ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 金曜日の夜ともなると、ホテル・メルローズのバーラウンジ・ブルームーンは、かなりの客で賑わっていた。

 奈津のレギュラーのための試用期間は12月いっぱいだが、この話が出た時点で第1金曜日は過ぎていたし、クリスマスはバーのイベントとしてゴスペルシンガーを呼んでいる。シンガーはお抱えのピアニストを連れてくるらしく、加えてラストの大晦日はピアノ演奏はないそうなので、実質奈津の試用期間は、第2と第3金曜日の2日間だけだった。

 初日には、事務所の櫻井とマネージャーの本城が様子を見に来てくれた。2人が心配して見に来ると言うと、成瀬は、『過保護だな』と言って笑った。

 実際、そうだと思う。櫻井音楽事務所は、アットホームな会社だ。
 本城も甘やかしてはくれないが、とても目を掛けてくれる。今回の話が出て事務所に出勤すると、早めのクリスマスプレゼントだと言って、青い表紙のジャズの楽譜集を1冊くれた。それは奈津が前から欲しかったもので、裏表紙を見ると結構な値段がついている。

『レギュラー落としたら、返せ。事務所に買い取ってもらう』

 櫻井からは、傾向と対策をしっかりと伝授された。

『あそこはジャズがメインだからね。リクエストも多いから、断るんじゃないわよ。ジャズをしっかり押さえときなさい』

 櫻井にはっぱを掛けられていつになくジャズを弾き込んで練習し、初日は無事に終えることができた。

 高嶺は、姿を見せなかった。

『試用期間なのに様子も見に来れないなんて、忙しい人ねぇ』

 今日こそは高嶺に挨拶ができると意気込んで来た櫻井も、結局バーのチーフと挨拶を交わして帰って行った。

 そして第3金曜日の今日は、奈津の2回目の演奏日で、試用期間の最終日だ。

 演奏は午後7時から、30分を3回ステージで、合間に30分の休憩を挟んでいる。休憩中は、フロントクロークの奥にある小部屋で休ませてもらっていた。

 2回目のステージを終えて休憩に入ると、成瀬からメッセージがきていた。

『悪い、仕事が延びたから迎えに行けない。先に家で待っててくれ。とりあえず、終わったら連絡しろ』

 明日の土曜日は披露宴がなく、クリスマスの週が忙しくなる成瀬は前倒しで休みを取った。奈津は月曜日が公休で、それ以外は本城と調整して休みを取っているのだが、明日の休みを打診すると快く了承してくれたので、成瀬に合わせて休みを取った。

 今夜は、成瀬の家で過ごす予定だ。

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