黒焔公爵と春の姫〜役立たず聖女の伯爵令嬢が最恐将軍に嫁いだら〜

玉響

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92.一方的な想い(アデルバート視点)

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シャトレーヌはそのまま、意識を失ってしまった。
媚薬が効き過ぎたのか、元々感じやすいのかは分からないが、快感が強すぎたのだろう。
もっと彼女を堪能したい気はしたが、意識のない妻を抱く趣味はない。
私はシャトレーヌを抱き寄せる。
思えば、誰かと床を共にしたのは初めてだ。
夜伽の女を抱いた時は、行為を済ませるとさっさと追い出していた。
温かいその温もりに身を任せ、私は深い眠りについた。

翌朝、目が覚めると腕の中にはシャトレーヌが収まり、規則正しい寝息を立てていた。
私はその様をじっと見つめていたが、暫くすると瞼がゆっくりと持ち上がる。

「目覚めたか」

するとシャトレーヌは驚いたのか顔を赤らめ、呟いた。

「お、お離しください………」
「何故だ?」
「何故って、恥ずかしいですもの………」
「その恥じらう姿が初々しいな」

私はまた襲いたくなる気持ちを抑え、誂うようにそう言った。

「………あの、アデルバート様は結婚を嫌がっていらっしゃったのでは?」

突然、思いもよらぬ質問が投げかけられる。
シャトレーヌにそれを指摘されて、私は何故かそれがとても不愉快だった。私は仕方なく経緯を話す。

「あぁ。妻を娶る気など、全く無かったが陛下が煩くてな。ならば聖女を寄越すのであれば娶ると条件を出した。娶った以上は、責任を持つ。そういう事だ」

絶対に、離さない。その心が手に入らなくても、その身だけでも、命尽きるまで側に置くと決めたのだ。

「………お離し、下さいませ」

何故か、シャトレーヌは目を逸らした。

「………そんなに嫌なら、仕方あるまい」

その態度を見て、合点がいく。
シャトレーヌの意には沿わぬ結婚だったのだろう。
私はシャトレーヌを解放した。
私が一方的に想いを寄せても、シャトレーヌにとっては迷惑でしかないだろう。

「さて、私は仕事がある。お前はゆっくりしているといい。動けるようであれば、誰かに城の中を案内するように言っておこう」

私は己の気持ちを押し殺し、そう告げるとへやを後にした。
シャトレーヌの護衛を命じた副官のドミニクにでも案内をするように言っておくか。
部屋を出ると、シャトレーヌの侍女が待っていた。

「シャトレーヌはまだもう少し休むだろう。頃合いを見て、朝食を用意してやってくれ」
「か、かしこまりました」

侍女の返事を背中で聞きながら、私は足早に鍛錬場へと向かったのだった。
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