猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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新婚編

55.運河

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ガレリアの裏通りを抜けて、暫く歩いていくと、周囲の景色は一変した。

「………ここは、運河………ですの?」

眼きっちりと隙間なく整えられた石畳の先に、ゆったりと流れる平坦だが幅広の河が見え、リリアーナは思わず声を上げた。

「ええ。この運河を含めてオズヴァルドの王都には大きな三本の運河が走っていて、王都の市街地をぐるりと取り囲む形になっているんです。細々とした運河は数え切れないほどあるんですよ」

ラファエロはリリアーナをエスコートしながら、ゆっくりと運河に近づく。

「人口の運河ですが、この運河がオズヴァルドの発展を支えた、と言っても過言ではありません。王城の隣りにあるサントスフォルツァ大聖堂のドゥオモで使われている石も、この運河を使って運ばれたそうですよ。そしてこの運河自体の設計も、高名な芸術家が携わった、なんていう言い伝えがあるんです」

いくらここが生母の祖国であり、幼少期を過ごしたといっても、これだけの知識は普通は身に着けないだろう。
それ程までにラファエロがオズヴァルドについて詳しいのは、彼自身の地頭の良さもさることながら、この国に自分のルーツがあるという事を彼自身が誇りに思っているからだろうとリリアーナは感じた。

「………オズヴァルドもまた、キエザと同じく水と縁の深い国なのですわね」

水の上を滑るようにそよぐ風を感じながら、リリアーナはそっと囁く。

「言われてみればそうですね。キエザは海と共に発展した国ですし、オズヴァルドは運河に支えられて発展した国ですから、両国ともに水の国、と言っても過言ではないでしょう」

リリアーナの言葉に、ラファエロが深く頷いた。

「この運河沿いはちょっとした観光名所にもなっているんです。勿論ガレリアに比べれば人出は少ないですけれどね」

確かに、あちらこちらに手を繋ぎながら歩く人や、運河を往く船を眺めながら談笑する人の姿が見られるが、混雑しているという印象はなかった。

「期待を裏切らない、とても素敵なところですわ」

呟きながらゆっくりと辺りを見回すと、運河沿いにも沢山の店が軒を連ねているのが目に入る。
ガレリアとは異なり、こちらの店はどれも雰囲気があり、歴史を刻んできた運河を彩っているようだった。

「ふふ。気に入って頂けて何よりです。でももう少しすると、もっと素敵な景色が見られますよ」
「これ以上に………ですの?」

もう少しすれば日が暮れて来るはずだが、運河沿いの夜景でも見せようとしているのだろうか。

「………それまでの間、ゆっくりと散策でもしていましょう」

ラファエロは再びリリアーナの手を取ると、歩き出した。
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