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「顔面ぶっ叩くとか信じらんない~」
貴斗に顔面をぶっ叩かれた青年はお嬢さん座りで床に座り込むと、ヨヨヨ……、とでも言い出しそうな感じでエプロンを目元に当てた。
弱々しく、儚げな少女のような……雰囲気は微塵も感じない。普通に気持ち悪い。
「良くわかんないけどお世話になりました!で、何でうちに居座ってるんですか!?」
こんな変態でも命の恩人だし年上っぽい、と気を取り直して口調を改める。
「えー。変質者に襲われてた可哀想な青年を助けて送ったついでに朝ごはんまで作ってあげたのにこんな仕打ち……あんまりだわッ!!いいえ、でもいいの!それでもアタシ、あなたが好き…ッ!!」
キラキラ、なんて自分で効果音までつける変態をげんなりと見つめる。
どうしよう、この変態。どうやってお帰りいただこう。
そんな事を考えて、あれ?と引っ掛かった。
“変質者に襲われてた”?あれは変質者なんてレベルじゃない、殺人犯だ。
しかも血を啜る所なんて、有り得ないけど吸血鬼みたいだった。そんな非常識な物がいるわけないけれど、血を啜っていたのは事実だ。――それが“変質者”?
まだお嬢さん座りで、くすんくすん、なんて泣き真似を続けている青年から少し距離を置いて座る。
「あの、昨日の……見た、んですよね……?」
意識を失ってしまったから最後はわからないけれど、あの死体から自分はそんなに離れられたわけじゃないから見ている筈だ。
あの喉を裂かれて血を啜られた、誰かを。
「?君が男好きの変態さんに痴漢されてた所?大丈夫、誰にも言わないから」
「違う!」
そもそも痴漢なんてされていないし、あれはそんなレベルじゃなくて命の危機だった……と、思う。
確かに首に舌を這わせる姿だけ見たら自分にいかがわしいことをしようとする変質者にしか見えなかっただろうけれど、側に血塗れの死体があって同じ様に血塗れになっている男がただの変質者だったとしたら、殺人犯はみんなただの変質者になってしまう。
あんな記憶思い出したくもないけれど目の前にいる青年は間違いなく昨晩あの場所にいた筈なのだ。
「あの、……死体、とか!」
「死体?」
しかし、本気で不思議がっている青年に貴斗の記憶も揺らぐ。
目の前の彼も、昨日は赤い瞳をしているように見えた。だから血を啜る男を見たばかりの頭がこの男も人間じゃないと思ってしまったのだが今目の前でお嬢さん座りのまま、困惑気味に首を傾げる彼の瞳は鳶色。
青年は混乱してそのまま黙ってしまった貴斗を見て姿勢を正すと、ちょっと体を乗り出して頭を撫でてきた。
頭髪ごしでもわかる少しひんやりした手の平は大きくて撫でる手つきは久方ぶりに感じる優しさで。
「……変な人に襲われたせいで嫌な夢見ちゃったのかな。大丈夫?」
同じくらい優しい声音は貴斗を安心させる暖かさ。
(夢……?だった、のか……?)
貴斗だって夢の方がいいに決まっている。だがあまりに生々しく残った感触が本当に夢なのか、と問いかけてくる。
半信半疑の貴斗に気付いたか青年はやはり優しく、しかし僅かに労るように微笑んだ。
「俺が見たときおっさんに首舐めまわされてたからさ。相当気持ち悪かったんだねー、きっと」
「気持ち、悪かった……」
それは事実だ。
「ま、そんなこと忘れて!朝ごはん食べようよ!」
ね?と微笑まれ釈然としないまま頷いて、でも信じられなくて点けたニュースはその事件を一言も報じていなくて、じゃあやっぱり夢なのかと、むしろ夢だった方がいいじゃないかと無理矢理自分を納得させた。
無理矢理納得させた、所で。ずっと気になっていたことを訊く。
「何人んちの食材で本格フレンチ作ってるんですか!!」
「そば粉のガレットと、鯛のムニエルクリームソテーでございますご主人様」
ふざけた物言いで出されたそれは不覚にも旨かった。
貴斗に顔面をぶっ叩かれた青年はお嬢さん座りで床に座り込むと、ヨヨヨ……、とでも言い出しそうな感じでエプロンを目元に当てた。
弱々しく、儚げな少女のような……雰囲気は微塵も感じない。普通に気持ち悪い。
「良くわかんないけどお世話になりました!で、何でうちに居座ってるんですか!?」
こんな変態でも命の恩人だし年上っぽい、と気を取り直して口調を改める。
「えー。変質者に襲われてた可哀想な青年を助けて送ったついでに朝ごはんまで作ってあげたのにこんな仕打ち……あんまりだわッ!!いいえ、でもいいの!それでもアタシ、あなたが好き…ッ!!」
キラキラ、なんて自分で効果音までつける変態をげんなりと見つめる。
どうしよう、この変態。どうやってお帰りいただこう。
そんな事を考えて、あれ?と引っ掛かった。
“変質者に襲われてた”?あれは変質者なんてレベルじゃない、殺人犯だ。
しかも血を啜る所なんて、有り得ないけど吸血鬼みたいだった。そんな非常識な物がいるわけないけれど、血を啜っていたのは事実だ。――それが“変質者”?
まだお嬢さん座りで、くすんくすん、なんて泣き真似を続けている青年から少し距離を置いて座る。
「あの、昨日の……見た、んですよね……?」
意識を失ってしまったから最後はわからないけれど、あの死体から自分はそんなに離れられたわけじゃないから見ている筈だ。
あの喉を裂かれて血を啜られた、誰かを。
「?君が男好きの変態さんに痴漢されてた所?大丈夫、誰にも言わないから」
「違う!」
そもそも痴漢なんてされていないし、あれはそんなレベルじゃなくて命の危機だった……と、思う。
確かに首に舌を這わせる姿だけ見たら自分にいかがわしいことをしようとする変質者にしか見えなかっただろうけれど、側に血塗れの死体があって同じ様に血塗れになっている男がただの変質者だったとしたら、殺人犯はみんなただの変質者になってしまう。
あんな記憶思い出したくもないけれど目の前にいる青年は間違いなく昨晩あの場所にいた筈なのだ。
「あの、……死体、とか!」
「死体?」
しかし、本気で不思議がっている青年に貴斗の記憶も揺らぐ。
目の前の彼も、昨日は赤い瞳をしているように見えた。だから血を啜る男を見たばかりの頭がこの男も人間じゃないと思ってしまったのだが今目の前でお嬢さん座りのまま、困惑気味に首を傾げる彼の瞳は鳶色。
青年は混乱してそのまま黙ってしまった貴斗を見て姿勢を正すと、ちょっと体を乗り出して頭を撫でてきた。
頭髪ごしでもわかる少しひんやりした手の平は大きくて撫でる手つきは久方ぶりに感じる優しさで。
「……変な人に襲われたせいで嫌な夢見ちゃったのかな。大丈夫?」
同じくらい優しい声音は貴斗を安心させる暖かさ。
(夢……?だった、のか……?)
貴斗だって夢の方がいいに決まっている。だがあまりに生々しく残った感触が本当に夢なのか、と問いかけてくる。
半信半疑の貴斗に気付いたか青年はやはり優しく、しかし僅かに労るように微笑んだ。
「俺が見たときおっさんに首舐めまわされてたからさ。相当気持ち悪かったんだねー、きっと」
「気持ち、悪かった……」
それは事実だ。
「ま、そんなこと忘れて!朝ごはん食べようよ!」
ね?と微笑まれ釈然としないまま頷いて、でも信じられなくて点けたニュースはその事件を一言も報じていなくて、じゃあやっぱり夢なのかと、むしろ夢だった方がいいじゃないかと無理矢理自分を納得させた。
無理矢理納得させた、所で。ずっと気になっていたことを訊く。
「何人んちの食材で本格フレンチ作ってるんですか!!」
「そば粉のガレットと、鯛のムニエルクリームソテーでございますご主人様」
ふざけた物言いで出されたそれは不覚にも旨かった。
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