黒焔公爵と春の姫〜役立たず聖女の伯爵令嬢が最恐将軍に嫁いだら〜

玉響

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97.素直な気持ち(アデルバート視点)

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私は、私室へとシャトレーヌを連れて行った。

「今回は、シャトレーヌの加護魔法の効果があって、掠り傷一つ負わなかった。………それに、このアミュレットのお陰で、討伐隊は誰一人欠けることなく、帰還出来た。礼を言う」
「・・・それは、私の力ではなく皆様の日々重ねてこられた努力の賜物だと思いますわ」

私は、改めてシャトレーヌに向き直り、礼を述べる。

「今回、このアミュレットが無かったら危なかった」
「これは………」

真っ二つになったアミュレットを差し出すと、シャトレーヌは驚いたように目を見開いた。

「吹雪の中で氷狼と戦った際に、攻撃魔法をまともに食らったのだ。お前の加護魔法とこのアミュレットが私を守り、こうしてお前の元に戻ることが出来たのだ」

それは、世辞でも何でもない、事実だった。
シャトレーヌの力は、非常に稀なだけではなく、素晴らしい実用性を兼ね備えている。………
最も、本人がその価値に気がついていないようだが。
私は、そっとシャトレーヌの頬に触れた。

「私は国王陛下より、何にも替えがたい宝を賜ったようだ………」

それは、私の素直な気持ちだった。
シャトレーヌを返せと、王命を出されたとしても、手放す気は一切ない。

「シャトレーヌ………少しだけ、お前を味わわせてくれ。帰城してお前を見た瞬間、こうして触れたくて堪らなかった」

そう告げて、シャトレーヌの瑞々しい唇に、自分の唇を重ねた。

「ん………」

たったそれだけの行為なのに、心の中が満たされていく。
出来るならば、このまま彼女を組み敷き、離れていた分の、思いの丈をぶつけてしまいたい。
だが、シャトレーヌが我に返ったかのように私を引き剥がすと、湯浴みをさせて着替えを済ませるようにと進言してきた。
私は渋々、シャトレーヌに従う。
彼女は湯浴みこそ手伝ってはくれなかったが、湯上がりの髪を整えたり、身支度を手伝ったりはしてくれた。

「そろそろ広間に向かうとしよう。………その前に」

私は燭台に灯された蝋燭の炎に手を近づける。
翳した手が仄かな光に包まれ、炎を包むのを見ると、シャトレーヌは慌てた。

「アデルバート様、手が………!」

そんな彼女を静止し、手を見つめた。
炎が揺らめき形を変え、やがて炎は一輪の深紅の薔薇になる。
その薔薇を、シャトレーヌの髪に刺した。
その様子の何と美しいことか。私は思わず微笑んだ。
これは、特殊な火炎魔法。使えるのはこの世で唯一人………私だけだろう。何故なら、これは炎の竜の力だからだ。
その魔法で生み出した、私の色の薔薇をシャトレーヌが身に付けると、私の独占欲が満たされていく。

「これでお前の全身が、私の色になったな。………行くぞ」

私はシャトレーヌの装いに満足しながら、彼女をエスコートし、皆の待つ広間へと向かった。
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