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アレキサンドリートの行方
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結局僕は借りを作りたくないから何とかお金で、って思ってるしアクアはダメ元で来てみた村近くに魔獣の巣があるから壊した方が安全だって善意で言ってくれてるみたいだし、話が平行線になってしまった。
確かに僕一人でも、魔力をあんまり持ってない村のみんなとでも魔獣の巣は壊せない。みんなは僕がただ無能力ながら物理に強いから魔獣を倒せると思ってるし、僕も出来れば霊力がある事を知られたくはない。それなら僕が精霊師だって知ってるアクア達と巣を壊しに行く方が良いのはわかってるんだ。
(だけど……)
アクア達は“僕”を捜してる。
出てくる時にアレキサンドリートは茶髪茶眼である、っていう嘘の情報は流したけどあれは噂程度のものだから詳細に調べられたら色持たずだった事はバレてしまうだろう。
でも色持たず、精霊師、この2つでベリルとアレキサンドリートが同じ人間だとバレてしまう可能性は高くない筈。アレキサンドリートが無能力だというのはどこから調べられても大丈夫なようにしてきたから。
結局誰が捜しているのか、何で捜しているのか、どちらも答えては貰えなかった。“他人”が理由をしつこく問い質すのもおかしな話だろうから食い下がれないし、モヤモヤして気持ち悪い。
でもこれ以上断り続けるのも不審だろうか。
「……後から何か要求されても応えられないけど」
「疑り深いなぁ~。そんな事しないって」
黙々と食べ続けるイグニスはこの話に参加する気はないらしい。というかどれだけ食べるのこの人。鍋殆ど一人で食べた気がするんだけど。アクアと並ぶと拳1つ分イグニスの方が高いのはこれが理由だったりするんだろうか。色持たずの精霊師は特に中性的になりやすいからか、僕は二人の肩辺りまでしかなくてちょっと凹む。
「心配なら書面に残すか?」
「羊皮紙なんて高価な物ここにはないよ」
「だったら口約束で悪いけど、信じてもらうしかないな」
「……わかった。じゃあ、巣を壊すの手伝って」
満足げに頷いたアクアがイグニスに食べ尽くされた鍋に追加で具材を頼んでくれて僕とアクアも鍋にありつけたけど、食べきれなかった分は全部イグニスが食べた。あの胃袋どこか別次元に繋がってるんじゃないの。
◇◇
きっちり自分の食事代を机に置いて帰ったベリルを見送り、イグニスと部屋に戻る。2階の宿泊施設は狭く使い込まれた古臭い臭いがしているけれど、清潔なシーツやゴミ1つ落ちていない様は手入れが行き届いている事を窺わせる。小さな村だからそう客は多くないだろうにきちんと清潔さを保つのはこの村の人々が真面目な気質だからだろう。
男達は真面目に畑仕事や力仕事をこなし、女達も日々元気に森の恵みを集めに行ったり家事をしたり、争いごとの少ない良い村だ。
「やはり彼がアレキサンドリートでしょうか」
「……名前を出した途端に酷く動揺した気配があったな。本人は隠しているつもりだっただろうが」
口調も仕草も動揺を出さないように気を張りつめた気配があった。それとなく理由を聞こうとしつつもあまりに食いつけば不自然になるとわかって引いた時には、今まで以上の壁が出来ていた気がする。
「それに彼は色持たずだった」
風に当たると外に出たベリルは周りを警戒して、人目につかない所でようやくローブを脱いだ。普段隠密行動の多いアクアにとって気配を消すのは朝飯前だ。まさか屋根の上から見られているとは思わなかっただろう。
ローブを脱いだ下に隠されていた真っ白な髪は腰辺りまであり、夜風にさらさらと靡いていた。精霊師は髪の長さが霊力に影響すると信じられている為髪を伸ばすのが一般的だ。
日に当たれば火傷になる程白い肌が闇の中でも一際目立つ。瞳の色は見えなかったけれど、色持たずの彼の瞳は赤い筈。
「彼がアレキサンドリートならば精霊師である事を黙っていた?」
「何の為だ?色持たずの精霊師なんて希少な存在、少なくともこんな辺境で畑を耕すより良い暮らしが送れる筈だが」
エゼルバルド伯爵に何か問題があるのか。否、元から問題だらけの人間である事をアクア達は知っている。しかしアレキサンドリートがエゼルバルド伯爵家から追い出されたのは僅か6歳。たった6歳の子供が何かを察し、意図して父親に自分の能力を隠すなんて事があるのだろうか。
「乳母のカミラ夫人はどうだ?」
「彼女はアレキサンドリートに巻き込まれた形です。伯爵は愛人として囲っておきたかったようですが、奥方が追い出したと」
「彼女がアレキサンドリートの能力を隠すように伝えたという事はないか?」
「それはないでしょう。貴族の家から子供が追い出されるとはどういう事か彼女自身わかっている筈」
「乳母の近くに本人もいるかと思うが……カミラ夫人も名前を変えているようだな」
二人共途中までの足取りは追えたが、そこからどこへ向かったのか全く足取りが掴めない。11年も前の話を詳細に覚えている人物もいないし、名前を変えられては元から姿を知らないこちらとしては不利だ。
「本人がエゼルバルド伯爵家から逃げているなら都合が良い。もしベリルが本当にアレキサンドリートだったとしたら、あの伯爵が黙っているわけないしな」
「本当に色持たずの精霊師ならば呼べるのが光の下級精霊だけの筈がないですしね」
彼が捜している人物なのかどうかはわからないけれど、この国での精霊師達の扱いを考えれば早急に手を打たなければならないだろう。
「何にせよ、一度保護する必要はありそうだ」
「不審者は脱却してないようですが」
「言うな。……凹む」
確かに僕一人でも、魔力をあんまり持ってない村のみんなとでも魔獣の巣は壊せない。みんなは僕がただ無能力ながら物理に強いから魔獣を倒せると思ってるし、僕も出来れば霊力がある事を知られたくはない。それなら僕が精霊師だって知ってるアクア達と巣を壊しに行く方が良いのはわかってるんだ。
(だけど……)
アクア達は“僕”を捜してる。
出てくる時にアレキサンドリートは茶髪茶眼である、っていう嘘の情報は流したけどあれは噂程度のものだから詳細に調べられたら色持たずだった事はバレてしまうだろう。
でも色持たず、精霊師、この2つでベリルとアレキサンドリートが同じ人間だとバレてしまう可能性は高くない筈。アレキサンドリートが無能力だというのはどこから調べられても大丈夫なようにしてきたから。
結局誰が捜しているのか、何で捜しているのか、どちらも答えては貰えなかった。“他人”が理由をしつこく問い質すのもおかしな話だろうから食い下がれないし、モヤモヤして気持ち悪い。
でもこれ以上断り続けるのも不審だろうか。
「……後から何か要求されても応えられないけど」
「疑り深いなぁ~。そんな事しないって」
黙々と食べ続けるイグニスはこの話に参加する気はないらしい。というかどれだけ食べるのこの人。鍋殆ど一人で食べた気がするんだけど。アクアと並ぶと拳1つ分イグニスの方が高いのはこれが理由だったりするんだろうか。色持たずの精霊師は特に中性的になりやすいからか、僕は二人の肩辺りまでしかなくてちょっと凹む。
「心配なら書面に残すか?」
「羊皮紙なんて高価な物ここにはないよ」
「だったら口約束で悪いけど、信じてもらうしかないな」
「……わかった。じゃあ、巣を壊すの手伝って」
満足げに頷いたアクアがイグニスに食べ尽くされた鍋に追加で具材を頼んでくれて僕とアクアも鍋にありつけたけど、食べきれなかった分は全部イグニスが食べた。あの胃袋どこか別次元に繋がってるんじゃないの。
◇◇
きっちり自分の食事代を机に置いて帰ったベリルを見送り、イグニスと部屋に戻る。2階の宿泊施設は狭く使い込まれた古臭い臭いがしているけれど、清潔なシーツやゴミ1つ落ちていない様は手入れが行き届いている事を窺わせる。小さな村だからそう客は多くないだろうにきちんと清潔さを保つのはこの村の人々が真面目な気質だからだろう。
男達は真面目に畑仕事や力仕事をこなし、女達も日々元気に森の恵みを集めに行ったり家事をしたり、争いごとの少ない良い村だ。
「やはり彼がアレキサンドリートでしょうか」
「……名前を出した途端に酷く動揺した気配があったな。本人は隠しているつもりだっただろうが」
口調も仕草も動揺を出さないように気を張りつめた気配があった。それとなく理由を聞こうとしつつもあまりに食いつけば不自然になるとわかって引いた時には、今まで以上の壁が出来ていた気がする。
「それに彼は色持たずだった」
風に当たると外に出たベリルは周りを警戒して、人目につかない所でようやくローブを脱いだ。普段隠密行動の多いアクアにとって気配を消すのは朝飯前だ。まさか屋根の上から見られているとは思わなかっただろう。
ローブを脱いだ下に隠されていた真っ白な髪は腰辺りまであり、夜風にさらさらと靡いていた。精霊師は髪の長さが霊力に影響すると信じられている為髪を伸ばすのが一般的だ。
日に当たれば火傷になる程白い肌が闇の中でも一際目立つ。瞳の色は見えなかったけれど、色持たずの彼の瞳は赤い筈。
「彼がアレキサンドリートならば精霊師である事を黙っていた?」
「何の為だ?色持たずの精霊師なんて希少な存在、少なくともこんな辺境で畑を耕すより良い暮らしが送れる筈だが」
エゼルバルド伯爵に何か問題があるのか。否、元から問題だらけの人間である事をアクア達は知っている。しかしアレキサンドリートがエゼルバルド伯爵家から追い出されたのは僅か6歳。たった6歳の子供が何かを察し、意図して父親に自分の能力を隠すなんて事があるのだろうか。
「乳母のカミラ夫人はどうだ?」
「彼女はアレキサンドリートに巻き込まれた形です。伯爵は愛人として囲っておきたかったようですが、奥方が追い出したと」
「彼女がアレキサンドリートの能力を隠すように伝えたという事はないか?」
「それはないでしょう。貴族の家から子供が追い出されるとはどういう事か彼女自身わかっている筈」
「乳母の近くに本人もいるかと思うが……カミラ夫人も名前を変えているようだな」
二人共途中までの足取りは追えたが、そこからどこへ向かったのか全く足取りが掴めない。11年も前の話を詳細に覚えている人物もいないし、名前を変えられては元から姿を知らないこちらとしては不利だ。
「本人がエゼルバルド伯爵家から逃げているなら都合が良い。もしベリルが本当にアレキサンドリートだったとしたら、あの伯爵が黙っているわけないしな」
「本当に色持たずの精霊師ならば呼べるのが光の下級精霊だけの筈がないですしね」
彼が捜している人物なのかどうかはわからないけれど、この国での精霊師達の扱いを考えれば早急に手を打たなければならないだろう。
「何にせよ、一度保護する必要はありそうだ」
「不審者は脱却してないようですが」
「言うな。……凹む」
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