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ルーフ王国
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ルーフ国ブロウ王は静かに目を開けた。
目の前には、戴冠式に合わせて作らせた、娘の肖像画。
組んでいた手を解いて、立ち上がった。
かなり長いことここにいたらしい。
もう日が傾き始めている。
召使いのザリアルが背後に立ち、静かに言った。
「またここに居たのですね。王。」
「ああ、居てしまったよ。」
「もう一ヶ月半も経つのでしょうか。姫の行方が分からなくなったのは。」
「…もうそんなに経つのか。」
ブロウ王は窓の外を見つめ、呟いた。
「王、どうかお気を強く持って…。」
「これは私の罰なのだ。」
ザリアルに向き直り、言った。
「何の罪もない子供の肉親を追放し、果てには子供を生涯孤独の身として、誘拐同然にこの城に閉じ込めた。…これはそんな私の罰なのだ。神の翼の神話を鵜呑みにして、神の翼の器を育てるためなどと喚いて、終いにはこのざまだ。」
「王、姫の両親を追放したのは、貴方様の意思ではありませんでした。そもそも、これらは全て亡くなった双子の御兄様の話です。あなた様は全く関係のないことではないですか。あなた様は、御兄様が姫の両親を追放したとき、御兄様に反対したではありませんか。無礼を承知で申しますと、御兄様やお妃様、そして王子様が旅先で亡くなったとき、なぜ御兄様を演じて姫を連れてきたのですか?姫は親の敵を親にするようなものなのに。」
ブロウ王は浅く息を吐いた。
「私はあの頃の自分が憎い。いつでも御兄様の影をこそこそして、言うことには逆らえなかった自分が。兄様が女中との間に子供を作ったと知った時も、どうしようもなかった。なんとか勇気を振り絞り、両親を追放するのはやめろと言ったが、兄様の逆鱗に触れ、数年間幽閉生活だ。今でも、私は思うんだ。どうしてあの時、兄様を殴ってでも、目を覚まさせなかったんだと。私にも罪はある。その罪を、あの子供への罪を、兄様に代わって償いたかった。だから、私は、兄様を騙ってあの子供を愛した。しかし、今思い知っているよ。父親の洗脳の恐ろしさに。私は知らず知らずのうちに、あの子に神の翼の器を求めてしまっていた。父親が私達にしたように、私もまた、あの子に神の翼としての力を求めた。私達が物心がつく前からずっと言い聞かされてきた物語が、あの子を追い詰めてしまったのかもしれない。お前は選ばれた人間だ。常に賢く、強くあれ。と。…これは全て、私の罰なのだ。」
「王…。」
「そういう事だったのですね。お父様。」
二人が振り向くと、そこには一人の少女と、青年がいた。
少女は涙を溜めた青く透き通った瞳で、ブロウ王を見つめていた。
「……フレッタ…?」
フレッタは頷き、育ての父に駆け寄った。
ブロウ王もまた、彼女に歩み寄る。
二人は静かに抱き合った。
言葉はいらなかった。
事の顛末を聞かされた王は、まず驚き、ディークの背中に生えた翼を興味深く眺めた。
「なんと…昔話は本当だったのか。」
そして椅子に座り、フレッタと向き合った。
「フレッタ…今まで騙してきてすまなかった。許してくれとは言わないが…器のこと、兄が犯した罪、全て…本当にすまないと思っている。」
「お父様は悪くありません。もういいんです。私こそ、突然出て行ってしまって…ごめんなさい。」
「ディーク殿も…すまなかった。兄の行動のせいで、辛い思いをさせてしまった。」
「確かに、もしあんたが兄さんだったらこの場で殴り殺してるかもな。」
その後表情を和らげてディークは続けた。
「だが、死んだんじゃ仕方がねえ。それに、俺の妹が許してやるってんなら、俺だってそうするさ。」
「すまない…すまない。」
こみ上げるものを堪え、ブロウ王は二人の目を見据えて言った。
「しかし、近々ナハルザーム王国が攻めてくるというのは、本当なのか?」
「ああ。恐らく一週間以内には。」
「大変図々しい質問だが、その背中の翼を役立ててくれるのか?」
「ま、お姫様のお願いだしな。」
「恩に着る。ありがとう。」
「王!」
部屋のドアを大きく開け、ザリアルが入ってきた。
「ただ今伝令班が、ナハルザーム王国から、三日後に王都を奪取するという宣戦を受けたそうです!」
目の前には、戴冠式に合わせて作らせた、娘の肖像画。
組んでいた手を解いて、立ち上がった。
かなり長いことここにいたらしい。
もう日が傾き始めている。
召使いのザリアルが背後に立ち、静かに言った。
「またここに居たのですね。王。」
「ああ、居てしまったよ。」
「もう一ヶ月半も経つのでしょうか。姫の行方が分からなくなったのは。」
「…もうそんなに経つのか。」
ブロウ王は窓の外を見つめ、呟いた。
「王、どうかお気を強く持って…。」
「これは私の罰なのだ。」
ザリアルに向き直り、言った。
「何の罪もない子供の肉親を追放し、果てには子供を生涯孤独の身として、誘拐同然にこの城に閉じ込めた。…これはそんな私の罰なのだ。神の翼の神話を鵜呑みにして、神の翼の器を育てるためなどと喚いて、終いにはこのざまだ。」
「王、姫の両親を追放したのは、貴方様の意思ではありませんでした。そもそも、これらは全て亡くなった双子の御兄様の話です。あなた様は全く関係のないことではないですか。あなた様は、御兄様が姫の両親を追放したとき、御兄様に反対したではありませんか。無礼を承知で申しますと、御兄様やお妃様、そして王子様が旅先で亡くなったとき、なぜ御兄様を演じて姫を連れてきたのですか?姫は親の敵を親にするようなものなのに。」
ブロウ王は浅く息を吐いた。
「私はあの頃の自分が憎い。いつでも御兄様の影をこそこそして、言うことには逆らえなかった自分が。兄様が女中との間に子供を作ったと知った時も、どうしようもなかった。なんとか勇気を振り絞り、両親を追放するのはやめろと言ったが、兄様の逆鱗に触れ、数年間幽閉生活だ。今でも、私は思うんだ。どうしてあの時、兄様を殴ってでも、目を覚まさせなかったんだと。私にも罪はある。その罪を、あの子供への罪を、兄様に代わって償いたかった。だから、私は、兄様を騙ってあの子供を愛した。しかし、今思い知っているよ。父親の洗脳の恐ろしさに。私は知らず知らずのうちに、あの子に神の翼の器を求めてしまっていた。父親が私達にしたように、私もまた、あの子に神の翼としての力を求めた。私達が物心がつく前からずっと言い聞かされてきた物語が、あの子を追い詰めてしまったのかもしれない。お前は選ばれた人間だ。常に賢く、強くあれ。と。…これは全て、私の罰なのだ。」
「王…。」
「そういう事だったのですね。お父様。」
二人が振り向くと、そこには一人の少女と、青年がいた。
少女は涙を溜めた青く透き通った瞳で、ブロウ王を見つめていた。
「……フレッタ…?」
フレッタは頷き、育ての父に駆け寄った。
ブロウ王もまた、彼女に歩み寄る。
二人は静かに抱き合った。
言葉はいらなかった。
事の顛末を聞かされた王は、まず驚き、ディークの背中に生えた翼を興味深く眺めた。
「なんと…昔話は本当だったのか。」
そして椅子に座り、フレッタと向き合った。
「フレッタ…今まで騙してきてすまなかった。許してくれとは言わないが…器のこと、兄が犯した罪、全て…本当にすまないと思っている。」
「お父様は悪くありません。もういいんです。私こそ、突然出て行ってしまって…ごめんなさい。」
「ディーク殿も…すまなかった。兄の行動のせいで、辛い思いをさせてしまった。」
「確かに、もしあんたが兄さんだったらこの場で殴り殺してるかもな。」
その後表情を和らげてディークは続けた。
「だが、死んだんじゃ仕方がねえ。それに、俺の妹が許してやるってんなら、俺だってそうするさ。」
「すまない…すまない。」
こみ上げるものを堪え、ブロウ王は二人の目を見据えて言った。
「しかし、近々ナハルザーム王国が攻めてくるというのは、本当なのか?」
「ああ。恐らく一週間以内には。」
「大変図々しい質問だが、その背中の翼を役立ててくれるのか?」
「ま、お姫様のお願いだしな。」
「恩に着る。ありがとう。」
「王!」
部屋のドアを大きく開け、ザリアルが入ってきた。
「ただ今伝令班が、ナハルザーム王国から、三日後に王都を奪取するという宣戦を受けたそうです!」
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