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108.炎の竜と春の姫(アデルバート視点)

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「あの蘇生魔法は、聖女の力か?」

テントに戻ると、私は先程の魔法について、シャトレーヌに問いかける。
だが、シャトレーヌ自身先程の蘇生魔法も吹雪の件も聖女の力ではないと言うし、そもそも魔法だという認識もないようだった。
そして、もう一つ気になっていた事………シャトレーヌの瞳と髪の色が、ラトーヤと同じであるということについて尋ねてみると、やはり瞳の色は遺伝ではないようだ。
瞳の色は、使用できる魔法と関連がある。髪色の一致も、偶然とは思えなかった。
やはり、間違いなくシャトレーヌはラトーヤと同じ、春の女神の加護を受けた『春の姫』に違いない。
私は、改めてシャトレーヌに問うた。

「………そうか。………シャトレーヌ、お前は『春の姫』という名前に心当たりはあるか?」
「名前だけは、耳にしたことがあります。何でもこの土地に伝わる古い御伽噺だとか………」
「御伽噺か。そう捉える者もいるだろうな」

私は、少しだけ皮肉げに顔を歪めた。
御伽噺であれば、どれほどいいことだろう。そう思ったからだ。
私は、ゆっくりと我がグロリオサ公爵家の成り立ちについての話を、シャトレーヌに聞かせた。
スネーストルムの先祖である、スノーデン王国と炎の竜、そしてエルヴァリグル王国の因縁。アルノルト王子が炎の竜を自分の身に封印したこと。そして、春の姫であるラトーヤに出会い、恋に落ちたこと。
………そして、アルノルトの子孫であるグロリオサ公爵家の嫡男は、その身に炎の竜の魂を宿して生まれてくる事、私はその力が強く、感情の昂りと共に残虐性が膨らみ、抑えが効かなくなること。
穏やかな気持ちで話をしていたが、途中でスネーストルムの話を始めた途端に、炎の竜が暴れだした。

「お待ち下さい。今、回復魔法を………」

シャトレーヌは慌てた様子で私を支えてくれた。
シャトレーヌがいる時は、炎の竜は比較的大人しい。恐らくは春の姫の力を感じ取っているのだろう。
しがみつくようにシャトレーヌに縋っていると、少しずつ呼吸が落ち着いていく。

「アデルバート、様?」
「………大丈夫、大丈夫だ………」

私は自身に言い聞かせるように、呟いた。
そして、大きくゆっくりと呼吸すると、今度は私がシャトレーヌを抱き締めた。

「すまない………驚かせたな」
「いえ………まぁ、確かに驚きはしましたけれど………」

煩いほどに、心臓が脈打つ。

「スネーストルムの気配を、私の中の炎の竜本能の部分が、感じ取っているのだ。炎の竜にとっても、スネーストルムは因縁の相手だ。奴らを………スノーデンの生き残りを焼き尽くせと、私の中で暴れて、私を支配しようとする………」

そのままだと、全てか私の中の闇に飲み込まれそうで、私は怖かった。

「………大丈夫です。私は、アデルバート様の『春の姫』なのでしょう?ならば、ラトーヤさんがアルノルト王子にそうしたように、私もアデルバート様が暴走しそうになれば全力で止めますわ。だから、もう怯えなくていいのです」

シャトレーヌは、柔らかな春の陽射しのような笑顔で、微笑んだのだった。
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