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第一章 勇者の聖剣が呪われてた
呪われてるなんて聞いてない
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「お前の人生設計なんかクソどうでも良いから、さっさと剣を抜け」
「横暴王子……」
「あぁん!?」
「やりますよぉ!やれば良いんでしょ!」
チュートリアルはダメージを受け瀕死状態になることはあるが、それはあくまでもチュートリアル内だけの事。試練の塔から出れば全て元通り。
逆に言えば瀕死状態で試練の塔に来たらHP満タン状態になるけれど、もちろん試練の塔から出れば元通り瀕死である。
なのでミズイロは思った。ーーここで剣が全く使えない事をアピールして役立たず認定されたら家に帰れるのでは、と。
チュートリアルで痛い思いはするけれど、ここを出たら元通り元気。だったら今だけ頑張ってスライムにボコボコにされたら良いのでは。
痛いのは嫌いだけど、背に腹は代えられない。ミズイロは、よし、と気合いを入れた。やる気を出す方向にではなく、やる気を出さない方向に。
けれど。
「え……っ」
聖剣をたどたどしく鞘から抜いた瞬間、ミズイロの体は素早い動きでスライムを切り裂いた。それはもう目にも止まらぬ、と言っても過言ではない早さで。
そして半分になったスライムはやっと相手をしてもらえた事に安堵してキラキラエフェクトを撒き散らし、消えていった。さらばスライム。実戦でまた会おう。
「何だ。お前やれば出来るじゃないか」
アズラルトの驚いた声は聞こえるのだけど。次にぽむん、と出てきたカブに手足が生えたような魔物に体が勝手に向かっていく。
(えぇぇぇぇ!!!)
ミズイロは最早声も出せずにまた一刀の元に切り捨てて、ぼふん、と出てきたキノコ型の魔物は出てきた瞬間斬り伏せられて泣いていた。せめてちょっとくらいモーションを見て欲しかった。キノコは泣いた。許せキノコ。どうせ実戦でまた会うのだから。あとで魔物のステータス画面表示で詳しく生態を見てやるから。泣くなキノコ。
そしてキノコが消えた後ぼわん、と出てきた狼型の魔物も一撃で。さらにラストの熊型の魔物も一撃で。チュートリアルで敵の反撃はほとんどないとは言え、あんなに渋っていたのが不思議なくらい鮮やかに敵を倒していくミズイロにアズラルトは驚きを通り越して恐怖を感じる。
え、こいつ刃物持ったら人格変わる人?やべぇヤツじゃん、と。
ミズイロはミズイロで己の持つ聖剣に恐れ戦いていた。明らかに体の動きがおかしかった。自分はあんなに早く動けないし、魔物なんて見たら失神してしまうのにまるで喜んで敵に突進していくような感覚だった。
え、この剣ヤバいヤツじゃん、と。
とりあえずこんなヤバい剣は早く鞘に収めてしまおう。そう思って刀身を収めた瞬間ぼふんっ、と音がーーした。
目が真ん丸になっているアズラルトが巨大化している。まさかアズラルトは魔物が化けてた!?だからこんなに横暴なのか!と、ミズイロは思ったのだけれどアズラルトが横暴なのは割りと昔からだし、れっきとした人間であって魔物ではない。
「えぇ……?」
アズラルトとて不測の事態に戸惑いの声をあげる程には人間として、そして王族としてまだ未熟なのだ。
「王子様……!何で体がでっかくなってるんですかぁ!?」
しかし見当違いな事を叫んでくるその小さな頭をひっぱたくのを躊躇うくらいには心根は優しいのである。
「バカ!逆だ!お前は何で縮んでんだ!!?」
「縮んだ……?」
不思議そうに首を傾げる5歳児ほどの小さな体。
この世界の装備品、服飾品は実に優秀である。着ている人間に自らサイズを合わせてくれるのだ。だからミズイロも体が縮んだからと言ってぽろりと見えたりしない。きっちり大人サイズの時と同じ服装のまま縮んでいるのである。ぽろりが見たい人間には残念な仕様だけれど、これがこの世界の仕様なのだ。
ミズイロは首を傾げながら自分の手を見た。まだふくふくと柔らかそうな小さな手。慌てて足元を見ればきっちり靴に包まれてはいるけれど、小さな足。そして聖剣だけがそのままの大きさで床に擦り付けられている。良いのか聖剣。
「えぇぇぇぇ!!!?」
叫んだ声も甲高い。何故ー!!とパニックを起こす二人の耳に悲しげな音楽が聞こえた。
【聖剣は呪われていた!🔽】
【勇者ミズイロは呪われてしまった!🔽】
「なんだそりゃあぁぁぁぁーーーー!!!?」
その日、試練の塔に二人分の叫びが木霊した。一つは成人男性の、一つはまだ年端もいかぬ子供の声だったと言う。
「横暴王子……」
「あぁん!?」
「やりますよぉ!やれば良いんでしょ!」
チュートリアルはダメージを受け瀕死状態になることはあるが、それはあくまでもチュートリアル内だけの事。試練の塔から出れば全て元通り。
逆に言えば瀕死状態で試練の塔に来たらHP満タン状態になるけれど、もちろん試練の塔から出れば元通り瀕死である。
なのでミズイロは思った。ーーここで剣が全く使えない事をアピールして役立たず認定されたら家に帰れるのでは、と。
チュートリアルで痛い思いはするけれど、ここを出たら元通り元気。だったら今だけ頑張ってスライムにボコボコにされたら良いのでは。
痛いのは嫌いだけど、背に腹は代えられない。ミズイロは、よし、と気合いを入れた。やる気を出す方向にではなく、やる気を出さない方向に。
けれど。
「え……っ」
聖剣をたどたどしく鞘から抜いた瞬間、ミズイロの体は素早い動きでスライムを切り裂いた。それはもう目にも止まらぬ、と言っても過言ではない早さで。
そして半分になったスライムはやっと相手をしてもらえた事に安堵してキラキラエフェクトを撒き散らし、消えていった。さらばスライム。実戦でまた会おう。
「何だ。お前やれば出来るじゃないか」
アズラルトの驚いた声は聞こえるのだけど。次にぽむん、と出てきたカブに手足が生えたような魔物に体が勝手に向かっていく。
(えぇぇぇぇ!!!)
ミズイロは最早声も出せずにまた一刀の元に切り捨てて、ぼふん、と出てきたキノコ型の魔物は出てきた瞬間斬り伏せられて泣いていた。せめてちょっとくらいモーションを見て欲しかった。キノコは泣いた。許せキノコ。どうせ実戦でまた会うのだから。あとで魔物のステータス画面表示で詳しく生態を見てやるから。泣くなキノコ。
そしてキノコが消えた後ぼわん、と出てきた狼型の魔物も一撃で。さらにラストの熊型の魔物も一撃で。チュートリアルで敵の反撃はほとんどないとは言え、あんなに渋っていたのが不思議なくらい鮮やかに敵を倒していくミズイロにアズラルトは驚きを通り越して恐怖を感じる。
え、こいつ刃物持ったら人格変わる人?やべぇヤツじゃん、と。
ミズイロはミズイロで己の持つ聖剣に恐れ戦いていた。明らかに体の動きがおかしかった。自分はあんなに早く動けないし、魔物なんて見たら失神してしまうのにまるで喜んで敵に突進していくような感覚だった。
え、この剣ヤバいヤツじゃん、と。
とりあえずこんなヤバい剣は早く鞘に収めてしまおう。そう思って刀身を収めた瞬間ぼふんっ、と音がーーした。
目が真ん丸になっているアズラルトが巨大化している。まさかアズラルトは魔物が化けてた!?だからこんなに横暴なのか!と、ミズイロは思ったのだけれどアズラルトが横暴なのは割りと昔からだし、れっきとした人間であって魔物ではない。
「えぇ……?」
アズラルトとて不測の事態に戸惑いの声をあげる程には人間として、そして王族としてまだ未熟なのだ。
「王子様……!何で体がでっかくなってるんですかぁ!?」
しかし見当違いな事を叫んでくるその小さな頭をひっぱたくのを躊躇うくらいには心根は優しいのである。
「バカ!逆だ!お前は何で縮んでんだ!!?」
「縮んだ……?」
不思議そうに首を傾げる5歳児ほどの小さな体。
この世界の装備品、服飾品は実に優秀である。着ている人間に自らサイズを合わせてくれるのだ。だからミズイロも体が縮んだからと言ってぽろりと見えたりしない。きっちり大人サイズの時と同じ服装のまま縮んでいるのである。ぽろりが見たい人間には残念な仕様だけれど、これがこの世界の仕様なのだ。
ミズイロは首を傾げながら自分の手を見た。まだふくふくと柔らかそうな小さな手。慌てて足元を見ればきっちり靴に包まれてはいるけれど、小さな足。そして聖剣だけがそのままの大きさで床に擦り付けられている。良いのか聖剣。
「えぇぇぇぇ!!!?」
叫んだ声も甲高い。何故ー!!とパニックを起こす二人の耳に悲しげな音楽が聞こえた。
【聖剣は呪われていた!🔽】
【勇者ミズイロは呪われてしまった!🔽】
「なんだそりゃあぁぁぁぁーーーー!!!?」
その日、試練の塔に二人分の叫びが木霊した。一つは成人男性の、一つはまだ年端もいかぬ子供の声だったと言う。
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