悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん

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「ちょっと落ち着けアレク。何が『わからなかったけど、わかった』んだ?クリスティナ嬢に会う前に俺にちゃんと説明しろ」
 ユージーンが俺の腕を掴んで引く。
「でも早くクリスティナに…」
「いやいやいや。クリスティナ嬢だって支離滅裂な話を聞かされても困るだろ?ちゃんと一旦整理してからの方がいいって」
 ブンブンと首を横に振るユージーン。
 ……まあ、確かに。
「それもそうか」
 俺が頷くと、ユージーンはホッとしたように息を吐いた。
「ユージーン、お前…俺とクリスティナを会わせたくないだけじゃないよな?」
 ジトリとユージーンを睨むと、ユージーンは肩を竦める。
「そろそろ種明かしの時期か…」
「種明かし?」

 廊下で延々と話す内容でもないので、図書室の植物学エリアにあるいつもの机へと移動した。
 俺の向かい側にユージーンが座る。
 ユージーンに重なってそこに座っていたクリスティナの姿を思い浮かべた。
 各々好きな本を読んでいただけだったが、俺とクリスティナの間には穏やかで暖かな空気が流れていた。
 でも、フローラと出会って……いつの間にか図書室へも花壇へも来なくなったクリスティナの寂しそうな様子を思い出す。

「あのな、アレク、俺がクリスティナ嬢に気があるような事を言ったのはアレクに嫉妬させるためだ」
 ユージーンは人差し指を立ててそう言った。
「は?」
「つまり、俺がクリスティナ嬢を恋愛的に好きとか、そういう事実はないんだ」
 ……本当か?
「じゃあ散々『クリスティナがかわいい』とか言っていたのは?」
「かわいいと言ったのは本音だ。でも本当にかわいかったんだからそれは仕方ない」
 背もたれにもたれて腕を組むユージーン。
「……まあ、そう、だね」
 そんなに言い切るほどかわいい部分をユージーンに見せていたのか?クリスティナは。
 胸に黒いモヤがかかる。
「だが、誇張した部分もある。それはアレクがフローラ嬢と出会ってから明らかにおかしかったからだ」
 机に肘をついて、ユージーンがずいっとこちらに顔を近付けて来る。
「おかしかった、か?」
 少し仰け反り気味になりながら言うと、ユージーンは半目になって俺を見た。
「ああ。自覚がなかったようだけど、アレクはあの婚約者候補を集めたお茶会でクリスティナ嬢に一目惚れしていたからな」
「それはクリスティナにじゃなくあの瞳に…」
「言うと思った!でも俺は違うと思う。例えばあの場にいた他の令嬢が何色の瞳だか、いちいち認識してたか?」
「…いや」
 ユージーンはまた人差し指を立てて今度は指先を俺の方へ向ける。
「つまり、因果関係が逆なんだ。アレクはクリスティナ嬢の瞳を認識したから好きになったんじゃなく、クリスティナ嬢を好きになったからあの瞳に気が付いたんだよ」
「……」
「俺からは、アレクはクリスティナ嬢を好きなのに、同時にクリスティナ嬢を好きになるのを恐れているように見えてた。…いや、知られたら嫌われると思って好きな事に気が付かないようにしていたんだ」
 俺を指していた指を下ろし、机の上で両手を組み合わせた。
「……」
「そして、安易でわかりやすいフローラ嬢にんだよ。アレクは」
 辛辣な言葉に、俺はユージーンを睨む。
 ユージーンは悪びれない様子で肩を竦めた。

「それにしても、アレクがフローラ嬢に惹かれていく様子は異様だった。俺の忠告も聞かないし、まるで何かに操られているみたいで……なのに俺がクリスティナ嬢を『かわいい』と言えばアレクは不機嫌になる。その時だけはフローラ嬢と出会う前のアレクに戻るんだ」
「!」
 ユージーンの言葉に俺はハッとする。
「ユージーン、それ…」
「それ?」
「何かに操られているみたいだって」
 俺の中の、漠然としたモヤのようなモノが段々と形になって来る感覚。
「え?アレク自身もそう思ってたのか?」
「いや。さっきまで全然そんな事、思った事もなかった。たださっきフローラと話していて…違和感を覚えたんだ」
 気にも留めないような小さな違和感だ。
 クリスティナとマチルダ義姉上から小説の事を聞いていなければ、何とも思わず流してしまっただろう。
「その違和感が、『わからなかったけど、わかった』事なのか?」
 ユージーンが首を傾げた。
「そう。俺は、ずっと矛盾していた。フローラを好きになって、クリスティナとの婚約解消を模索しながらも、婚約解消したクリスティナが俺以外の男と縁を結ぶのは許せない。だから婚約解消後のクリスティナは修道院へ入るよう仕向けるつもりでいたんだ」
「……確かに矛盾してるな」
 自分は好きな女性と結ばれる未来を手にしようとするくせに、元婚約者が他の男と結ばれる未来は封じると言うおれに若干引き気味のユージーン。
「違和感を覚えて、わかった。俺がフローラに惹かれたのは、あらすじに添って物語を進行しようとする小説の力だ」



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