47 / 166
47.呼び出し
しおりを挟む
私は急いで部屋に戻ると、エブリンに荷造りをお願いした。
エブリンは突然私が討伐隊に加わる事になった対しては驚いていたけれど、すぐさま準備に取り掛かってくれる。
その間に、私は急いでアミュレットを準備することにした。出立は明後日の早朝……ということは今日と明日だけでアミュレットを作らなければいけないということだ。
この前の氷狼討伐の時にアミュレットの元になる木の十字架は沢山手配してあるけれど、それに魔力を込めるのは骨の折れる作業だ。
それでも、戦う人たちを厄災から守れるのなら……。
私は一つ一つ、十字架を手にとって魔力を込めるのだった。
「奥様、根を詰めすぎるのも良くありませんよ」
一心不乱にアミュレットを作っていると、いつの間にかエブリンがお茶を淹れてくれていた。
ほんのりとラム酒の香りが立ち込める。
「……黒焔公爵様からの伝言を預かって参りました。半刻後に私室に来るように、と……」
エブリンが、気まずそうに私にそう告げてきた。
オーキッドかドミニクから、あるいはアデルバート様自身が私にそう伝えろと言ったのだろう。
「……わかったわ」
あの様子だと、お説教でもするつもりかしら。いずれにしても、機嫌を悪くした原因は私なのだから仕方がないわ。
私は静かに溜息をついた。
約束のギリギリの時間までアミュレットを作り、私は急いでアデルバート様の私室へと向かった。
「アデルバート様……?」
ノックをしても、返事がない。しかたなく、私はそっと扉を開くと、中を覗いた。
「……遅い」
低い声が響いた。
「申し訳……ございません……」
遅刻はしていない筈だけれど、待たせていたのならば謝るのが正解だと思う。
ゆっくり部屋の中に入ると、アデルバート様は椅子に凭れ掛かり、長い足を持て余すように組んでいた。部屋の中は仄暗く、燭台の炎だけが静かに蠢いていた。
「何の、御用でしょうか……」
夫婦の居室でも、主寝室でもなくわざわざアデルバート様の私室へ呼び出された意図が分からず、そう尋ねてしまった。
「……本気で、討伐に同行するつもりか」
私の予想通り、まだ昼間の件を引き摺っているようね。……ご自身で好きにしろと仰ったのに、まだ納得していないのかしら。
「……本気でなければ、初めからそんな事を申しません」
「相手は、魔獣などではなく、スネーストルムなのだぞ?」
「勿論承知しております。だからこそ、同行する事に意味があると思ったのです」
私は、真っ直ぐにアデルバート様を見据えた。
エブリンは突然私が討伐隊に加わる事になった対しては驚いていたけれど、すぐさま準備に取り掛かってくれる。
その間に、私は急いでアミュレットを準備することにした。出立は明後日の早朝……ということは今日と明日だけでアミュレットを作らなければいけないということだ。
この前の氷狼討伐の時にアミュレットの元になる木の十字架は沢山手配してあるけれど、それに魔力を込めるのは骨の折れる作業だ。
それでも、戦う人たちを厄災から守れるのなら……。
私は一つ一つ、十字架を手にとって魔力を込めるのだった。
「奥様、根を詰めすぎるのも良くありませんよ」
一心不乱にアミュレットを作っていると、いつの間にかエブリンがお茶を淹れてくれていた。
ほんのりとラム酒の香りが立ち込める。
「……黒焔公爵様からの伝言を預かって参りました。半刻後に私室に来るように、と……」
エブリンが、気まずそうに私にそう告げてきた。
オーキッドかドミニクから、あるいはアデルバート様自身が私にそう伝えろと言ったのだろう。
「……わかったわ」
あの様子だと、お説教でもするつもりかしら。いずれにしても、機嫌を悪くした原因は私なのだから仕方がないわ。
私は静かに溜息をついた。
約束のギリギリの時間までアミュレットを作り、私は急いでアデルバート様の私室へと向かった。
「アデルバート様……?」
ノックをしても、返事がない。しかたなく、私はそっと扉を開くと、中を覗いた。
「……遅い」
低い声が響いた。
「申し訳……ございません……」
遅刻はしていない筈だけれど、待たせていたのならば謝るのが正解だと思う。
ゆっくり部屋の中に入ると、アデルバート様は椅子に凭れ掛かり、長い足を持て余すように組んでいた。部屋の中は仄暗く、燭台の炎だけが静かに蠢いていた。
「何の、御用でしょうか……」
夫婦の居室でも、主寝室でもなくわざわざアデルバート様の私室へ呼び出された意図が分からず、そう尋ねてしまった。
「……本気で、討伐に同行するつもりか」
私の予想通り、まだ昼間の件を引き摺っているようね。……ご自身で好きにしろと仰ったのに、まだ納得していないのかしら。
「……本気でなければ、初めからそんな事を申しません」
「相手は、魔獣などではなく、スネーストルムなのだぞ?」
「勿論承知しております。だからこそ、同行する事に意味があると思ったのです」
私は、真っ直ぐにアデルバート様を見据えた。
5
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる