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113.母の記憶(アデルバート視点)
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私は、シャトレーヌが今まで立っていた所までたどり着くと、押し黙ったままスヴァルトから降りた。
「………申し訳………ありませんでした………」
ドミニクが、喉の奥から絞り出すような声で、謝罪の言葉を紡ぐ。
「………」
私は、何も返せなかった。
護衛を任せていたドミニクのせいにするのは簡単だ。何故、命を落とす事になってでもシャトレーヌを救わなかったのかと。
だが、あの氷狼に出くわした時にラーシュの罠に気がついていれば、このような事にはならなかったのだ。
………全ては、私自身の甘さが招いた事だ。
ドミニクも、騎士達も何とか事態を打開しようとしていたはずだし、実際敵わぬ相手と分かっていても、ラーシュに刃を向けていた。
「私は、父上と同じく己の力不足で最愛の妻を失うのか………」
私は俯いたまま、呟いていた。
父は、エルヴァリグル屈指の名門侯爵であるセロシア侯爵家の娘を妻に娶った。それが母だ。
私の中の母の記憶は朧気だが、儚く、美しい人だった。
母は、風魔法の名手だった。強い魔力を買われてグロリオサ公爵家へと嫁いで来たが、父と母は仲睦まじい夫婦だったそうだ。
二人が夫婦となって三年後に私が生まれた。
強い魔力を持った私の誕生を、両親はとても喜んだそうだ。
この地において、強い魔力はそのまま敵を退ける力になるからだ。
父は、さほど強い魔力は持っていなかった。それ故に父は母を娶ることになったのだと思う。
それから、私が五歳になるまでは幸せな日々だった。
事態が急変したのは、冬のある日。
イースボル郊外へと出掛けた両親だったが、父の目の前で母はスネーストルムに連れ去られた。
奇襲を掛けたスネーストルムの首領に、父は敗れたのだ。
そして、一年後に母は廃人同様となり戻ってきた。
スネーストルムの首領に辱められ、宿敵の子を身籠り産み落とした母は、その事実に耐えられずに心が壊れてしまったのだと、母を診た医師が言ったのを覚えている。
それから三日後に、母は自ら命を絶ったのだった。
幼い頃は、非力な父を責めた。父にもっと力があったならば母はあの様な目に遭わずに済んだはずだと。その度に父はすまないと私に繰り返し謝罪した。
………今なら父の気持ちが分かる。父とて、母を守ろうとしたのだと。
私は、やり切れない思いを押し込めるように、唇を強く噛んだのだった。
「………申し訳………ありませんでした………」
ドミニクが、喉の奥から絞り出すような声で、謝罪の言葉を紡ぐ。
「………」
私は、何も返せなかった。
護衛を任せていたドミニクのせいにするのは簡単だ。何故、命を落とす事になってでもシャトレーヌを救わなかったのかと。
だが、あの氷狼に出くわした時にラーシュの罠に気がついていれば、このような事にはならなかったのだ。
………全ては、私自身の甘さが招いた事だ。
ドミニクも、騎士達も何とか事態を打開しようとしていたはずだし、実際敵わぬ相手と分かっていても、ラーシュに刃を向けていた。
「私は、父上と同じく己の力不足で最愛の妻を失うのか………」
私は俯いたまま、呟いていた。
父は、エルヴァリグル屈指の名門侯爵であるセロシア侯爵家の娘を妻に娶った。それが母だ。
私の中の母の記憶は朧気だが、儚く、美しい人だった。
母は、風魔法の名手だった。強い魔力を買われてグロリオサ公爵家へと嫁いで来たが、父と母は仲睦まじい夫婦だったそうだ。
二人が夫婦となって三年後に私が生まれた。
強い魔力を持った私の誕生を、両親はとても喜んだそうだ。
この地において、強い魔力はそのまま敵を退ける力になるからだ。
父は、さほど強い魔力は持っていなかった。それ故に父は母を娶ることになったのだと思う。
それから、私が五歳になるまでは幸せな日々だった。
事態が急変したのは、冬のある日。
イースボル郊外へと出掛けた両親だったが、父の目の前で母はスネーストルムに連れ去られた。
奇襲を掛けたスネーストルムの首領に、父は敗れたのだ。
そして、一年後に母は廃人同様となり戻ってきた。
スネーストルムの首領に辱められ、宿敵の子を身籠り産み落とした母は、その事実に耐えられずに心が壊れてしまったのだと、母を診た医師が言ったのを覚えている。
それから三日後に、母は自ら命を絶ったのだった。
幼い頃は、非力な父を責めた。父にもっと力があったならば母はあの様な目に遭わずに済んだはずだと。その度に父はすまないと私に繰り返し謝罪した。
………今なら父の気持ちが分かる。父とて、母を守ろうとしたのだと。
私は、やり切れない思いを押し込めるように、唇を強く噛んだのだった。
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