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『でも、12月はお試し期間だって言うじゃない』
「あの、そのことなんですけど、僕は……」
『──相川。あんたまさか、この期に及んで自信がないなんて言うんじゃないでしょうね?』
「いえ、でも、あの……」
何とか隙間を見つけて話をしようとしていると、成瀬が腕を掴んできて、小さく首を横に振った。……断るな、と言うのだろうか。
『怖気付いてんじゃないわよっ! ブルームーンで弾けるってことが、どんなにすごいことか分かってんの? あそこのオーディションは倍率高いんだからね! 前にうちから2人受けて、2人共落ちたんだから』
櫻井は、自分の事務所の奏者に揺るぎない自信を持っている。
「それは、」
「いい? 絶っっ対に、落とすんじゃないわよ? あんたにもハクが付くし、事務所の評判も上がる! 寝てる暇があったらピアノ練習しなさい、ピアノ! いいわね? じゃ、そういうことで』
「あっ」
言いたいことだけ捲し立てて、電話はぷつりと切れてしまった。
櫻井は興奮すると、言葉がかなり乱暴になる。相手のことも呼び捨てにしてしまう。自分は別に普段から呼び捨てで構わないのだが、そこは櫻井がパワハラなどのモラルに関して神経を使っているのだろうと、以前本城が言っていた。つまり、普段はがんばって『くん』を付けてくれているのだろう。彼女の旦那は、弁護士だと聞いている。
切れてしまったスマートフォンを握りしめ、奈津は成瀬を振り返った。
「あの、成瀬さん。ブルームーンのピアノなんですけど……」
隣の成瀬は、さっきから笑いを堪えるのに必死な様子だった。
「くくっ、……お前んとこの櫻井さん、相変わらず、すげえな」
成瀬は可笑しそうに、くつくつと笑った。電話は、丸聞こえだったらしい。
「いいんじゃないか? がんばれ」
「あの、でも……」
ブルームーンでレギュラーの仕事をするとなると、高嶺と会う機会も増えてしまうが……
「お前の仕事を制限するつもりはないよ。それに、ピアノ弾いてるお前は好きだ。──応援する」
成瀬はそう言うと、奈津の頭をぽんと撫でたのだった。
「あの、そのことなんですけど、僕は……」
『──相川。あんたまさか、この期に及んで自信がないなんて言うんじゃないでしょうね?』
「いえ、でも、あの……」
何とか隙間を見つけて話をしようとしていると、成瀬が腕を掴んできて、小さく首を横に振った。……断るな、と言うのだろうか。
『怖気付いてんじゃないわよっ! ブルームーンで弾けるってことが、どんなにすごいことか分かってんの? あそこのオーディションは倍率高いんだからね! 前にうちから2人受けて、2人共落ちたんだから』
櫻井は、自分の事務所の奏者に揺るぎない自信を持っている。
「それは、」
「いい? 絶っっ対に、落とすんじゃないわよ? あんたにもハクが付くし、事務所の評判も上がる! 寝てる暇があったらピアノ練習しなさい、ピアノ! いいわね? じゃ、そういうことで』
「あっ」
言いたいことだけ捲し立てて、電話はぷつりと切れてしまった。
櫻井は興奮すると、言葉がかなり乱暴になる。相手のことも呼び捨てにしてしまう。自分は別に普段から呼び捨てで構わないのだが、そこは櫻井がパワハラなどのモラルに関して神経を使っているのだろうと、以前本城が言っていた。つまり、普段はがんばって『くん』を付けてくれているのだろう。彼女の旦那は、弁護士だと聞いている。
切れてしまったスマートフォンを握りしめ、奈津は成瀬を振り返った。
「あの、成瀬さん。ブルームーンのピアノなんですけど……」
隣の成瀬は、さっきから笑いを堪えるのに必死な様子だった。
「くくっ、……お前んとこの櫻井さん、相変わらず、すげえな」
成瀬は可笑しそうに、くつくつと笑った。電話は、丸聞こえだったらしい。
「いいんじゃないか? がんばれ」
「あの、でも……」
ブルームーンでレギュラーの仕事をするとなると、高嶺と会う機会も増えてしまうが……
「お前の仕事を制限するつもりはないよ。それに、ピアノ弾いてるお前は好きだ。──応援する」
成瀬はそう言うと、奈津の頭をぽんと撫でたのだった。
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