黒焔公爵と春の姫〜役立たず聖女の伯爵令嬢が最恐将軍に嫁いだら〜

玉響

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100.繋がる心(アデルバート視点)

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私は自室に戻ると、暫く留守にしてもいいように書類を片付ける。
書類に目を通しながらサインをしていくが、どうしても先程の出来事が頭にちらついて集中出来なかった。
思い出すだけで何故こんなにも腹が立つのだろう。
シャトレーヌの言い分は正しいし、寧ろシャトレーヌを討伐に同行させたほうがメリットが大きいことだって頭では分かっている。
それでも心から歓迎できないのは、やはりシャトレーヌに万が一のことがあればという気持ちがあるからだろう。
もう少し、話し合うべきだろうか。

「………オーキッド、そこにいるか」
「はい」
「シャトレーヌに、半刻後に部屋に来るよう伝えておけ」
「かしこまりました」

ペンを置くと、私は今日何度目か分からない溜息をついた。

約束の時間の少し前から、私はもう何も手に付かなくなっていた。
約束の時間丁度に、シャトレーヌは姿を見せた。

「アデルバート様………?」
「………遅い」

別に彼女は遅刻したわけではない。なのにそんな言葉が口をついて出てきた。………これは八つ当たり以外の何物でもなかった。

「申し訳………ございません………」

薄明かりの部屋の中で、シャトレーヌは不安そうな表情を浮かべている。

「何の、御用でしょうか………」

私は静かに尋ねた。

「………本気で、討伐に同行するつもりか」
「………本気でなければ、初めからそんな事を申しません」
「相手は、魔獣などではなく、スネーストルムなのだぞ?」
「勿論承知しております。だからこそ、同行する事に意味があると思ったのです」

私の問いかけに答えるシャトレーヌには、全く迷いがなかった。彼女の菫色の瞳に、揺るがない決心を見て取り、私は意地を張るのをやめた。
立ち上がり、シャトレーヌに近づく。

「………分かった。そうまで言うのであればもう止めはしない。だが、決して無茶はしないと誓え」
「はい」

そう言うと、私はシャトレーヌを強く抱き締めた。

「お前を、危険から遠ざけたいと思うのは、私の我儘なのだろうな」

耳元でぽつりとアデルバート様が呟いた。
そう。自分でも分かっていたのだ。これがただの我儘なのだと。

「アデルバート………さま………?」
「………アデルバート様の背負っているものを、私にも分けてください。夫婦とは、そういうものでしょう?私は、ただ貴方に守られているだけのか弱い存在ではありません」

シャそう言って、トレーヌは私を抱き締め返してきた。

「………っ。そんな事を言われると………」
「んっ………」

抑えが効かなくなりそうで、私はそう呻くと、シャトレーヌに口付けをする。
それと同時にシャトレーヌの着ているワンピースの裾を器用にたくし上げ始めた。

「あ………んっ………」
「お前を前にすると、どうにも気持ちが抑えられん。大切に思えば思うほど、衝動が強くなる」

この世界の、何よりも大切な、愛しい存在。
私を好いていなくてもいい。ただ側にさえいてくれればそれで良いのだ。

「………好きです」

唇を離した瞬間に、シャトレーヌがそう呟いた。

「アデルバート様の事が、好きです」

一瞬、聞き間違いかと思った。或いは、幻聴かと。
今の今まで、私が一方的に、彼女に想いを寄せているだけだと思っていたのだから、よもや彼女が私を好いてくれていたなどとは考えもしなかったのだ。
私は戸惑いを隠せなかった。

「………信じられん………。お前の愛を得られるなど、考えてもみなかった」

そう呟くと、本当に夢ではないのかと、再度シャトレーヌの唇を奪ったのだった。
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