猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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結婚編

82.父と娘と婚約者

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「全く、親子揃ってとんでもない野蛮人ね。こんな輩がわたくしの国に出入りしているだなんて………!わたくしに暴言を吐いたこと、せいぜい後悔するがいいわ!」

ふん、と鼻を鳴らすと、ラヴィニアは醜く顔を歪ませた。
そしてドレスの裾を翻すとカツカツと靴の踵を打ち鳴らしながら、部屋を出ていく。
ルカをはじめとしたラヴィニアの付き人達が、慌ててその後を追いかけていくのを、ラファエロは黙ったまま見つめていた。

「………本当に、始末に負えない小娘ですな」

グロッシ侯爵が、忌々しそうに吐き捨てると、ラヴィニアが出ていった扉を睨み付けた。

あれではまるで、聞き分けのない幼子のようだとリリアーナは思った。
褒められれば調子に乗り、自分に都合が悪くなれば不貞腐れるか、癇癪を起こす。
あの年齢の王女であれば、己の感情を殺し、いかなる時でも優雅な立ち振舞いが出来るものだが、ラヴィニアにはそれがないように思えた。

「ええ。おおかた、父親であるオルカーニャ国王に告げ口でもするつもりでしょうね」

ラファエロは目を細めると、憐れむような表情を浮かべたようだった。
その憐れみは、誰に向けられたものなのだろうとリリアーナが思案していると、その視線に気がついたのか、ラファエロがリリアーナを見つめて、ふわりと微笑んだ。

「………さて、兄上達が待っている筈です。そろそろ参りましょうか?」

グロッシ侯爵と話している間も離れることが無かった腕に力を込め直したラファエロがリリアーナに囁く。

「先程は随分と不安を感じていたようですので、先に言っておきますが、この先何があっても、どんな理由があったとしても、公私共に私がエスコートをするのはリリアーナ、あなた唯一人ですからね」

その瞬間、リリアーナの顔が一気に赤く染まった。
やはり、ラファエロはリリアーナが彼の言動に不安を覚えていた事を全て見抜いていたのだ。

その上で、上手くラヴィニアとルカからを引き出そうとしていたのだろう。

「ラファエロ様………」

リリアーナが、花の蕾が綻ぶような笑顔を見せると、ラファエロは安堵したような笑顔を浮かべ、彼女を正面から抱き締めた。
そんな娘達を、グロッシ侯爵は複雑そうな表情で見つめ、静かに部屋を出ていったのだった。
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