黒焔公爵と春の姫〜役立たず聖女の伯爵令嬢が最恐将軍に嫁いだら〜

玉響

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59.金色の光

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私はアデルバート様と共に唯一の生存者が寝ているテントへと向かった。衛生兵が手当をしているけれど、目立った外傷は昨日私が施した治癒魔法で治っている。
昨日完全に塞がりきらなかった足の傷に治癒魔法をかけるけれと、やはり反応はない。
随分顔色も悪いように見えた。

「残念ながら、私に出来るのはここまでですわ。あとは、本人の体力次第です」

申し訳ないけれど、私はそう告げた。
力不足もあるけれど、やはり治癒魔法では限界がある。
その時、何故だかイースボル城の温室での出来事が脳裏に蘇ってきた。枯れた草木が私が触れた途端に蘇り花を咲かせた、あの時の記憶だ。
……まさかとは思うけれど、試してみる価値はあるかもしれない。
でも、相手は生身の人間。草木が芽吹いたのとは訳が違うわ。それに、あれはただの偶然。そう、偶然のはず。……だって、私は役立たずの聖女ですもの。
そう思いながらも私は、恐る恐る青年の胸に手のひらを当ててみる。
と。
私の手のひらが淡い金色に光り、テントの中を温かな、優しいそよ風が吹き抜けた。
そして、横たわる青年の体を、私の手から溢れた金色の光が包み込んでいく。
まるで私の中の、生命力を流し込むかのような、そんな感覚に見舞われる。
しばらくすると、金色の光は徐々に小さくなって、やがて私の手のひらに消えていった。

「シャトレーヌ……?」

アデルバート様が、驚愕の表情で私を見つめていた。
テントの中にいた騎士達も同じ表情だ。

「以前、温室で枯れてしまった花に触れたら蘇ったのを思い出しまして……」

私は曖昧な笑みを浮かべた。
やっぱり、あれはただの偶然。そんな奇跡が何度も起こるはずがない。……そんなこと、分かっていたはずなのに、青年が目を覚まさないことに落ち込んでいる自分がいることに気がついたからだ。
どこかで、自分の中に眠る不思議な力を期待していたのかもしれない。……ずっと、自分自身を『役立たずの聖女』と卑下し続けて来たけれど、アデルバート様と出逢ったことで、アデルバート様の為に、役に立ちたいと心から思ったから。

「やっぱり、それは偶然だったみたいです……」

私は慌てて青年の胸から手を離し、立ち上がろうといた、その時だった。

「う……」

微かに、呻き声が聞こえた。
ちょうど、私がこの青年を見つけたときのように。
アデルバート様が、私の隣へと寄り添い、青年を覗き込んだのと同時に、僅かに青年の瞼が動いた。

「おい、しっかりしろ!」
「ん……」

青年の眉が顰められ、そしてゆっくりと瞼が開いていく。
私は、信じられない思いで、その様子を見つめていた。
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