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新婚編
31.反省と約束
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ラファエロは驚いたようにエメラルド色の双眸を大きく見開いた。
それから一旦口を真一文字に結び、じっとリリアーナを見つめた。
そして困ったようにふっと切なげに微笑みを浮かべるとリリアーナに歩み寄り、そっと彼女の身体を抱き締めた。
「………すみません。少し調子に乗って、意地悪が過ぎてしまったようですね」
気遣うような優しい声を聞いた途端、リリアーナの両目に溜まった涙が次から次へと、まるで堰を切ったように溢れ出した。
「……………っ………」
リリアーナ自身も、どうしたら良いのか分からず、ただなすがままに涙を流し続ける。
そんなリリアーナに、どこからともなくハンカチーフを取り出すと、溢れる涙を丁寧に拭ってくれた。
「あなたを泣かせたかった訳ではありません。ただ、正直に自分の心を明かしてくれないあなたに、もっと素直になって欲しくて………」
ラファエロにしては珍しい、歯切れの悪い物言いだった。
おそらくリリアーナが泣き出した事で動揺しているのだろう。いつもは相手を見据えて話をするのに、視線が彷徨っている。
「………それに、あなたが困る顔が何とも可愛らしくて………。ですが、このような真似は止めにします。私はあなたを傷つけたくありませんから」
ラファエロの言葉に、リリアーナは大いに納得した。
やはり彼は全て初めから分かっていて、自分の反応を見て楽しんでいたのだ。
彼がはっきりとそう口にしてくれたことで、どこか安堵しながらも、文句の一つでも言ってやらなければリリアーナの複雑な心情は収まりそうになかった。
「………それでも、楽しんでいただなんて酷いですわ………」
嗚咽と共に恨み言を零し、リリアーナは上目遣いにラファエロを睨みつける。
するとラファエロは本当に申し訳無さそうに目を伏せると、窓から差し込んだ光が、長い睫毛の影を造り彼の目元を彩った。
「はい、反省しています」
「………本当に?」
「何ならあなたの前に跪き、足に口付けをして許しを乞うのも厭いませんよ」
「…………っ!」
いつの間にか目を開けたラファエロが、天使のような笑顔をリリアーナに見せた。
途端にリリアーナは心臓が跳ね上がり、大きく、早く脈打つのを感じた。
この男はどこまで本気なのだろうか。
いや、黙っていればおそらく、本気でやりかねない。
孤児院の廊下の真ん中で、誰が見ているか分からないような場所で、一国の王弟にそんな真似はさせられない。
リリアーナはふるふると小さく首を振った。
「私はそのようなことは望んでおりませんわ。………ただ、このように私を試して揶揄うような真似はどうかお控え頂きたいだけですの」
未だに視界を潤ませる涙の名残の向こうにいるラファエロを見据え、リリアーナがきっぱりと言ってのけると、ラファエロは頷いた。
「分かりました。神に誓って、このような真似はしませんよ。………その代わり、あなたも私の前では本心を素直に告白してくださいね」
有無を言わせぬ満面の笑顔を向けるラファエロに、リリアーナもまた、しっかりと頷いたのだった。
それから一旦口を真一文字に結び、じっとリリアーナを見つめた。
そして困ったようにふっと切なげに微笑みを浮かべるとリリアーナに歩み寄り、そっと彼女の身体を抱き締めた。
「………すみません。少し調子に乗って、意地悪が過ぎてしまったようですね」
気遣うような優しい声を聞いた途端、リリアーナの両目に溜まった涙が次から次へと、まるで堰を切ったように溢れ出した。
「……………っ………」
リリアーナ自身も、どうしたら良いのか分からず、ただなすがままに涙を流し続ける。
そんなリリアーナに、どこからともなくハンカチーフを取り出すと、溢れる涙を丁寧に拭ってくれた。
「あなたを泣かせたかった訳ではありません。ただ、正直に自分の心を明かしてくれないあなたに、もっと素直になって欲しくて………」
ラファエロにしては珍しい、歯切れの悪い物言いだった。
おそらくリリアーナが泣き出した事で動揺しているのだろう。いつもは相手を見据えて話をするのに、視線が彷徨っている。
「………それに、あなたが困る顔が何とも可愛らしくて………。ですが、このような真似は止めにします。私はあなたを傷つけたくありませんから」
ラファエロの言葉に、リリアーナは大いに納得した。
やはり彼は全て初めから分かっていて、自分の反応を見て楽しんでいたのだ。
彼がはっきりとそう口にしてくれたことで、どこか安堵しながらも、文句の一つでも言ってやらなければリリアーナの複雑な心情は収まりそうになかった。
「………それでも、楽しんでいただなんて酷いですわ………」
嗚咽と共に恨み言を零し、リリアーナは上目遣いにラファエロを睨みつける。
するとラファエロは本当に申し訳無さそうに目を伏せると、窓から差し込んだ光が、長い睫毛の影を造り彼の目元を彩った。
「はい、反省しています」
「………本当に?」
「何ならあなたの前に跪き、足に口付けをして許しを乞うのも厭いませんよ」
「…………っ!」
いつの間にか目を開けたラファエロが、天使のような笑顔をリリアーナに見せた。
途端にリリアーナは心臓が跳ね上がり、大きく、早く脈打つのを感じた。
この男はどこまで本気なのだろうか。
いや、黙っていればおそらく、本気でやりかねない。
孤児院の廊下の真ん中で、誰が見ているか分からないような場所で、一国の王弟にそんな真似はさせられない。
リリアーナはふるふると小さく首を振った。
「私はそのようなことは望んでおりませんわ。………ただ、このように私を試して揶揄うような真似はどうかお控え頂きたいだけですの」
未だに視界を潤ませる涙の名残の向こうにいるラファエロを見据え、リリアーナがきっぱりと言ってのけると、ラファエロは頷いた。
「分かりました。神に誓って、このような真似はしませんよ。………その代わり、あなたも私の前では本心を素直に告白してくださいね」
有無を言わせぬ満面の笑顔を向けるラファエロに、リリアーナもまた、しっかりと頷いたのだった。
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