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62.私の力

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野営地ここには、少数を残し、ティストの町へ向かう」

アデルバート様は立ち上がった。

「誰か、アルヴァの面倒を見てやれ。シャトレーヌ、お前は私と来い」
「はい」

私はアデルバート様に付いて、テントを後にする。

「あの……黒焔公爵夫人」

突然、アルヴァが私を呼び止めた。

「何かしら?」

私は足を止めて、アルヴァの方を振り返る。

「その……助けて下さって、ありがとうございました。おかしな事を言って、申し訳ありませんでした」

おかしな事って、私を女神と言ったことかしら?
あ、アデルバート様がアルヴァを冷ややかな目で見ているわ………。

「気にしないで。怪我人を治すのは当然の事だもの。まだ万全ではないと思うから、しっかりと体を休めて頂戴」

私はそう言って、微笑むとテントを後にした。


「あの蘇生魔法は、聖女の力か?」

私達のテントに戻ると、アデルバート様がぽつりと呟いた。

「いえ、あれは……以前中庭の温室で、枯れた花に触れたときに突然使えるようになったのですが……。そういえばアデルバート様が大切になさっていたという林檎の木も幹に触れたら息を吹き返しましたが、この力は魔法なのですか?」

アデルバート様は、はっきりと蘇生魔法だと断言した。……やはり、何かご存知なのかしら。

「魔法、だろうな。しっかりと魔力の気配を感じた。……聖女なら、誰でも使えるものではないのだな?」
「ええ。少なくともそのような魔法の存在は私の知識の中にはありません」

私がきっぱりとそう伝えると、アデルバート様は少し考えているようだった。

「因みに昨日の、吹雪はお前が止めたのか?」

そう訊かれると、私は返答に困ってしまう。

「確かにあの時、吹雪が止むように強く願ったのは事実です。そうしたら、突然あのような……。でも、私が止めたのかは分かりませんわ」
「……なるほどな。ついでに訊くが、お前のその髪と瞳の色は、両親譲りなのか?」
「髪の色は、父譲りですけれど、瞳の色はどちらも違いますわ。父は緑、母は茶色い瞳です。私の瞳の色は王都では珍しい色ですが、私の自慢なのです」

蘇生魔法や吹雪のことと、なんの関係があるのかしら。不思議に思いながらも、素直に答えた。

「……そうか。………シャトレーヌ、お前は『春の姫』という名前に心当たりはあるか?」

春の姫。魔法騎士たちが言っていた、黒焔公爵家の成り立ちにまつわるという?
そういえば、アデルバート様に聞こうと思っていてすっかり忘れていたわ。
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