黒焔公爵と春の姫〜役立たず聖女の伯爵令嬢が最恐将軍に嫁いだら〜

玉響

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71.アデルバート様の洞察力

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アデルバート様の掌の上で、ゆらゆらと揺らめく黒の炎は、少しずつ大きくなっていく。
すると、その炎の中に何かが浮かび上がってきた。

「………お前を見つけたのはシャトレーヌだが、その時お前は両足を氷塊で潰されていた。アルヴァ、お前を傷つけたのは、アイスブルーの瞳に白髪の、背の高い若い男ではなかったか?」

アデルバート様の声が、炎の中から聞こえてくる。炎の中には、先程アルヴァを訪ねた時の様子がそのまま映し出されていた。
私は驚いて、その炎を凝視する。

「………これも、アデルバート様の魔法ですか?」
「ああ。本来であれば幻を映し出すものだが、こうして自分の見聞きしたものを見せることが出来る」

流石は、黒焔公爵。火炎魔法においては最高峰の腕前と称されるだけあるわ……。
……でも、アデルバート様はこれを私に見せて、何を伝えたいのかしら。

「……はい、そのとおりです。俺はあの日、村の外に出掛けていて……戻ったのは今朝です。そうしたら村中が氷に覆われていて、慌てて生き残っている人を探そうとしたら、まだ村の中にスネーストルムの残党が残っていて………。俺を襲ったのがその白髪の男です。はっきりと、『スネーストルム』だと名乗っていました」
「……ここだ」

私は訳が分からず、首を傾げた。

「別に、おかしなことは言っていないと思うのですけれど……」

アデルバート様はにやりと笑った。

「アルヴァも、そう思っているだろうな」
「どこに疑わしい部分があるのです?」

アデルバート様は、私をじっと見つめると説明を始める。

「アルヴァは、『あの日、村の外へ出掛けていた』と言っただろう?そして、今朝になって戻ってきたと。………村が襲われたのは、三日前の夜だ。出掛けたのが三日前だったとしても、村がいつ襲われたのかを知ることは出来ない。仮に本当に三日前から出掛けていたとしても、今朝になって戻ったのであれば、あの状況で、三日前に襲撃があったと判断は出来ないだろう?」

なるほど。確かにそれを聞くと納得出来る。たったあれだけの会話からそれを推察するなんて、流石の洞察力だわ。

「それに、今朝はあの猛吹雪だった。どこか別の場所にいたのであれば、あの状況で移動はしない。慣れた道でも危険を伴うからな。それは、この地に住まう者であれば、子供でも知っている事だ」

アデルバート様が開いていた掌をぎゅっと握りしめると、揺らめいていた黒い炎は跡形もなく消え去ったのだった。
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