黒焔公爵と春の姫〜役立たず聖女の伯爵令嬢が最恐将軍に嫁いだら〜

玉響

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82.ラーシュ・スノーデン※若干R18です

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「い………異父兄弟………?」

アデルバート様とラーシュが?
つまり、先代黒焔公爵夫人が、ラーシュを産んだ?
そんな………だって、そんな事………アデルバート様は一言も仰っていなかった。

「アデルバートも不愉快だろうが、俺も同じだ。この体に、エルヴァリグルの血が流れているという事自体、認めたくはない」

私の頭の中はパニック状態だった。
モーリス侯爵令嬢が殺されてしまった事と、今告げられたアデルバート様とラーシュが異父兄弟だという事の二つの衝撃が大きすぎるせいだ。

「で………でも、貴方が真実を言っているという証拠はないわ」

私は深呼吸をし、心を落ち着けてから、何とか平静さを取り戻してラーシュに告げる。
どちらも、確認をすればすぐに分かることなのだから、ラーシュが嘘を吐いている訳ではないのは分かっている。
それでも、動揺しているのをこの男に悟られたくなかった。

「ふん。叫んだのは連れ去られる時だけで、取り乱しもしないか。………流石にアデルバートが惚れるだけあって、度胸がある。………その気の強さもいい。それに、美しいしな」

不意に、ラーシュの瞳に危険な気配が宿ったことに気が付き、私は身構える。
私がいるのは、寝台の上だ。そして、部屋の中には誰もおらず、ラーシュと私の二人きりだ。何よりもここは敵陣の真っ只中。私が泣こうが叫ぼうが、誰も助けには来てくれないだろう。
………これは、最悪の事態だわ。

「………何を、考えているの?」

私はラーシュから少しでも距離をとろうと、寝台の上の方へとずれていく。
緊張しているせいで、喉が張り付き、うまく声が出せない。それに、今にも手足が震えだしそうだ。

「………あいつの母親と同じように、お前を汚したらアデルバートは一体、どんな顔をするんだろうな………」

ラーシュはその端正な顔に、恐ろしい笑みを浮かべた。
それを見て、私は全身に冷水を浴びせられたような気持ちになった。
同時にその言葉から、アデルバート様の母君の身に起こった事が何となく推測できた。
きっと、前黒焔公爵夫人も私と同じようにスネーストルムに攫われ、そしてラーシュの父親に、無理矢理手籠めにされて、ラーシュを産んだのだわ………。
私は、その過去の出来事に胸が痛んだ。
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