猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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結婚編

94.情け

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その途端、明らかにラヴィニアの顔色が変わった。

「そ………そんなことをして困るのはあなた達の方でしょう?それに、わたくしは暴挙と言われるような事などしていないわ!」

焦ったように早口で捲し立てると、破れたドレスを強く握りしめる様子が見えた。

「別にこちらは困りませんよ。どうやら勘違いなさっているようですが、我が国の取り引き相手は別にオルカーニャだけではありません。オズヴァルドをはじめとした周辺諸国との取り引きだけでも十分にやっていけますし、硝子細工や造船については東帝国も興味を示しているようですから、いくらでも売り込む相手はいるのですよ。………寧ろ、我が国と取り引きが出来なくなって困るのは、オルカーニャそちらなのではありませんか?」

己の置かれた立場を未だに理解できていないらしいラヴィニアに向かって、ラファエロは実に堂々とした立場でそう告げた。
つい先程までは怒りで朱く染まっていたラヴィニアの顔が、再び青ざめていく。

「そ………そんなことは………っ」
「今まで我々が、何故あなたの振る舞いを我慢していたか、分かりませんか?………あなたの思考回路程度では分からないでしょうね。………歴史あるオルカーニャ王国の顔を立ててさしあげねばならない、というなのですよ」

再び言葉を切ると、ラファエロはリリアーナを伴ったまま一歩だけラヴィニアに近づいた。

「………もう一つ付け加えるとしたら、あなたの国と最も取引のあるグロッシ侯爵に、迷惑が掛からないかと心配していたのですが………」
「たかだかオルカーニャ辺境の小国一つで揺らぐような運営はしておらん」

ラファエロの言葉に、グロッシ侯爵の声が重なった。
オルカーニャは決して辺境でも、小国でもないが、彼にとってみればその程度の相手ということなのだろう。

檸檬酒リモンチェッロなど飲まずとも、グラッパがあれば充分だ。だが、オルカーニャとしては我が領地との取引がなくなれば、自慢の酒を羊か牛の胃袋にでも詰めて売るしか方法が無くなるな」

グロッシ侯爵は心底莫迦にしたように言ってのけた。
別に革に入れて売らなくても、木樽でもいいのではないかとリリアーナは思ったが、敢えて口にすることはしなかった。
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