猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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結婚編

32.お世話

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湯上がりに用意されていたのは、コルセットもパニエも必要ない、シンプルなドレスで、リリアーナが一人でも着れるものだった。
上質なモスリン生地をふんだんに使用してで作られたドレスは相変わらず深緑色で、胸元と袖口に金色のレースがさり気なくあしらわれていた。

そんなドレスの美しさに感嘆しつつも着替えを済ませると、別室でラファエロが顔を出した。

「それにしても、あなたの髪は濡れるとさらに輝きを増して………、まるで朝露を乗せて光る、色付いた果実のようですね。………実に美しくて、ずっとこうして眺めていたくなりますが、あなたが風邪をひいてしまっては大変ですし、名残惜しいですが、乾かして差し上げますよ」

ラファエロはリリアーナの髪を一房手に取ると、うっとりと目を細めてから、丁寧にタオルで髪に纏わる水分を拭き取っていく。

母親譲りのストロベリーブロンドの髪はリリアーナが自慢出来る自らの身体的特徴のひとつだった。
それを詩歌的な美しさで彩られた言葉で褒められるのだから、決して悪い気はしなかった。

しかしそれ以上に、侍女が担うべき仕事をラファエロが行い始めて、リリアーナはぎょっとするほかはなかった。

「そのような事をラファエロ様にやらせる訳には参りませんわ………!自分で出来ますから、どうか…………っ」

リリアーナが抗議の声を上げると、ラファエロは艷やかな笑みを浮かべた。

「別に誰かに迷惑を掛けるわけではありませんし、誰かを貶めたり、苦しめるという訳でもありませんから、なんの問題もないですよね?…………それに何よりも私自身が、こうしてあなたに触れていたいのです」

リリアーナの髪を一房手に取ると、そっとそこに口付けを落とした。

「確かに迷惑を掛けているわけではありませんけれど、ラファエロ様は王弟という立場もございますし…………」

どんなにラファエロの言い分が正しくとも、ラファエロが自ら買って出るような
仕事ではないことくらいは、一目瞭然だった。
リリアーナが困り果てて言い淀むと、ラファエロはやや鋭い視線を投げかけた。

「………今日は黙って私のいう通りにしてください。決して、悪いようにはいたしませんので」

反論を封じるかのようなきっぱりとした口調に、思わず頷いてしまうのだった。
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