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ラファエロ編
57.愚者の血筋
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からん、と乾いた音が響き、その様をブラマーニ公爵は呆然として見つめていた。
公爵夫人も、ディアマンテも、何が起きたのか分からないといったようにその場で固まっている。
「公爵、分かりませんか?………貴方は自分自身の口から、その瓶の中身が毒だと知っていることを暴露したのですよ?………それも、体内に取り込まなくても、触れただけで死に至る、猛毒であるという事を。これだけ大勢の前ですから取り消しはできませんが………さて、どうしましょうか?」
ラファエロは穏やかな笑顔を浮べながら、莫迦にしたようにわざとらしく肩を竦める。
呆けていたブラマーニ公爵が漸く自らの失態に気がついたらしく、みるみる顔を赤く染め上げてわなわなと震えだした。
「………ふざけるな………、ふざけるな!!」
先程の無様な悲鳴とは違う、強い怒りに満ちた声をブラマーニ公爵は絞り出した。
「………別にふざけてなどいない。私は事実を述べたまでだ」
エドアルドが侮蔑の色を浮かべた眼差しを向ける。
「たった今、この私を謀ったろう!」
ブラマーニ公爵が濡れた髪を振り乱しながら、エドアルドを睨みつけた。
「謀るも何も、勝手に勘違いをして勝手に暴露したのですから、身から出た錆だと思いませんか?」
この期に及んでまだ足掻く公爵に、ラファエロは呆れたように溜息ををついた。
「謀るとは人聞きの悪い………。だが、証拠は他にもある。『銀の夢』が染み付いたブラマーニ公爵家の紋入りの布も希望があれば見せてやるし、その毒の生産地として知られているイズヴェルカ王国からの珍しい客人も、既に公爵領内で身柄を拘束しているから、証人として招いても構わんぞ」
エドアルドは淡々と言葉を紡いでいく。
さっさとこの断罪を終わりにしたいのだろう。
「………貴様、よくもぉぉっ!貴様のようなっ………混血の王などに………!」
声が裏返る事も憚らず、吐き出されたその言葉に、ラファエロは強い怒りを覚えた。
混血の王。
その言葉が出てくる事自体が信じられない。
生母が他国の出身だからと、それを侮辱するなど、貴族としての常識すらも備わっていないとしか思えなかった。
「貴様よりも、この私の方がよっぽど王位に相応しい!我がブラマーニ公爵家は、正統なキエザ王家の………本来王位に就くはずだった王太子を祖としているのだからな!」
根拠のない自信も、結局はその血筋を誇りにしているからこそなのだろうと、ラファエロは納得した。
傲慢で、色事が好きな事で知られ、素行の悪さも目立つ人望のない王太子だったブラマーニ公爵家の祖ティベリオは、己とは真逆だった弟のシルヴェリオの暗殺を画策するが失敗に終わり、廃太子となった人物だ。
そのような人物が祖なのだから、ブラマーニ公爵家が救いようのない愚者の集団となったことも当然といえば当然なのだろう。
「………正統な、王家の血筋が聞いて呆れるな」
嘆息混じりに、エドアルドが呟いた。
「そもそも、ティベリオは素行の悪さが原因で廃太子が望まれていた。そんな人物が、正統な王などとは………まあ、我が父も似たようなものだが………」
自嘲気味に呟くエドアルドに、ラファエロは内心で激しく同意した。
父を見ていると、ブラマーニと自分たちは、遠縁とはいえ、確かに血が繋がっているのだと実感せざるを得なかった。
公爵夫人も、ディアマンテも、何が起きたのか分からないといったようにその場で固まっている。
「公爵、分かりませんか?………貴方は自分自身の口から、その瓶の中身が毒だと知っていることを暴露したのですよ?………それも、体内に取り込まなくても、触れただけで死に至る、猛毒であるという事を。これだけ大勢の前ですから取り消しはできませんが………さて、どうしましょうか?」
ラファエロは穏やかな笑顔を浮べながら、莫迦にしたようにわざとらしく肩を竦める。
呆けていたブラマーニ公爵が漸く自らの失態に気がついたらしく、みるみる顔を赤く染め上げてわなわなと震えだした。
「………ふざけるな………、ふざけるな!!」
先程の無様な悲鳴とは違う、強い怒りに満ちた声をブラマーニ公爵は絞り出した。
「………別にふざけてなどいない。私は事実を述べたまでだ」
エドアルドが侮蔑の色を浮かべた眼差しを向ける。
「たった今、この私を謀ったろう!」
ブラマーニ公爵が濡れた髪を振り乱しながら、エドアルドを睨みつけた。
「謀るも何も、勝手に勘違いをして勝手に暴露したのですから、身から出た錆だと思いませんか?」
この期に及んでまだ足掻く公爵に、ラファエロは呆れたように溜息ををついた。
「謀るとは人聞きの悪い………。だが、証拠は他にもある。『銀の夢』が染み付いたブラマーニ公爵家の紋入りの布も希望があれば見せてやるし、その毒の生産地として知られているイズヴェルカ王国からの珍しい客人も、既に公爵領内で身柄を拘束しているから、証人として招いても構わんぞ」
エドアルドは淡々と言葉を紡いでいく。
さっさとこの断罪を終わりにしたいのだろう。
「………貴様、よくもぉぉっ!貴様のようなっ………混血の王などに………!」
声が裏返る事も憚らず、吐き出されたその言葉に、ラファエロは強い怒りを覚えた。
混血の王。
その言葉が出てくる事自体が信じられない。
生母が他国の出身だからと、それを侮辱するなど、貴族としての常識すらも備わっていないとしか思えなかった。
「貴様よりも、この私の方がよっぽど王位に相応しい!我がブラマーニ公爵家は、正統なキエザ王家の………本来王位に就くはずだった王太子を祖としているのだからな!」
根拠のない自信も、結局はその血筋を誇りにしているからこそなのだろうと、ラファエロは納得した。
傲慢で、色事が好きな事で知られ、素行の悪さも目立つ人望のない王太子だったブラマーニ公爵家の祖ティベリオは、己とは真逆だった弟のシルヴェリオの暗殺を画策するが失敗に終わり、廃太子となった人物だ。
そのような人物が祖なのだから、ブラマーニ公爵家が救いようのない愚者の集団となったことも当然といえば当然なのだろう。
「………正統な、王家の血筋が聞いて呆れるな」
嘆息混じりに、エドアルドが呟いた。
「そもそも、ティベリオは素行の悪さが原因で廃太子が望まれていた。そんな人物が、正統な王などとは………まあ、我が父も似たようなものだが………」
自嘲気味に呟くエドアルドに、ラファエロは内心で激しく同意した。
父を見ていると、ブラマーニと自分たちは、遠縁とはいえ、確かに血が繋がっているのだと実感せざるを得なかった。
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