悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん

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 放課後、ユージーン様が教室へ呼びに来て、私とキャロルはユージーン様と共に図書室へと向かう。
「あの…何で私まで?」
 私と並んで廊下を歩きながら、キャロルが数歩前を歩くユージーン様へと問い掛けた。
「クリスティナ嬢をお呼びしたのはアレクシス殿下ですが、キャロル嬢に用があるのは私ですので」
 少し振り向きながらユージーン様が言う。
「私に用、ですか?」
「ええ」
 …キャロルとユージーン様、話した事ないはずなのに何か…雰囲気が少し親しげな気がする。それにユージーン様がキャロルの事をファーストネームで呼んでるし。
「キャロル…ユージーン様に何か言ったのね?」
 隣のキャロルを肘でつつくと、キャロルはわかりやすく明後日の方を向いた。
「ナンノコトカシラ」
「棒読みすぎる…」
 ため息混じりに言うと、キャロルが申し訳なさそうに私を見る。
「ドレスの件、クリスティナは自分からは殿下に言わないと思ってユージーン様に相談したの…ごめんなさい」
 私が言えないのを察して心配して動いてくれたのね。
 私はそっとキャロルと手を繋いだ。
「……ううん。心配してくれてありがとう」

 図書室に着くと、ユージーン様は
「アレクシス殿下はいつもの所でクリスティナ嬢を待たれています」
 と言って、キャロルを連れてどこかへ行ってしまった。
 ドレスの件って事は、イライアス殿下の側妃の件って事よね?
 それで…アレクシスは私を呼び出して何を言う気なんだろう?
 ……もう期待したくないのに、やっぱり止めてくれるのを期待してしまう自分が嫌だわ。
 ドキドキする胸を押さえ、重い足を引き摺って、植物学関連の本棚のある「いつもの所」へ近付くと、アレクシスが私に気付く。
「クリスティナ」
 パッとアレクシスの表情が明るくなった…ような気がした。
「アレクシス…あの…」
 アレクシスの向かいの椅子を引きながら言葉を探す。
「クリスティナ?」
「アレって、今も有効なんですか?…有効…なの?」
 平語に言い換えると、アレクシスの表情が本当にわかりやすく明るくなった。
「もちろん!これからもずっと平語で話して」
 嬉しそうな声と表情。
「これからもずっと…?」
 婚約解消するのに「これからもずっと」って…結構残酷な言葉じゃない?
「そう。ずっと」
 アレクシスは正面に座った私をじっと見つめている。
「……」
 どう反応していいかわからなくて私が俯くと、アレクシスが立ち上がった。
「アレクシス?」
 私が顔を上げると同時にアレクシスが頭を下げる。
「えっ?」
「クリスティナ、ごめん」
 頭を下げたままアレクシスが言った。
 ……これは、何に対する「ごめん」なの?
 フローラを好きになってごめん?婚約解消してごめん?それとも、側妃の話を止めなくてごめん?
「何…?」
 困惑と、怒りなのか悲しみなのかわからない感情で腿の上に置いた手が震える。
 でも、アレクシスが次に発したのは、私の予想とは全然違う言葉だった。

「俺はクリスティナが好きなんだ」

 ……………は?

「……」
 アレクシスは何を言ってるの?
 ぽかんとして頭を上げたアレクシスを見上げる。
 アレクシスの耳が赤くなっていた。
「クリスティナ、俺はクリスティナが好きだ。今更遅いかも知れないし、身勝手な俺を責めていいし、許さなくてもいい。でも婚約は解消しないから」
 真剣な表情のアレクシスに、私の頭はますます混乱してくる。
 好き?
 アレクシスが私を?好きって言った…よね?
 婚約は解消しないからって、言った……よ…ね?
 え?
 本当に?
 聞き間違いじゃなくて?
 あ、もしかして私の妄想?

 パアンッ!
 乾いた音が静かな図書室に響く。
 私が両手で自分の両頬を叩いた音だ。
「クリスティナ!?」
 驚いたアレクシスが慌てて机を回って私の傍に来て、膝をつき、頬を叩いた私の両手を握った。
「………痛い…気がする」
「思い切り叩いたから痛いに決まってるよ。ホラ赤くなってきた」
 アレクシスの手が、ジンジンして熱くなった私の頬に触れる。
「痛いよ…アレクシス」
 心配そうなアレクシスが目の前にいる。
 痛いから……夢じゃない。
 アレクシスの青紫色の瞳がぼんやりとぼやけた。
「クリスティナ泣かないで…」
 アレクシスの手の平がゆっくりと頬を滑る。
「だっ…て…痛いん…だもん…」
 だって、夢じゃないから。
 嬉しいのか、悔しいのか、涙がボロボロと溢れた。



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