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第一章 異世界に来ちゃった

何てものかけてくれたんだ

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「彼を大神殿の外に出すまでここは騎士団預かりとなる。早急にこの部屋を出ていけ」

 銀髪の人以外の騎士さん達にも刃を向けられ、神官長と呼ばれた眼鏡の男はもう一度舌打ちすると荒い足取りで部屋を出ていった。
 ドスドスとした足音を立てる神官長の後ろを慌てて追いかけていく他の仲間達の姿も見えなくなった頃、ようやく銀髪の人から威圧感が消える。ローゼンさんの腕にしっかりと抱き締められた俺を振り返った顔は、思った通りあの日見たびっくりする程のイケメンだ。でもその整った顔立ちは、今は痛ましげに歪んでる。

「すまない。恐ろしい思いをさせたな」

 日本人得意の社交辞令で、いやいやそんな、助けに来て頂いたから大丈夫ですよ、なんて軽口を叩きたかったんだけど。口を開いた瞬間溢れたのは声ではなく涙だった。

「ここ……っ、居たくない……」

 次いで自分の声か?ってくらい弱々しい声が出てしまう。
 だって目の前に突っ込まれかけた太い棒は転がってるし、ビリビリに破られた俺の服は散らばってるし、体はぬるぬるで気持ち悪いし。そう思ったらまた気持ち悪くなって

「おぇ……っ」

 もう出すものもないのか何も出てこないのに何度もえずく俺の背中をローゼンさんが優しく撫でてくれる。あの夜と違ってグローブをはめた手は粗い布の感触がしてて、マントごしでもちょっと痛いんだけどそれでもその優しさにボロボロと涙が溢れて止まらない。

「団長」

「パルティエータ」

 ローゼンさんの一言に頷いたイケメン団長さんは、戸口で外を警戒してた騎士の人を呼んだ。
 振り返ったその人はウェーブのかかった鮮やかな赤い髪。両耳には沢山のピアスがついていて、団長さんより頭1つ分背が高い。キリッ、とした切れ長の鋭い榛色はしばみいろの瞳で俺を見下ろして……

「あらら、貴方大丈夫?そんなに泣かないで。もう大丈夫よ」

 絶対裏声だよな……という高めの甘ったるい声で話しかけられて思わず涙が引っ込んだ。見た目と口調のギャップが半端ないんですけど。

「ワタシのローブも貸してあげるから今すぐここから出ましょうね」

 バチン!と音でも出そうな見事なウインクを決められて、そう言えばこの人だけ他の人と違って軽装備の上にローブをはおってるな、とぼんやり見上げる。

「ホントにオメメ黒なのね~」

とか

「あら貴方お肌ツルツルね~」

 なんて言いながらテキパキと全裸の俺をくるんでくれて……これはいわゆる簀巻きでは……?という状態になった所で、うん、と1つ頷いた。
 何だかその見た目とのギャップとかふんわりした口調とかで張りつめてた体から力が抜ける。

「あとはローのマントを頭から被せたら完璧よ。さ、早くこんなところから出ましょ」

 ロー?と首を傾げるとローゼンさんが一旦床に置いていた自分のマントを俺の頭から被せてくれた。そうか、ローゼンさんのローなのか。ん?副長のローゼンさんを愛称で呼ぶなら、この人はローゼンさんより上の立場の人……?それとも特別な関係の人?
 ほら行くわよ、と先に立って手招きしているパルティエータさん?に次いで、ローゼンさんが俺を抱いたまま立ち上がる。じゃらじゃら鳴る鎖にびくつく俺に気付いたのか、

「そろそろ拘束具を外せる軍医が戻ります。もう少しだけ我慢してくださいね」

 眉毛ハの字にして申し訳なさそうに言うから本音では怖くて気持ち悪くて喚きたい気分だったけど、こくり、と頷いた。
 ふ、と見るとパルティエータさんがイケメン団長さんに何か小声で耳打ちしてる。何だろう、と思ってたけど答えは案外早く訪れた。
 大神殿から出てローゼンさんの腕に抱えられたまま馬に揺られること数分。俺は体の変化に非常に戸惑っていた。
 体が熱い。
 振動が辛い。
 しかも信じられない事に、この状況で、た、勃ってるんだ…!
 な、なんで?なんでこんな事になってるんだ!?さっきまで恐怖でガタガタ震え冷えきってた体は、今や振動でそこが擦れる微妙な刺激でもどかしさに震えている。は、と漏れた吐息が何だか物欲しそうな感じでカァ、と顔が熱くなったのがわかった。
 ホントになんでこんななってるんだ?

「ん……っ」

 また布で勃ち上がった熱の先端が擦れてびくん、と小さく跳ねたせいでローゼンさんに異変を察知されてしまった。

「どうしました?」

「な、なんでも……っ、ぁ……!」

 ちょっとちょっと!今変な風に動かないで!
 布の擦れる刺激だけでもビリビリとした快感が全身を巡って、何もしてないのに既に溢れ出した先走りがつつ、と垂れる感覚にぞわ、と肌が粟立った。

「あ、やだ……っ、なに、これ……!」

 急に止まったローゼンさんを不思議に思ったか、馬首をかえして戻ってきた団長さんとパルティエータさんが「やっぱり」と呟く。ローゼンさんの問いかける視線にパルティエータさんは頬に手を当て困ったように言った。

「……催淫剤を使われてたのよ。でも割りと即効性の物なのにあの時点で効いてる様子はなかったから、早く戻って洗い流したらなんとかなるかと思ったんだけど……」

 さいいんざい…?催淫剤ってあれ?何か良く薄い本とかに出てくる強制的にエッチな気分にさせるやつ?そんなもの実在するの!?というかいつそんなの……あ!!あれか!?あのぬるぬるした変な液体!!そういやめっちゃかけられたし塗りたくられた覚えがあるぞ!

「ど、したら……っ」

 ああ、もう問いかけるその声すら俺の物じゃないみたいに上擦った甘ったるい声。こんなの嫌だ。どうしたらいいんだ。とりあえず抜けばいいのかな?だとしたら早くどこかで一人にさせてくれー!!

「あ……っ、あ、つい……。体、あついぃ~……っ」

「……早駆で戻る。ローゼン、あとは頼んだぞ」

「えっ」

 驚くローゼンさんの声を聞き流して駆けていくイケメン団長さんに続いてパルティエータさんも足早に去っていく。ローゼンさんが動かないとその後ろに続く騎士さん達も動けないみたいで、背後からは馬の蹄の音や怒ったような馬の鼻息が聞こえていて。
 何とかして、と多分声に出てたんだろう。またも驚いたような顔をしたローゼンさんは一旦目を閉じると、すぐキリッとした眼差しを向け

「すぐ着きますのであと少し耐えてください」

 と布ごしに額にキスをしてくれた。
 何それ王子様みたいでかっこいいじゃん……。


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