悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん

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 王妃殿下と話した後、私とアレクシスは二人でアレクシスの宮の庭へ出た。
 その庭には色とりどりの花が咲いていて、でも一角には薬草の植る花壇があった。
「薬の本格的な研究は今はしてないけど、一般的な薬はいつでも作れるように最低限の薬草は維持してるんだよ」
 アレクシスは薬草の花壇の側にしゃがみ込み、薬草の葉っぱに手を触れる。
「薬草でも結構かわいい花が咲いたりするんだよ。ああでも素手で触らない方がいいものもあるから気をつけて」
「わかったわ」
 私はドキドキしながらアレクシスの隣にしゃがんでみた。
 アレクシスの隣に並んで花壇の手入れをするのはフローラで、私は近くのベンチからアレクシスとフローラを見ていた。
 侯爵家の令嬢として、地面にしゃがみ込むなんてできなかったし、花は好きでも植物にあまり興味のない私が隣にいてもアレクシスは喜ばないと思ってた。
 でも本当は、私もアレクシスの隣でこんな風に同じ目線になって話してみたかったんだわ。
「これは夏になると白くて小さな花が咲くんだよ。その後できた種が薬になるんだ」
 アレクシスが私の前の緑の葉を触る。
「そうなんだ」
 白くて小さな花かあ。きっとかわいいわ。
「咲いたら…また見に来てくれる?」
 アレクシスが膝に腕を置いて少し不安気に私の方を見た。
「もちろん」
 力強く頷くと、アレクシスは安心したようにふわりと笑った。

「クリスティナ、来て」
 アレクシスは私の手を握ると立ち上がる。
 私もアレクシスに続いて立つと、アレクシスはそのまま指を絡め、所謂「恋人繋ぎ」にして庭の小径を歩き出した。
 少し歩くと、アレクシスの髪と瞳のような青紫色の薔薇が目に飛び込んで来る。
「わあ…」
 赤い薔薇の垣根の一部に青紫の薔薇が咲いていた。
「今の処の俺の研究の一番の成果がこの薔薇」
 繋いでない方の手で愛おしそうに薔薇の花びらを撫でる。
「この薔薇…学園の花壇に植えてる…よね?」
 「夢幻」で、アレクシスとフローラの仲を裂きたい王家から男爵家へ持ち込まれたフローラの縁談。
 父から結婚を命じられたフローラが学園を辞める前に花壇に立ち寄る。そこにはアレクシスと共に品種改良に挑んだ青紫の薔薇が見事に咲いていて…
「いや。植えてないよ」
 アレクシスがサラリと言った。
「え?」
「この薔薇が俺とフローラが駆け落ちする時に学園で咲いていた青紫の薔薇、だよね?その頃咲かせるなら今頃がちょうど植え付けの時期だけど、俺とフローラは恋人になってないし、俺が好きなのはクリスティナだし、俺の色の薔薇を学園で咲かせる意味はないから、植えてないよ」
「そ…そうなの…?」
 パチパチと目を瞬かせる私に笑い掛けると、アレクシスは繋いだ手を口元へと上げて、私の手の甲へチュッと口付ける。
「!」
 一瞬で私の頬が燃えるように熱くなった。
「そもそも花弁の外側が青くて、子房部分がそれに混じり合わないヘーゼル色の薔薇を作るため、まずは存在しない青い花弁の薔薇を作らなければという事で研究を始めたんだけど、図らずも樹国のおかげであと数年かかるはずだった青い薔薇は出来上がった」
「うん…」
「自分の手で生み出したくて悔しい気持ちもあったけど、その数年分早くクリスティナの瞳の薔薇の研究に取り掛かれるんだし、今はむしろ樹国に感謝してるよ」
 ニコリと笑うアレクシス。
 カッコよくて、かわいいし、アレクシスの笑顔破壊力ありすぎ…
 
 アレクシスは手を解くと、ポケットから取り出した小さな鋏で一輪の青紫の薔薇の茎をパチンと切る。
 器用に鋏の刃で棘を取ると、私の耳の上にその薔薇を刺した。
「うん。似合う」
 耳元にあったアレクシスの手が、指の背で頬を撫でながら顎へと下りる。
「ふふっ」
 くすぐったくて首を竦めると指で顎を取られ、アレクシスの唇が私の唇に重なった。

 唇が離れると、アレクシスに抱きしめられる。
「母上に後悔しないって言ってくれて嬉しかった。でもクリスティナを傷付けた俺を許さないで、一生、俺と一緒にいてね」
「…うん…いる。アレクシスと一緒にいる」
 私はアレクシスの背中に手を回してぎゅっと抱きついた。
「ありがとうクリスティナ。好きだよ」
 アレクシスは腕を緩めると私の顔を覗き込む。
 青紫色の瞳に見つめられて心臓が痛いくらい高鳴った。
「結婚式までにはクリスティナの瞳の薔薇も完成させたいな。ブーケとブートニアにしたい」
 幸せそうに笑うと、アレクシスは私の頬にキスを落とす。
「た…楽しみにしてる」
 熱くなった頬を押さえる私を見て、アレクシスは満足気に頷いた。



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