黒焔公爵と春の姫〜役立たず聖女の伯爵令嬢が最恐将軍に嫁いだら〜

玉響

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58.不気味な静けさ

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「シャトレーヌ、お前は先に休め」

不意にアデルバート様がそう仰った。

「え?私はまだ大丈夫ですわ」
「お前、今日だけでかなりの魔力を使っただろう。顔色が悪い。休めるときに休んでおけ」

アデルバート様は鋭い。
加護魔法と治癒魔法を何度も使ったせいで今の魔力は空っぽに近い状態。そのせいでだいぶ体にも負担が掛かっている。
隠していたつもりだったのだけれど………。

「でも、アデルバート様だって……」
「私はこういった討伐の野営には慣れているし、体力もお前とは比較にならん。二、三時間眠れればそれで十分だ。私のことは気にせずに休め」

そう言われてしまうと返す言葉がない。
私は焚火を見つめながら立ち上がった。そして、アデルバート様に近づくと、ぎゅっとアデルバート様に抱きついた。

「分かりました。ではお言葉に甘えさせて頂きますわ」
「ああ、ゆっくり休むがいい」

優しい口づけが、頬に落とされる。
それだけで、私の心は幸福感に満たされるのだった。


「ん……」

騎士たちの足音で目が覚める。まさか、夜襲?
私は慌てて飛び起きた。
でも、単に朝が来て皆が起き出していたということに気が付き、安堵する。
緊張していてなかなか寝付けなかったけれど、いつの間にか、ぐっすりと眠ってしまっていたみたいだわ。
急いで身支度を整える。
今回は討伐隊として来ているため、エブリンは当然同行していない。だから身の回りのことは自分でやらなければいけない。
湯浴みも出来ないので、浄化魔法で身を清めると外からアデルバート様の声がした。

「シャトレーヌ、起きているか?」
「ええ、今参ります」

テントの外へ出ると、雪こそ降っていないけれど、鉛色の雲がどこまでも広がり、嵐の前のような、不気味な静けさが漂っていた。

「体調はどうだ?」
「お陰様で、随分と魔力も回復いたしましたわ」

しっかりと体を休めたお陰で、昨日の夜とは比べ物にならないくらい元気になったと思う。

「シャトレーヌ、悪いがまたあの者に治癒魔法を施してやってほしい」
「もちろんですわ」

リーテの村唯一の生存者。早く回復してくれればスネーストルムについて手掛かりが掴めると、アデルバート様は考えているのだろう。
あれだけの怪我を負っていたし、出血量も多かったから、すぐには回復しないと思うけれど………。
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