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96.氷狼討伐(アデルバート視点)
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討伐は、順調だった。
だが如何せん数が多い。通常氷狼はこのような大規模な群れはなさない筈なのだが………。
火炎魔法と剣術を駆使しながら、氷狼を倒していくが、成獣の雄が多く、一頭を倒すのには時間が掛かっていた。
自分でシャトレーヌと距離を置こうと思ったのにもかかわらず、離れていると想いが募る。
私は苛立ちながら氷狼を相手にしていた。
戦況を伝えに行った者が、シャトレーヌのアミュレットを持ち帰ってきたことで状況は一変した。
アミュレットが身を守ってくれるお陰で随分と戦いやすく、また怪我することもなくなったのだ。
予定より一週間ほど遅れはしたが、私達は無事イースボルへと帰還する事が出来たのだった。
討伐を終えると、私は隊を率いて一目散にイースボル城を目指した。
城のエントランスホールへと入ると、シャトレーヌが階段を降りてきた。
「アデルバート様!!」
そして、人目も憚らずに抱きついてきたのだ。
「シャトレーヌ………無事に戻ったぞ」
「ええ………こうしてお迎え出来る事を嬉しく思います」
どういう心境の変化なのだろう。
私は戸惑いながらも平静を装った。
「少し、痩せたのではないか?心配をかけたな」
「そう………でしょうか。アデルバート様の方が大変な思いをされたと思いますが………」
「私にとっては、戦も日常の一部だ」
私は我慢できずにシャトレーヌを抱き上げた。
周囲で私達を見ていた討伐隊の騎士や使用人達がざわついているが、私は素知らぬ顔をした。
「アデルバート様!皆が見ております!降ろしてください」
「先に抱きついてきたのはシャトレーヌの方ではないのか?」
シャトレーヌは真っ赤になって慌てている。その様がまた、なんとも言えず可愛らしい。
「こほん」
後ろから、咳払いが聞こえて振り返るとオーキッドが生温い笑顔を浮かべて私達を見ていた。
「お二人の仲がよろしいのは大変結構でございますが、宴の用意が整っておりますので、まずは旅支度を解いてきてはいかがでしょう?」
余計なことを。私はオーキッドを睨んだが、オーキッドは気が付かないフリをしていた。
「そうだな。皆もご苦労であった。支度が整ったら広間に集まるように」
「「はいっ!」」
私は皆にそう言い渡し、シャトレーヌに視線を移す。
「………あれくださいそのドレスは………」
シャトレーヌが纏っているのは、深紅に黒の刺繍が施された、凝った意匠のドレス。これは、私の色彩だ。
それに気がつくとたちまち私の心が歓喜に満たされていった。
「あ、あの………これは………」
「………よく、似合っている」
もっと上手い褒め言葉があるはずなのだが、出て来なかった。それくらいに私は、舞い上がっていた。
「あ………ありがとうございます」
恥じらいながらそう答えるシャトレーヌ。
何故、こんなにも美しく、可愛らしいのだろう。
「このまま、美しいお前を眺めていたいが、厳しい戦いを切り抜けた皆を労わねばならん。悪いが、身支度を手伝ってくれるか?」
私がそう声を掛けるが、シャトレーヌはぼうっとしていて反応がない。
「どうした?」
返事をしない彼女の顔を覗き込む。
「いえ、何でも………ありません」
鼻先が触れそうな距離に、ドキリとした。
落ち着け。
私は私自身をそう諭すと、私の部屋へと移動した。
だが如何せん数が多い。通常氷狼はこのような大規模な群れはなさない筈なのだが………。
火炎魔法と剣術を駆使しながら、氷狼を倒していくが、成獣の雄が多く、一頭を倒すのには時間が掛かっていた。
自分でシャトレーヌと距離を置こうと思ったのにもかかわらず、離れていると想いが募る。
私は苛立ちながら氷狼を相手にしていた。
戦況を伝えに行った者が、シャトレーヌのアミュレットを持ち帰ってきたことで状況は一変した。
アミュレットが身を守ってくれるお陰で随分と戦いやすく、また怪我することもなくなったのだ。
予定より一週間ほど遅れはしたが、私達は無事イースボルへと帰還する事が出来たのだった。
討伐を終えると、私は隊を率いて一目散にイースボル城を目指した。
城のエントランスホールへと入ると、シャトレーヌが階段を降りてきた。
「アデルバート様!!」
そして、人目も憚らずに抱きついてきたのだ。
「シャトレーヌ………無事に戻ったぞ」
「ええ………こうしてお迎え出来る事を嬉しく思います」
どういう心境の変化なのだろう。
私は戸惑いながらも平静を装った。
「少し、痩せたのではないか?心配をかけたな」
「そう………でしょうか。アデルバート様の方が大変な思いをされたと思いますが………」
「私にとっては、戦も日常の一部だ」
私は我慢できずにシャトレーヌを抱き上げた。
周囲で私達を見ていた討伐隊の騎士や使用人達がざわついているが、私は素知らぬ顔をした。
「アデルバート様!皆が見ております!降ろしてください」
「先に抱きついてきたのはシャトレーヌの方ではないのか?」
シャトレーヌは真っ赤になって慌てている。その様がまた、なんとも言えず可愛らしい。
「こほん」
後ろから、咳払いが聞こえて振り返るとオーキッドが生温い笑顔を浮かべて私達を見ていた。
「お二人の仲がよろしいのは大変結構でございますが、宴の用意が整っておりますので、まずは旅支度を解いてきてはいかがでしょう?」
余計なことを。私はオーキッドを睨んだが、オーキッドは気が付かないフリをしていた。
「そうだな。皆もご苦労であった。支度が整ったら広間に集まるように」
「「はいっ!」」
私は皆にそう言い渡し、シャトレーヌに視線を移す。
「………あれくださいそのドレスは………」
シャトレーヌが纏っているのは、深紅に黒の刺繍が施された、凝った意匠のドレス。これは、私の色彩だ。
それに気がつくとたちまち私の心が歓喜に満たされていった。
「あ、あの………これは………」
「………よく、似合っている」
もっと上手い褒め言葉があるはずなのだが、出て来なかった。それくらいに私は、舞い上がっていた。
「あ………ありがとうございます」
恥じらいながらそう答えるシャトレーヌ。
何故、こんなにも美しく、可愛らしいのだろう。
「このまま、美しいお前を眺めていたいが、厳しい戦いを切り抜けた皆を労わねばならん。悪いが、身支度を手伝ってくれるか?」
私がそう声を掛けるが、シャトレーヌはぼうっとしていて反応がない。
「どうした?」
返事をしない彼女の顔を覗き込む。
「いえ、何でも………ありません」
鼻先が触れそうな距離に、ドキリとした。
落ち着け。
私は私自身をそう諭すと、私の部屋へと移動した。
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