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第2章 魔王動乱

それぞれの……

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 ご飯を食べ終えてわざわざきっちり用意してくれてた食後のミントティーも飲んで、まったりし始めた頃ラーグ達が部屋にやって来た。オーナーにべったりな僕を見て盛大に顔をしかめたハガルと、複雑そうな苦笑いのラーグがそれぞれ目の前のソファーに座る。
 2人にお茶が用意されたけど勿論僕達は遠慮させてもらった。使用人さん達が悪いわけじゃないけど、もう毒が入ってない、ってわかっててもどうしても信用できないし。

「それでさっきの話ですが……」

 お茶を一口飲んで早速本題に入るラーグに僕が受けてきた仕打ちを話してたんだけど話の途中でハガルが納得がいかない、と声をあげる。

「ウルが毎回毒盛られてたならもう死んでるはずでしょ!」

「そうだね。僕に毒……というか薬剤耐性がなかったらとうに死んでたと思うよ」

 しかも本当に下剤しか盛られてなかったならそもそも薬剤耐性のある僕には効かなかっただろうし。
 
「大体自分が何を盛ってるかわからずにやってたの?自分で用意した薬でしょ?」
 
 未来の王太子妃としてどうなの、それ……。

「違う……あれは……」

 言い淀むハガルに首を傾げる。いつでも傍若無人なハガルでも躊躇することがあるんだ~、なんて呑気に考えてた僕はオーナーが入れてくれたお茶を飲み干すくらいの時間黙った後ようやく口を開いたその言葉にカップを落としそうなくらいびっくりした。

「お父様から……下剤だって……」

 隣のオーナーからドラゴンオーラが噴出してハガルどころかラーグもちょっとビクッとなったけど、とりあえず僕もびっくりしたからやめてください。
 オーナーの手を握ってちらりと見上げたら仕方なさそうなため息と共にドラゴンオーラが引っ込んだ。
 そうそう。オーナーの殺気なんて放たれたら僕も怖いからやめてね。

「どういうこと?」

「……お母様がウルを嫌ってたのは知ってたよ。ウルを殺そうとしてたのも」

 え、嘘。僕は知らなかったわ。まあ殺されてもおかしくない扱いだったけど、まさか本当に殺そうとしてたとは。

「子供の頃、これをウルの飲み物に入れろって小瓶を渡されて……」

 絶対自分で飲むな、と厳しく言われて子供心に危ない薬だと確信したハガルはあのクソ親父に相談に行ったらしい。僕と継母に血の繋がりはないから、血が繋がってるクソ親父なら解決策をくれると思って。
 そしたらクソ親父から似たような小瓶を渡されて、継母から入れろと言われたらこっちを入れるように、って言われたんだって。僕には血糊を渡しておくから大丈夫だって。

「お父様に言われた通りにしたら本当にウルが血を吐いて……びっくりしたから何の薬か、本当に大丈夫なのか訊いたんだ」

 そしたらあのクソ親父はただの下剤だって言ったんだって。僕が吐いてるのも血糊だから大丈夫だって。

「お母様がウルを殺そうとするから、お母様からもらった薬は使わないように、って言って……ウルを守るために毒を盛ったふりをしてる、って言ったんだ」
  
 僕への仕打ちは全部継母から僕を守るため、そう言われてハガルはそれを信じてたらしい。クソ親父やハガルが表立って僕を庇ったらもっと酷い事をするかも知れないって言われて、クソ親父の言う通りにしてた。
 王太子の婚約者だっていう話も僕がその立場にいたら継母も他の貴族も手を出せないからその為なんだって。
 でも卒業パーティーの断罪(笑)劇で周りの雰囲気に合わせながら何かがおかしい、って感じたらしく、パーティーの後でクソ親父に問い質しに行ったら僕は暴漢に汚されたショックでどこかに行ってしまった。自分も捜してる、って言われたそうだ。本来なら婚約破棄騒動の後、僕の本物の婚約者が現れて僕を連れていく手筈だったのに、って。
 鼻で笑っちゃうよね~!用意してたのは婚約者じゃなくて暴漢だったくせに! 

「……結局何が本当なの」

「義母様が僕に何盛ろうとしたか知らないけど、父様が僕に盛ったのは毒だよ。汚された僕に利用価値はないって追い出したのもあの人。……まあ暴漢を用意してたのは知ってたから未遂なんだけど、あの人には汚されたっぽく見せたら普通に追い出されたよ」

 何が目的か知らないけど、僕に毒を盛り続けてたのはハガルを利用したクソ親父だったんだ。

「……じゃあ、ボクはずっと毒を飲ませてたの?」

「そうだよ。僕に毒耐性があって良かったね。知らずに人殺しにならなくて済んだじゃん」

 学園での毒も多分ハガル経由で他の人達に渡ってたんだろう。僕以外に使うやつがいなくて良かったね。もしそんな奴がいたらもっと早くに毒だってわかっただろうけど、代わりに公爵家が他家に毒を盛ったとか言われる所だったもんね。
 そんなヘマしてもきっと家の力で揉み消すんだろうけど。

「……どうして……だって、お父様とウルは……」

「血の繋がりなんて希薄なもの信じてたの?」
 
 ウルがとっくに信じなくなってたそれをハガルは信じてたんだね。それだけ愛されてた証拠なんだろうけど。
 でも……それならどうしてラーグは僕の味方をしてくれるようになったんだろう?

「ラーグはどうして父様達を追い出したの?」

 さっきから反応を見る限りラーグもクソ親父がハガルにやらせてた事を知ってた感じはない。だったらどうしてあのクソ親父を追い出そうと思ったんだろう?

「王弟殿下に隠し子がいらっしゃるのは知ってますか?」

「え、何それ知らない」

 っていうかそんな大事な話こんな所でしても大丈夫?僕とオーナー、お前達は知りすぎた、とか言って殺されない?本当に大丈夫?

「……現王の統治に不満を持つ一部の貴族がその方を担ぎ出そうとしています」

 我が儘放題の王太子、地方の事を蔑ろにしている王、湯水のように国税で贅沢をしている王妃。
 小さな綻びが徐々に大きな穴になって、主に地方を治める貴族達からの反発が増えているらしい。
 アルタメニア公爵家は王家の遠戚に当たるから当然クソ親父は現国王と繋がってる。僕とハガルの偽婚約者騒動もあの2人の悪巧みの結果だし。
 対してラーグは元から王太子の態度や国王の統治に疑問を持ってて、クソ親父の事も嫌ってた。
 
 でも公爵家の息子とは言えまだ何の力もないラーグではどうしようもないと思ってたところに王弟の隠し子から手を組まないかと言われたらしい。
 
「それ……受けたの?」

 完全にフラグじゃん。最後正義の味方に倒されるやつじゃん。

「受けましたよ。――表向きはね」
 
「表向き?」
 
「王弟の隠し子とは言え王弟殿下にすら継承権がないのに、その方が王権を握れるわけがないでしょう。国王陛下も王弟殿下もその企みはご存じですよ」
 
 その企みに乗ったふりをしてまず父親を追い落とした。
 父親は現王派だから邪魔になる、だからラーグが実権を担えるようにその立場をまず奪えって言われたんだそうだ。他の家も似たような事があったみたいだけど、現王にとって邪魔な家はそのまま放置、利がある家は企みに乗ったふりをしろって秘密裏に現王派達が動いてるらしい。
 あの王様嫌いだけど、地方の事とジェラールの事はともかく全くの無能ではない筈だし、いきなりぽっと出の隠し子が王様になって民衆が喜ぶほどの悪政はしてないからね。
 
「ただ父上に関してはいつかはご隠居頂こうと思ってたので丁度良かったです」

 領地の運営は随分前からラーグが担ってて、父親は賭博三昧、母親も王妃と競うように宝石を買い漁って正直領地にとって癌にしかならなかったから。

「……そうなんだ……?」
 
 あのクソ親父偉そうな態度ばっかだったけどちゃんと領地経営くらいはしてると思ってたのにまさかの息子に丸投げ。しかもラーグまだ学生だよ?頭の中お花畑か。
 僕の中では父親は恐怖の対象でしかない。でも実態はただの駄目親父だったなんて……思わずぽす、っとオーナーに寄りかかってしまった。
 
「大丈夫か?」
 
「ん……何か力抜けた……」
  
 沢山殴られた。
 自分でこっそり作れるようになるまで食事はいつも毒入りか残飯だった。
 真冬でも薄手の服しかなくて、その服だってつぎはぎだらけの3枚のみで。人気のなくなった部屋の暖炉からまだ暖かい炭を持ち込んで暖をとるしかなくて、冬が嫌いだった。
 誰かと話をしたくても相手なんかいなくて、前世を思い出してからはウルが話し相手だった。
 クソ親父が来る時は痛い事が起きるから怖くて、なのに隙間だらけの壁から聞こえる、父親がハガルと話してる声は明るくて穏やかでどうして僕とこんなに違うんだろう、って思ってた。
  
 だけどそのクソ親父は自分の仕事さえしてない本物のクソだったって事だ。
 
「お祖父様が優秀な部下を揃えてくれていたおかげで公爵家を傾けずに済みました。父上にはもう何の権限もありません。兄さんが戻りたかったらいつでも戻ってきて良いんですよ?」

「それは断る。僕はオーナーの側が良い」
 
 この家にクソ親父がいなくなったってこの家で起きた事は脳裏に染み付いて離れないんだから嫌に決まってる。
 僕がオーナーの腰にがっしりしがみつくとオーナーも片手で腰を引き寄せてくれた。
 う~ん、この腕のがっしり感。本当に安心する。

「……本当にその方が良いんですね」

 ふ、と寂しそうに言われてそう言えばラーグにキスされてた事を思い出した。ラーグもその時の事を思い出したんだと思う。あの時は申し訳なかったって謝られてしまった。オーナーからまたドラゴンオーラが出たけど手をむぎゅむぎゅ握って引っ込めてもらう。

「あの時ハガルは王太子妃にはなれないって言ってたけど……あれってどういう事だったの?」
 
 ジェラールの廃嫡も表向きだった。だからほとぼりがさめたらその婚約者のハガルはそのまま王太子妃になってた筈。
 
「ボクはナウシズ……例の隠し子の婚約者になってるから」
 
 バカなふりをして現王派を排除したい一派から頭が悪くて利用できそうだと思わせるのが狙いだったんだって。……いや多分半分くらいは本当にバカだったと思うけど、王太子妃の仕事が覚えられなくてやらかしまくってた、っていうのは狙ってやってたんだろう。
 
「公爵家は新王派のふりをしてますが……恐らく近い内に本物の新王派は一網打尽にされると思います」
 
 そのナウシズさんとやら、ジェラールと同じくらいバカで傲慢な駄目人間らしく、だからこそジェラールを傀儡に甘い汁を吸いたかった貴族に目をつけられたんだと思う。担ぎ上げられて調子に乗ってるけど、着々と包囲網が迫ってる事がわかってないらしい。
 王弟殿下……なんでそんな隠し子作っちゃったんですか……。

「スタンレールの内部事情はもうわかった。俺からも聞きたい事があるんだが」

 まあスタンレールの事はスタンレールの方々に何とかしてもらうとして、僕達には関係ない事だもんね。
 ハガルが実はちょっと良いやつだったとかはびっくりしたけど。

「オセル殿の……ウルの本当の母親の日記をパルヴァンの王太子に渡した奴に心当たりはないか?」

「……オセル殿関係の物は全て処分されたと聞いています。……私が生まれる前なので詳しくはわかりませんが……」
 
「……待って。そういえば領地に行く前にお父様が誰かに何か送ってなかった?」

 領地に送る荷物とは別の場所宛の荷物があったっていうハガルに、ラーグがベルを手に取って鳴らす。

「父上が領地に行く前に送った荷物の履歴をすぐ調べて――」
 
 やってきた初老の執事に指示を出し終える直前、大きな揺れが僕達を襲った。



■■■■
 BL大賞、貴重な票を入れてくださった方ありがとうございました。遅々として進まない物語を読んでくださる皆様もありがとうございます。
 そろそろ終盤に差し掛かって参りました。最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。まだ怒涛の夜勤と整わない体調と戦っておりますが完結目指して頑張ります。
 
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