して王太子になりたいらしい。

ねーさん

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 舞踏会の開会式で、レオンが生徒会長として壇上で挨拶をしている。
「フィオナ、大丈夫?顔色が悪いわ」
「うん…泣いたから少し頭が痛いだけ。大丈夫よ」
 小声でマルティナと話していると、レオンの言葉が止まる。
 そのまま暫く沈黙し、周りが騒めき始めた。
 レオンは舞台の真ん中で俯いている。
「お兄様?」
「…どうしたのかしら?殿下」
 ざわざわとした空気の中、レオンが顔を上げた。

「国王陛下が、七十歳の誕生日を以って退位される事となった」
 レオンの声が講堂に響く。
「そして、同日、戴冠式が行われ、王太子殿下が王位を継承される」
 レオンの言葉に騒めきが止まる。
 学園の舞踏会や卒業パーティーは学園行事の場に過ぎないが、学園には国の隅々から貴族や商人などが集まっているので、舞踏会や卒業パーティーの後すぐに休暇に入る事もあり、この場で何かを発言すれば、すぐに国中に話が周るのだ。
「…ティナ」
 フィオナは小声でマルティナに声を掛ける。
「お祖父様が退位されるのと、お父様が即位されるのは聞いてたけど、ここで兄様が何かを言うなんて…聞いてないわ」
 マルティナは小さく首を横に振った。
「そして」
 レオンの凛とした声。
「後日、新たな王太子が国王より勅命される事となる」
 レオンは目を閉じて、ゆっくりと開いた。

「私、レオン・ルーセントが王太子、延いては王となる旨をここで宣言する」

 レオンの声が響く。
 辺りがしんと静まり返る。
 それから、誰かがパチパチと拍手を始めた。フィオナが視線をやると、ノエルが拍手をしている。
 …ヒロインくんは、殿下からこの事、聞いてたの?

 拍手が段々と大きくなり、やがて講堂が大拍手で包まれた。

-----

「どうしてレオン兄様が?…私、何も聞いてないわ」
 呆然として呟くマルティナ。
 ティナが聞いてないなら、婚約を解消される私が聞いてなくて当然か。
「ティナ、手が冷たいわ。部屋に戻りましょう」
 フィオナはマルティナの手を握る。
「そうね。その方が良いわね」
 マルティナはレオンの妹として、動揺する様子を周りに見せる訳にはいかないのだ。
 そしてそれは正式に婚約解消が発表されていないフィオナも同じだった。

 二人でそっと講堂を抜け出す。
「…舞踏会が終わって皆が戻らない内に寮を出た方が良いかも」
 フィオナが言うと、マルティナも「そうね」と頷く。
「とりあえず、ウチに来て。ティナ」
 マルティナは、レオンより先に王宮に戻らない方が良い。そうフィオナは思った。
「着替えて、部屋で待ってて。ティナ付きの侍女も一緒に。ウチから馬車を呼ぶわ」

 部屋に戻ったフィオナは、驚く侍女に「説明は帰ってからするから家から馬車を呼んで」と頼む。
 侍女が部屋を出ると、無造作に髪を解き、ドレスを脱いだ。
 一人で脱げるデザインで良かったわ。家に帰る荷物も作っておいて良かった。
 寮にある一番早く着られる外出着に着替える。解いた髪は後ろで結えた。
 荷物を持ってマルティナの部屋に行く。
 同じように着替えて髪を後ろで三つ編みにしたマルティナが不安気にフィオナを見た。
「ふふ。二人ともこの服装にこの髪型でバッチリメイクなの、おかしいわ。ウチに着いたらまずお化粧を落とさなくちゃね」
 フィオナが敢えて明るく言うと、マルティナも安心したように微笑んだ。

 舞台袖の控室で、レオンは一人椅子に座り足を組んで目を閉じていた。
 ふと、気配を感じて目を開ける。
「…フィオナとティナはどうしている?」
 控室の入り口に立っているのはノエルだ。
「フィオナ様はマルティナ殿下と一緒にキャストン邸に戻られました」
「そうか。さすがフィオナだ」
 舞踏会に留まれば、マルティナはレオンの妹として、フィオナはレオンの婚約者として、色々な事を尋ねられ、言われるだろう。そこで、正直に自分たちは何も知らないと言っても「知らない訳がない」「隠している」と余計な憶測を呼ぶ。
 かと言って、知らない物を知っている振りをするのは愚策だ。レオンの思惑から外れた事を言えば、後のレオンの立場に影響するのだ。
 マルティナが王宮に戻れば、第一王子派の者たちが黙ってはいないだろう。
 ここはフィオナがマルティナを匿ってくれるのが一番良い。とレオンは考えていた。
「レオン殿下はフィオナ様がこのように行動すると、読まれていたのですか?」
「…読んでいた、と言うより、フィオナならそうしてくれるだろうと思っていた」
「婚約破棄しようとしている相手をずいぶん信頼しているんですね」
「そうだな。フィオナには迷惑な話だろうが」
 呆れたように言うノエルに、レオンは薄く微笑んだ。

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